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医療クライシス:コストカットの現場で/4 採算取れない診療報酬体系

 ◇小児、救急「人材消える」

 会計用のレジは、インターネットオークションでスーパーの中古品を購入した。会計窓口で使うレジシステムのプログラムは院長が組んだ。院内の清掃や待合室の古くなったソファの張り替えは職員が行っている。

 埼玉県久喜市など3市9町の小児重症患者を対象にした2次救急医療を担う土屋小児病院(常勤医8人、25床)。土屋喬義(たかよし)院長は「経費はぎりぎりまで節減しているが、経営は苦しい」と語る。

 小児救急(軽症の患者を診察する1次救急と2次救急の合計)の08年の収支は、5000万円を超える赤字で、前年と比べ約5割も増えた。医師の勤務時間を短縮し、事務職の半分以上をOBやパートにするなど経費節減に努めるが、ようやく病院全体でわずかに黒字になる程度だ。

 病院経営が逼迫(ひっぱく)するのは、現在の診療報酬体系では小児医療で採算をとるのが難しいからだ。自治体からの補助金なども少ない。全国公私病院連盟と日本病院会の調査によると、全国の病院の外来患者1人1日当たりの診療収入(08年6月分)は、泌尿器科や呼吸器外科などが1万円を超える一方、小児科は7800円しかない。

 日本医師会総合政策研究機構のまとめでも、診療所の小児科の診療収入(08年4~6月)は、前年同期比で2・9%減少。全国の病院で小児医療からの撤退が相次ぎ、小児専門の民間病院(20床以上)は現在、全国にわずか数カ所しかない。

 土屋院長は「病院がもうかるというのは幻想。私的病院にコストダウンの余地はない。病院が普通に経営できる程度に国などの支援がなければ、小児医療を担う人材は日本から消える」と話す。

  ■   ■

 経営が厳しいのは救急も同じだ。

 昭和大病院(東京都品川区)救命救急センター。山田哲哉・前事務次長は「07年度は2億8316万円の赤字でした」と説明する。

 同センターは命にかかわる重症患者を診る3次救急病院。常に最悪の事態を想定し、医師などを手厚く配置せざるを得ない。高価な薬剤を使ったり、薬剤使用量も多かったりする。空きベッドも確保しておく必要がある。

 その結果、収支は悪化する。同センターの07年度の収支は医療収入5億5605万円に対し、支出は8億3921万円。都からの補助金を入れても黒字にはならない。

 03年から導入されたDPC(入院費包括支払い)も影響している。従来の出来高払いは、処置や投薬など行った診療行為一つ一つの診療報酬点数を合算して請求できたが、DPCは定額制で病名ごとに1日当たりの診療報酬が決まっている。例えば、同センターに昨年10月に運ばれた敗血症患者の例。3日間の入院でDPCの請求額は12万8684円だが、出来高払いなら25万1417円分の治療をしており、12万2733円の赤字だった。

 有賀徹・同病院副院長は「救急は赤字だから補助金を出すというのが国の発想だが、診療報酬で経営できるようにするのが筋だ。これでは救急で難しい患者を診る病院はなくなる」と批判する。=つづく

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 ご意見、ご感想をお寄せください。ファクス(03・3212・0635)、Eメールt.shakaibu@mbx.mainichi.co.jp〒100-8051毎日新聞社会部「医療クライシス」係。

毎日新聞 2009年4月7日 東京朝刊

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