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忘れるという合意

NHKは、いまだに「ドイツはナチの負の遺産を清算したが、日本は・・・」という図式で歴史を語ろうとしているようだが、これは神話にすぎない。本書は、欧州の戦後処理がいかに首尾一貫しない中途半端なものだったかを具体的に明らかにしている。

西ドイツが「戦後処理」を終えたあとの1951年、バイエルンでは判事・検事の94%、大蔵省職員の77%が元ナチ党員だった。新たに結成された西ドイツ外交団の43%が元SSで、17%が親衛隊かゲシュタポにつとめていた。アデナウアー首相の主任補佐官は、ユダヤ人の「最終解決策」をつくった責任者だった。公職追放された実業家も1950年代前半には「社会復帰」をとげ、ダイムラー=ベンツやクルップなどの経営者になった。

彼らが復権した理由は、日本と同じである。冷戦が始まり、経済の再建に彼らの力が必要だったからだ。こうした集団的な記憶喪失がなかったら、欧州の再建は不可能だっただろう、と本書は指摘する。戦争犯罪に手を貸したという点では、ほとんどすべてのドイツ人が戦争犯罪者であり、その一部だけを戦犯として処刑したニュルンベルク国際軍事裁判は、大部分のドイツ人を免罪する儀式だったのである。

ところがアジアでは、戦後60年以上たっても、不毛な「歴史論争」が蒸し返される。その違いは、欧州各国は互いに忘れることによる利益を共有していたが、中国と韓国は日本と利害を共有していないということだ。いまだに南京事件についての誇大な数字や慰安婦をめぐるデマゴギーを中韓の政府が流すのは、それが国内政治に利用でき、日本を攻撃しても失うものがないからだ。

戦争責任は法的には終わっており、現在の日本人のほとんどは戦争に参加したこともない。戦争責任を追及する政治的な意味はないのに、いつまでも歴史問題で混乱が続く原因は、日本人の「歴史認識」の不足ではなく、中韓の民主主義の未成熟(あるいは欠如)である。他のアジア諸国からは、そういう話はほとんど出ない。中韓に過去を忘れるという「大人の合意」ができず、日本国内に彼らのデマゴギーを支援する他民族中心主義が残っているかぎり、不毛な歴史論争はいつまでも続くだろう。
歴史とは、合意の上に成り立つ作り話以外の何物でもない。――ナポレオン
コメント ( 9 ) | Trackback ( 1 )
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コメント
 
 
 
「反省が足りない」と言う人たちの着地点はどこ? (松本孝行)
2009-04-06 17:21:18
日本は反省が足りない、欧米を見習えという人たちが考える着地点がイマイチ私にはわかりません。政府が土下座すればいいんでしょうか?賠償金をさらに払えばいいのでしょうか?払うなら追加でいくら?まったくどこまで行けばゴールなのか、それが示されません。

だから私はこういった日本人は謝罪しろというような話に賛同できないんですよね。
 
 
 
興味深いです (フレモン)
2009-04-06 18:05:55
とても興味深いです。
経済の世界でもこれから先、忘れると言う合意が必要になるのかも知れ無い様な気がします。
 
 
 
Unknown (bob)
2009-04-06 19:35:37
>>松本様
同感です。具体的にどうしたら過去を清算し未来志向になってくれるのかを全く提案して来ないので対応しようがありません。
彼らの要求はよく映画などで使われているやくざの「誠意を見せろ」と同じです。具体的な要求をしないことで際限なく譲歩を引き出そうとする手口です。まともに相手にするだけ無駄です。

>>フレモン様
確かに。たまにはメモリを開放してやらないと余計な情報でメモリ領域が溢れ社会が回らなくなりそうです。
 
 
 
うむ。 (タカ)
2009-04-06 19:54:17
>歴史とは、合意の上に成り立つ作り話以外の何物でもない。――ナポレオン

これよりも 歴史とは何が正しいかじゃなくて、人々が何を信じてきたかが歴史だと思う

これが現実だと思う 例え嘘でも間違いでも有っても信じた物が歴史になるのじゃないかと
それは受け身と加害者で感情は違うのだと思う

福岡は元寇が攻めてきた事が2回も有ったと昔から言われて来ており、元寇は怖い国だと小さい頃に思ってた自分がここにいます。

鎖国をした理由がキリシタンの増加に恐怖となった国の政策であるように、知らない物解らない物には、人々は恐怖するのであろう。

鎖国せずに占領され植民地になってた方が、今の時代としては幸福だったでしょう。
だって鎖国した時代からグローバル化された国になってたのじゃないかな?
 
 
 
Unknown (Unknown)
2009-04-06 20:23:17
最近は、米墨戦争とカリフォルニア割譲に関する「歴史認識」の話をちらほら聞きますね。
 
 
 
賠償の放棄 (青木)
2009-04-06 21:00:16
日中国交回復の時、中国が賠償請求権を放棄したことを日本は大喜びしていたけれど、タダより高いものはありません。ODAも賠償に代わるような位置づけになってしまって中国国内でほとんど報道されませんでした。一時苦しくても、いっそいくらか賠償を払ったほうがよかったと悔やまれます。
 
 
 
中国出身者より (Uesugi)
2009-04-06 22:27:57
日本でも同じ現象がありますよ。
たとえば、JR西日本の電車脱線事故で、社長が何度も謝罪しても、遺族はまったく納得せず、謝罪を求め続けます。遺族の厳しい要求にたいし、少しでも交渉しようとするとすぐ批判の嵐が来ます。
きっと社長さんも皆さんのコメントのような感想をするでしょう。
なぜ大人の合意が出来ないでしょうか。

私の考えですが、過去を忘れる合意はそもそも出来ないし、忘れる必要もありません。
どんな合意が必要なのか?
1.自国利益のために他国を侵略する行為は悪です。
2.被害者も加害者も過去の人たちで、現在のほとんどの日本国民は加害者でないし、中国人も被害者ではありません。
ヨーロッパでは歴史が忘れられていないよ、みんなナチの行為が悪だという認識を共有しています。
日本人も過去の侵略が悪だということを認めればいいんですよ。別にあなたたちが悪いわけではありません。謝罪しなくてもぜんぜんいいですよ。
 
 
 
Unknown (かも)
2009-04-06 23:01:27
私も、先の戦争に対して、今現に此の国に住む国民が謝罪する必要など全くないと考えています。
 冗談じゃない。あんな無謀で、でたらめな戦争に国民を駆り立て、明らかに出口のない敗戦が目に見えていたにも拘わらず、その戦争を始めた当の軍部が誰も責任を取ろうとせず、暴挙としか云いようのない一億玉砕や本土決戦などと国民に無意味な死を強いた軍部や、そのお先棒を担いだメディアの責任を絶対に容認しないし、正当化もさせない。

 先の戦争は間違っていなかったなどと弁護するから、その責任を引き受けて、謝罪しなければならない羽目に陥る。
 逆に言えば、謝罪するとは、つまりはその責任を引き受けて、先の戦争が正当な戦争であったと容認することと同じ事だ。
 戦争を始めた正当を、百歩譲って認めても良い。だが、明らかな敗戦が有るにも拘わらずそれを認めようとせず、逃げ回って責任逃れをして、終戦の決断をしなかった軍部や政治家や、メディアを断じて許すことは出来ない。少なくもと、沖縄戦や、東京大空襲や、広島長崎は、その以前に戦争を止めていれば起きなかったと考えるなら、その犠牲となった国民は、その失策を非難する権利を有する。

 中国や、韓国の国民と立場は違うかも知れないが、此の国の国民は、当時の政治家や軍人の失策を非難すべきなのだ。

 とまあ、先の戦争は間違っていなかった等とする主張に、私は、異議を唱えています。
 
 
 
Unknown (閑話ノート)
2009-04-06 23:22:00
独善的強要はイチャモンとイコールで、脅しゆすりに似ている。
 
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