社説

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷

社説:大戸川ダム 知事連携が流れ変えた

 「一度動き出したら止まらない」と言われた大規模公共事業にストップがかかった。滋賀、京都、大阪、三重の地元4知事が反対していた淀川水系の大戸川(だいどがわ)ダム(大津市)建設である。知事の声に押される形で国土交通省が当面実施しないと判断したのは当然だ。公共事業を巡る国と地方の役割分担を議論し、より対等な関係を築く契機とすべきだ。

 大戸川ダムは1960年代、治水・利水・発電の多目的ダムとして計画された。その後、利水や発電の需要が見込めず、治水単独のダムへと計画が変わった。ところが同省近畿地方整備局の諮問機関・淀川水系流域委員会が「治水効果は限定的」とする意見書を提出し、「まずダムありき」の政策に待ったをかけた。

 それを受け4知事は昨年11月、共同で凍結を求めた。国のダム建設に地元知事が結束してNOを突きつけたのは初めてのことだった。

 ダム凍結を公約にした嘉田由紀子・滋賀県知事が06年に初当選するなどの状況変化に加え、各自治体の苦しい財政事情も背景にあった。ダムの総事業費は約1080億円。その約3割が地元負担である。「教育や福祉の予算を削ってまで、効果が明らかでないダム建設を優先すべきか」と、地方行政の責任者が疑問を抱いたのも無理はない。

 一連の経緯で浮き彫りになったのが、道路やダム、空港など政府が進める直轄事業を巡る国と地方のいびつな関係だ。こうした公共事業は「地方自治体も受益者」という理由で、一定割合で地方に負担が強いられてきた。しかし、必ずしも地元の意向を反映したものでなく、明細も十分に示されてこなかった。

 大阪府の橋下徹知事が09年度の直轄負担金の一部削減を要求、国もそれに応じざるを得なかった。ダム問題などを契機に噴き出した地方の不満を無視できなくなったからだ。

 完成まで何十年もかかるダムは、一度動き出せば止まらない公共工事の典型だ。大戸川ダムでも、整備計画書の本文に「凍結」が明記されていないことを滋賀県知事が警戒している。だが、熊本県の川辺川ダムに地元知事が反対。国交省内にも、全国のダム整備計画を再検討する動きがあるなど、ダム頼りの治水政策を見直す機運は高まっている。

 地元知事らは大戸川ダム問題を「地方分権の試金石」と位置づけていた。上流と下流で利害が相反する河川政策で協調することが、自治能力の証しになるからだ。一方で、大津市や京都府宇治市などダム建設を望む自治体もある。住民の不安を取り除き、納得できる治水対策を示すことが必要だ。専門家集団の地方整備局と一緒に知恵を絞るべきだ。

毎日新聞 2009年4月7日 東京朝刊

社説 アーカイブ一覧

 

特集企画

おすすめ情報