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オバマ演説―核なき世界へ共に行動を

 「米国は、核保有国として、そして核兵器を使ったことがある唯一の核保有国として、行動する道義的責任がある」。オバマ米大統領がプラハで行った演説の一節である。

 広島、長崎への原爆投下から今年で64年。米国大統領が「道義的責任」を語り、核廃絶への決意を表明した。被爆国の国民として、「核のない世界」を目指し、時代の歯車を回そうという呼びかけを重く受け止めたい。

 この演説の直前に、北朝鮮がミサイル発射を強行し、世界に冷水を浴びせた。だからこそ「核の脅威に対応するため、より厳しい新たな手法が必要だと改めて思い起こした」というオバマ氏の言葉に共感する。

 核廃絶の中心になるのは、核不拡散条約(NPT)体制の強化である。NPTは、米ロ英仏中の5カ国を核兵器国として認め、他国には核兵器の保有を禁じている。それでも多くの非核国が加盟してきたのは、NPTが核兵器国に「誠実に核軍縮交渉を行う義務」を課しているからだ。

 オバマ氏はロシアのメドベージェフ大統領と、核兵器を大幅削減する新条約を年内に締結すると合意した。来年にはNPT再検討会議も開かれる。米ロが真剣に核軍縮に取り組めば、インド、パキスタン、北朝鮮などに非核化を求める立場を強めることになる。

 オバマ氏は、ブッシュ前政権がストップをかけていた包括的核実験禁止条約を批准し、さらに兵器用核分裂物質の生産禁止条約の交渉開始を目指すと明言した。条約発効までには多くの困難が予想されるが、米国が先頭に立てば打開の道は開けるはずだ。

 オバマ氏は核兵器が存在する限り抑止力は維持するとしながらも、「米国の安全保障戦略の中での核兵器の役割を減らす」と宣言した。大量の核保有を正当化してきた軍事戦略を修正するということだ。中国を含む他の核保有国も、同じ検討に着手すべきだ。

 核兵器は存在そのものが、危険だ。オバマ政権がそう考える背景には、核テロが差し迫った脅威になったという認識がある。その対策としてオバマ氏は、核テロを封じるための国際機関の創設、核物質を安全な管理下におくための体制づくり、核の安全管理に関する首脳会議、などを提案した。

 こうした手段を尽くしても、核廃絶への道は険しい。「私が生きている間は不可能だろう」とそのことを認めたオバマ氏だが、しかし、「あきらめることは簡単で、そして臆病(おくびょう)なことだ」と、行動への決意を強調した。

 日本にとっても「あきらめる」という選択肢はない。オバマ政権が打ち出した核廃絶構想に、同盟国として協力できることは多い。「核のない世界」を実現する政策を、日本からも発信していきたい。

アフガン支援―世界を待ち受ける多難

 軍事だけでなく、民生支援や外交にも力点を置いてアフガニスタンの安定を目指す。米オバマ政権が打ち出したこの「包括的新戦略」に沿って、国際社会が動き出した。

 オバマ大統領が出席した北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議は、新戦略に支持を表明し、米国以外からも5千人の兵員を増派することなどを決めた。8月のアフガン大統領選の治安対策や、アフガンの国軍と警察の強化を支援するためだ。

 これに先立ちオランダで、アフガン支援問題を協議する閣僚級の会議が開かれた。参加した86の国と国際機関の多くは米国の新戦略を支持した。米国と長年対立してきたイランも外務次官を派遣して米高官と接触し、会議で隣国アフガンを供給源とする麻薬の対策などへの協力を約束した。

 ロシアや中国、中央アジアなど、アフガン周辺国でつくる上海協力機構も、アフガンからの国際テロの拡散防止や麻薬対策について、NATOと協力を進める方針を打ち出している。

 新戦略への支持の足並みはそろった。具体化に向けて、国際社会が一歩を踏み出したことも評価したい。

 だが、現実は決して楽観できない。

 各国、国際機関の取り組みはまだまだ不ぞろいだ。オバマ氏は米軍の大幅増派を決めたものの、独仏など欧州側にはさらなる増派に慎重論が根強い。イスラム原理主義勢力タリバーンや国際テロ組織アルカイダの攻勢が激化して、兵士の犠牲が増えているからだ。

 NATOが増派するうち、3千人の駐留期限は大統領選までだ。大統領選と国軍の強化でアフガンを安定させ、早期の撤退を実現したいという「出口」を思い描いての施策という色彩が濃い。

 またNATOは、新戦略が一体として扱うとしたパキスタンについて、具体的な支援策を明らかにしていない。

 タリバーンやアルカイダが拠点とするパキスタンの部族地域への対策も見えてこない。米軍などの増派が治安の改善につながるかどうかは依然、不透明だ。

 米政権はタリバーン穏健派との対話方針も打ち出している。しかし、外国軍の駐留に反対するタリバーンは拒否の姿勢を崩しておらず、対話の場に引き出す手だても浮かばない。

 米国や日本、NATOなどは追加の民生支援を表明しているが、治安の安定が進まなければ、民生支援も簡単ではない。

 アフガン問題は、国際社会が連携を強めつつ息長く取り組むほかはない。日本は農業開発や警察の再建などで、大きな役割を果たしてきた。今月、日本政府が主催するパキスタン支援の国際会合などを通じ、民生面を中心とした貢献を積み重ねていくべきだ。

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