今月末の閉店を検討していた、室蘭市東町の銭湯「吉乃湯」(山岸緑さん経営)は11日までに、閉店を撤回、当面の営業継続を決めた。風呂なし市営住宅の住民を抱える周辺町会では、利用促進などで支援する方針だが、燃料高騰や設備の老朽化に対する解決策はなく、不安は拭いきれていない。
閉店を覚悟した主な理由は燃料高騰に加え、利用客の減少や施設の老朽化だった。利用客は10年前の三分の一に減り、使用するボイラーは、今年に入って4度修理しているものの、寿命は過ぎており「改修しても焼け石に水。費用もばかにならない」という。
現在の経営は2代目になる札幌在住の山岸さんが、室蘭に通いながら続けている。しかし「来てくれるのはわずか。廃材を使ってお湯を沸かしているがそれも限界」と苦しい現状を口にする。一方で「お年寄りを思うと胸が痛い」と、複雑な胸の内を明かす。
こうした中、同店と存続を求める周辺町会、室蘭市の三者でこのほど懇談会を開き、営業継続について協議。町会は、住民に利用促進を呼び掛け、市も「地域と何が出来るか考えたい」と支援を前向きに検討する方針を説明。同店は「できる限り続けたい」と、まずは閉店を今月末とするのは白紙に戻した。
吉乃湯はかつて日鋼社宅用の銭湯に指定されていた。社宅閉鎖後は風呂なし市営住宅向けの運営に切り替わったものの「車が普及し、大きな浴場の登場で状況は変わった」と、開業当時から知る東町中央町会の米津俊明会長は時代の変遷を指摘する。しかし、「今も地域に不可欠なのは事実。住民に入浴券を配布したり、利用増につなげたい」とバックアップする姿勢だ。
吉乃湯は、車などを持たず、風呂なし市営住宅に住む高齢者にとって、同店の存在意義は大きかった。それだけに、市も継続を強く要請する。11日には市職員が、店舗状況などを確認し、「地域全体の問題として、何らかの対策を検討したい」としている。
|