架空世界-Fiction

アリス】 Alice

  ややウェーヴのかかった長い金髪の少女となれば、不思議の国や鏡の国で冒険を重ねたアリスが真っ先に思い浮かびます。
  この冒険をした時のアリスは、たった七歳(と十か月)。今でいえば小学校の一年生か二年生という年頃ですが、ヴィクトリア朝の良家のお嬢さんらしく、学校に行くかわりに家庭教師について学んでいたようです。
  アリスは何でも自分で説明をつけてみなければおさまらない、知的好奇心の活発な少女であり、よく躾けられた小さな淑女でもあります。そして、アリスのモデルであったアリス・リドルがルイス・キャロルことチャールズ・ラトウィッジ・ドジソンにとってそうであったように、少女アリスは全ての読者にとって永遠の小妖精なのです。
  さて、この「永遠の」という部分が問題です(^^;。ゲーム上では、まず「真・女神転生」で六本木の結界の中心となっている少女の幽鬼(幽霊)として現れますが、幽鬼……死者は、文字通り、”これ以上年をとらない者”と考えられます。そして、街に張られた結界は、まさしくアリスの夢の世界なわけです。尤も、死せる少女のために悪魔が創り上げたものであれば、暗黒に彩られているのは当然の事でありましょう。

アンドロメダ】 Andromeda

  ギリシア神話の登場人物であるはずのアンドロメダが何故こちらで説明されるのか。それは、ゲームに登場するアンドロメダが〈ウィルス〉に分類されているからです。ウィルスが”なんらかの異変を引き起こすもの”であるとすれば、すみやかにこの作品が連想されます。すなわちマイクル・クライトンの『アンドロメダ病原体』 ( THE ANDROMEDA STRAIN )。1969年に小説が発表され、翌々年、同じタイトルで映画化されました。日本には映画、小説とも前述のタイトルで紹介されています。
  アンドロメダ病原体、正確に原題を訳すとアンドロメダ菌株になるのですが、これは地球外からやてきた異質な生命体です。アメリカ合衆国の宇宙生物採取計画によって採取された岩塊に付着していた微生物が、事故で衛星ごと地表に落下し、運悪く病気として周辺に拡大しました。一見緑ですが、成長する時に紫色に光ります。地球上の生命と異なり、アミノ酸は全く持ちません。従って蛋白質も酵素も持ちません。一単位は正六角形の結晶構造の微生物です。
  病気としては、空気感染し、大半の人間はほとんど即座に血液が一滴残らず凝固して死にます。何らかの原因で凝固が妨げられた場合は脳内出血を起こさせるため、その人間は発狂します。
  なお、「アンドロメダ菌株」とは便宜上この微生物に与えられたコードネームであり、特にアンドロメダ星雲を発生源とするわけではありません。

キャリー】 Carrie

  英語の女性名キャロライン Caroline などの愛称にあたります。しかしながら、単にキャリーと言った時に思い出すのは、ホラー映画の『キャリー』ではないでしょうか。ゲーム上では「ペルソナ」に幽鬼として登場しますが、その絵も白いドレスに金髪の少女の幽鬼で、この連想を裏付けるものです。
  映画『キャリー』はスティーヴン・キングの同名の処女作を原作としており、主人公の名がそのままタイトルになっています。
 * このキャリーの本名はキャリエッタ・ホワイトであり、キャリエッタはキャロラインと同種の名前にあたります。
  主人公キャリーは母子家庭で根本主義派のキリスト教の一派の狂信者であった母親に育てられた16歳の、ぶかっこうで吹き出物だらけの女生徒でした。内向的で肉体的にもある意味で成長が遅く、のろまで……いじめられっこでした。世界中のどこにでも、こんな境遇の少年少女はいるかもしれません。ただ、キャリーがその中できわだっていた事は、潜在的に念動力を持っていたという事です。宗教的信条のせいでセックスに異常なほどの嫌悪感を持っていた母親のせいで、キャリーは何の性知識も与えられず、この点でも抑圧された状態にありました。つまり、念動力が発現しやすい状況が揃っていたというわけです。
  それは彼女の初潮をきっかけにほとんどコントロール不能の状態で発現し始め、ダンスパーティーの夜に最高潮に達しました。それは彼女にとっておそらく一生で一番素晴らしかった夜で、手製のドレスを着たキャリーは、誰もがはっとするほど綺麗に見えました。ところが、彼女を苛めた事が原因で処罰された女生徒の逆恨みから、パーティーの席上で全身に豚の血を浴びせられたキャリーの念動力は暴走し、会場に火事を引き起こします。それは町全体を巻きこむ大火となりますが、茫然自失して本能的に帰宅したキャリーは、娘に兆した反抗を許さぬ母親の手で重傷を負わされ、逆に母親の心臓を止めてしまいます。しかしながら、自身もその傷がもとで死んでしまうのです。
〔参照〕 ポルターガイスト

ジャバウォーク】 Jabberwock

  スペルから察するにジャバウォック、の方が表記としては良いと思われます。これは『鏡の国のアリス』冒頭近くに登場する『ジャバウォッキー』なる詩に登場する怪物で、燃えあがるような目に鋭い鈎爪、噛み付く顎を持っていると表現されており、詩の主人公が仇として討ち果たすべきものです。テニエルやニューエルといった有名なアリスの挿絵画家は、ほぼワイバーンに似た生き物として描いています。

スキャナー】 Scanner

  字義通りには「走査するもの」という意味で、一度だけ、「真・女神転生 I 」にメシア教徒の一種として登場しました。画像も、両眼のあたりに手を添えて、何かをじっと見つめているような姿に見えます。
  見る、という言葉は英語でも幾つもあり、watch や see があるわけですが、watch ならば見張りをするという意味を含み、see は未来や遥かな遠くをみる霊視の意味でも用います。なのに、何故このメシア教徒はスキャナーと呼ばれるのでしょう。
  答は、コードウェイナー・スミスの短篇『スキャナーに生きがいはない』(『鼠と竜のゲーム』所収 早川書房)あるように思われます。「人類補完機構」シリーズと呼ばれるコードウェイナー・スミスの宇宙では、スキャナーとは星間旅行をするために必要な特殊な能力を持つ人を指します。つまり、航行を安全に行うため、乗員や空間の様子を不断で走査し続けるため、手術によって五感を遮断し、走査する能力を得た人々です。その代償の大きさゆえに彼らは大変尊重されていました。
  つまり、肉体的な代償をはらって、一種の超感覚を得た者。これをスキャナーと呼んでいるのではないか、と考えます。
  但し、コードウェイナー・スミスの描いたスキャナーは、機械的なものを肉体に加えたサイボーグでしたが、画像ではそういった特徴は見あたりません。とはいえ、肉体の状態を改変して超感覚を手に入れるもっと安易な方法もあります。すなわち麻薬のような薬剤を使う方法です。これをテーマにした小説も当然、いろいろ書かれています。最も有名なものとしてはフランク・ハーバートの『デューン』シリーズ(早川書房)があげられるでしょう。その主人公達は、メランジと呼ばれる特異な薬物を用いて意識を拡大し、あり得べき未来を走査しました。また、時代としてはずっと後になりますが、日本では大友克洋が漫画及びアニメーション映画『AKIRA』で、同様の主題を扱っています。
 『暗闇のスキャナー』 フィリップ・K・ディック(創元SF文庫)

ナジャ】 Nadja

  詩人ブルトンがパリの街角で出会った少女。透視力と予見の力を持ち、ブルトンのシュールレアリスム観に大きな影響を与えました。現実の存在でありながら、森の妖精のように自由な少女ですが、結局ブルトンはナジャを恋人とする事はできず、かわりに『ナジャ』と題する散文を上梓しました。

ビリケン】 Billiken

  1908年にシカゴの美術展に出品された裸像で、当時の大統領タフトの愛称にちなみ、名づけられたそうです。日本には1910年にやってきました。ラッキーを呼ぶもの、すなわちマスコットとして紹介されたのですが、金運招福の縁起物として主に花柳界で人気を呼んだという事です。
  通天閣にあるものが日本では有名だそうですが、頭の尖った子供のようなこの形、どことなく、ビルマの幸運の霊、ナッツに似ています。

フランキー】 Franky

  外見などからして、いわゆるフランケンシュタイン、すなわち「フランケンシュタインの怪物」であろうと推察されます。この怪物はしばしば、フランケンシュタインと呼ばれますが、実際には名前はなく、これを創り上げた男の家名がフランケンシュタインというのです。すなわち、ヴィクトル・フランケンシュタイン。ジュネーヴの名家の長男で、十代の頃は錬金術に傾倒し、後にインゴルシュタットの大学で科学の使徒となった青年です。そういう学歴のためか、彼は自分の手で生命を創り上げるという着想にとり憑かれたようになって、屍体や屠殺場で手に入るもの(といえば、おそらく家畜の死骸からとられたものでしょう)から、逞しい人間に似たものをこしらえあげたのでした。
  本来の意図とは異なり、出来上がったものは美しくないばかりか、いざそれが生命をもって動き出してみると、なんともいえぬ忌まわしいものに思えたため、フランケンシュタインはこの怪物を捨てようとします。こうして、自らの造物主に遺棄された怪物は、おそろしげな外見には似合わぬ知性を持っていたとみえ、独力で言葉や文字までおぼえ、自分の存在の意味に苦悩するようになるのです。そして、結局は自らを創り出した者への復讐を始め、それを通じて自滅していくのです。
  映画は、フランケンシュタインを学生から博士に格上げし、その実験室を古城の地下に置き、また、怪物の首の両側にはボルトを埋め込んで、それに生命を与えるため、落雷による電流を定番の小道具にしましたが、原作となったメアリ・シェリーの小説では、雷の持つ電流が人の手で創り上げられた肉体に命を与えた事が示唆されているものの、そこまで具体的な描写はありません。実験室も町中の下宿にあります。