高校生首切り殺人事件 精神鑑定書




以下は高校生首切り殺人事件の被疑者少年と鑑定人との対話部分の全文です。
鑑定人の註釈のうち必要ないと判断した箇所は略していますが、対話部分は原文のままです。ただし、人名は伏せ字が不完全なので完全に伏せて註釈を付けました。
最高裁判所事務総局家庭局『家庭裁判月報』 昭和45年7月号(第22巻7号)を元にしています。
これは裁判手続きのために裁判所命令で作成された鑑定書であり、また裁判所の編集物として一般に公開されたものですので、著作権法的にもその他の法的にも掲載には問題がないと考えておりますが、何か問題があれば消しますのでメールください。


鑑定主文

昭和四十四年五月三十一日、わたくしたちは横浜家庭裁判所裁判官判事新川吹雄より、殺人および窃盗の被疑少年に関し、左記事項の鑑定を命ぜられた。

鑑定事項

一、少年の性格と本件非行との関連、特に非行時の精神状態
二、少年処遇上の考慮事項

 よって鑑定人は同日より精神鑑定に従事した。鑑定人は聖路加国際病院神経科医長土居健郎、東京大学医学部附属病院精神医学教室助手石川義博、東京医料歯科大学総合法医研究施設助手福島章の三名である。わたくしたちは、鑑定に必要な資料をうるため本件に関連する一件記録および少年調査記録を詳細に閲読し、また(引用者註・住所略)医療法人社団一陽会陽和病院に昭和四十四年六月十三日より同年九月一日までの八十一日間入院せしめて少年の精神、身体を精査した。さらに少年の父、母らに面接してその陳述と所見を参考とし、本鑑定書を作成した。
(編中略)




 以上の問診から判断するかぎり、少年がナイフを盗んだことは、隅々金物店の店員がいなかったための出来心ということになる。しかし、入寮後の少年の気持ちを考え、はたまた(引用者註・犯人の兄弟のことが書かれているが略)を考え合わせるとき、窃盗には重大な意味がひそんでいると考えられる。おそらく不自由でうるおいの乏しい寮で生活している少年の愛情欲求の代償行為として、また依然としていたずらをし馬鹿にする○○○君(引用者註・被害者)に対する力のシンボルとして、の意味があったのではなかろうか。


 少年のこのことばを父は、「これまで懸命に親の期待に反しないように努力してきた。たまたまあの事件は突発的に起きたので自分でも理解できない。意識的には親の意にさからうことをしたくもなかったし、しなかったんだ。あの犯罪だけで自分が親に反抗的と見られたくない、ということだと思う」と説明している。また父は、「あのこと自体は見えない特殊な力で起きたことだーーつまり祖父が金融業をやっていたのでその崇りが孫に来るといったような、だから私は金貸しと警察官にはなりたくないと思っていたーーだからこれまでの少年の努力は認めてやりたい。祖父は樺太・北海道で土建業……タコ部屋……仕事の上で祖父のやったことが孫に影響したと思う」と、祖父の業の崇りであると迷信的な力を信じている。


 犯行について問われることは少年にとってきわめて辛いことが、態度によく現われていた。問診に心から協力的とはいえないにせよ、全体としてきわめて率直に話した。○○○君(引用者註・被害者)との関係、彼に対する気持、犯行直前に「やはり豚だな」と馬鹿にされたこと、その時心の中に出来た劣等感、ナイフで刺して首を切断したこと、怖くなって逃げ出したこと、犯行後の気持などを、ちゅうちょしながらも隠すことなく正直に述べた。また悪魔つきの例外状態や両親のせいなどにしない態度が印象的であった。犯行前後の精神状態に特に異常と思われるところはなく、意識も清明であった。

第五章以下の鑑定人考察などは略



奥野修司『心にナイフをしのばせて』という本は、上の精神鑑定書を著者の意図に合わせてかなり悪質なやり方で編集して掲載していると思われます。
少年犯罪データベース管理人による考察をご覧ください。










| 少年犯罪データベースの表紙にもどる |