漁師直伝!イカ美味追求の旅スペシャル2008年07月23日放送
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漁師直伝!イカ美味追求の旅スペシャル

日本人になじみの深い食材、イカ。ところが、ほとんどの日本人はイカの食べ方を間違っていたという驚がくの事実が判明!

そこで、北は函館、南は九州の島まで、イカの美味しさのカギを求め、列島縦断の旅へ出発。産地でみつけたイカの刺身や天ぷらなど、究極に美味しく食べるワザを大公開します!

「函館発 イカ活かせてない怒りはいか程」

関東で、一般の人たちがどのようにイカ刺しを作っているのかを調査しました。

その様子を撮影し、日本有数のスルメイカの産地である函館の人たちに見てもらったところ、「もったいない」「ありえない」「これでは釣りのエサだ」など、散々な言われ方をしてしまいました。また、食べ方についても、「そんな風に食べてもおいしくない」と指摘されました。いったい、何がいけないというのでしょうか?

そこで、函館の食堂で、関東の人たちが作る平均的なイカ刺しをお客さんに出してもらいました。すると、イカ刺しを見たとたん明らかに不審がるお客さんがいた一方で、満足そうに食べているお客さんもいたのです。

しかし、満足そうに食べていたお客さんとは、実は関東から函館に来ていた観光客でした。そこで、本物の函館のイカ刺しを初体験してもらったところ、「同じイカなのに甘みが違う」「更においしさが増した」と驚いていたのです。いったい、函館流のイカ刺しとはどういうものなのでしょうか?

何が違う? 函館のイカ刺し

「究極のイカ刺し」とも言える函館のイカ刺しには、イカの美味しさを徹底的に引き出す工夫がされています。その極意の1つは、「極細」でした。なんと、関東の人が作るイカ刺し一切れは、函館のイカ刺しのおよそ30本分に相当するというほどに、太さが全く違っていたのです。

※この細い「イカ刺し」は、「イカそうめん」とは異なる食べ物です。イカそうめんはイカ刺しより更に細く切って、めんつゆをつけて食べます。のどごしを楽しむ食べ方で、函館ではイカ刺しとは完全に別の食べ物として認知されています。

ただし、函館のイカ刺しは、ただ細いだけではありません。いったい、究極のイカ刺しの極意には、「極細」のほかにどんなポイントがあるのでしょうか? また、徹底的に極細にするのは、どうしてなのでしょうか?

「津軽海峡 イカ景色」

続いては、函館から津軽海峡を渡り、下北半島に位置する青森県風間浦村を訪れました。この村には、なんと、イカ専用のレース場があるのです。レースの名は、「イカ様レース」。棒を使ってイカを20メートルのコースを進ませるのです。

レース中のイカの泳ぎ方をよく見てみると、魚の泳ぎ方とは明らかに異なっていました。イカは、その小さな体からは想像できないほどの強い瞬発力によって前へ進んでいたのです。

地元の人の話では、瞬発力の強さゆえに、イカ漁の際「体が引っ張られる」「波と波の間をスッと飛んでいくのを見かける」などと言われます。そして、実際、イカは種類によっては、なんと50メートルも飛ぶほど強い瞬発力の持ち主だったのです。

イカの瞬発力を支えているのは、強じんな筋肉です。イカの筋肉は、水を取り込んでジェット噴射できるよう、輪ゴムのような形状の筋肉が、体の横方向に緻密に発達しています。

そのため、イカ刺しは「筋肉に沿って横に切る(=横切り)」か「筋肉を断ち切るように縦に切る(=縦切り)」かの、切り方次第で大きく味が異なるのです。

横切りと縦切り

横切りと縦切りで、刺身のおいしさの2つの要素である「うまみの感じ方」「歯応え」を調べてみました。すると、ともに縦切りのほうが優れていることがわかりました。

縦切りは、筋肉繊維を断ち切るため、口に入れるとすぐに、うまみの素であるアミノ酸が染み出します。また、イカは皮をはいた後でも身に薄い膜が残っています。その膜には強い縦繊維が存在するため、歯応えも縦切りのほうが優れていたのです。

もう一度函館と関東の人たちのイカ刺しを比べてみると、函館のイカ刺しは縦切り、関東の人たちの切り方は横切りでした。

刺身が縦切りになるか横切りになるかは、開いたイカの身を最初にどのように切り分けるかに関係しています。函館の人は、まず身を上下に分けてから細く縦切りにしていました。一方、関東の人たちは身を左右対称に分けてしまうため、結果的に横切りのイカ刺しを作ってしまっていたのです。

「これぞ決定版! 函館流のイカ刺し」

函館流のイカ刺しの極意は「極細の縦切り」だとわかりました。実は、さらにその食べ方にも重要なポイントが隠されていたのです。

函館の人のイカ刺しの食べ方を見てみると、極細に縦切りにしたイカ刺しをたっぷり皿に盛ると、まずその上に薬味をのせました。定番の薬味は、ショウガと辛味の強い大根おろしです。

そして一番のポイントは、しょうゆにつけて食べるのではなく、しょうゆを刺身に直接かけることにありました。そして全体をかき混ぜるのです。

これにより、しょうゆの塩分による浸透圧の影響で、イカの内部から、アミノ酸を含んだエキスを外へと引き出すことができ、よりイカのうまみを感じやすくしていたのです。

もう1つの極意は、イカ刺しを温かいご飯の上にのせて食べることにありました。実はイカのアミノ酸は、熱が加わることで、より強く甘みを感じられる性質があったのです。

以上の極意が揃うことで、イカのうまみをとことん引き出した函館流の究極のイカ刺しを味わうことができるのです。

「壱岐のスルメを天ぷらにしてよ ダンチョネ~♪」

次に加熱のワザを求めて、長崎県壱岐を訪ねました。壱岐は「壱岐剣」という超高級ブランドのイカ(剣先イカ)の産地です。一方で、庶民的な価格のスルメイカの産地でもあります。

地元の人は、加熱しても甘みが強く、身が柔らかいため、剣先イカのほうが断然美味しいと言います。では、全国的に手軽に入手できるスルメイカで、美味しい天ぷらができないものか調査を続けてみると、なんとスルメイカを剣先イカに匹敵するほどの美味しい天ぷらに調理できるという名人に遭遇しました。

早速、一般の人たちに名人技を伝授してもらい、スルメイカの天ぷらを作ってもらったところ、甘く、ジューシーで柔らかいイカの天ぷらを作ることができたのです。しかも、伝授された本人たちが、できあがるまで半信半疑だったほど、その技は意外なものでした。

スルメイカは7秒で揚げる!

スルメイカの揚げ物を極上の味に仕上げる極意は、「7秒で揚げること」でした。7秒で揚げたイカの内部温度を調べてみると、60℃でした。実は、この60℃が大きなポイントなのです。

スルメイカの肉質は、60℃を超えるとどんどん硬くなってしまいます。熱による影響を受けやすい食材のため、名人は7秒揚げにこだわっていたのです。

「煮物を柔らかく仕上げるワザ追求!」

では、家庭で最もゴムのように硬くなりやすい「煮物」の場合、どうすればよいのでしょうか?

調理科学の研究者が煮物をやわらかく仕上げるコツを追及しました。すると、輪切りが定番の煮物の場合、内部温度60℃で仕上げても身が反り返ってしまい、硬くなってしまうことが分かりました。調理科学の研究者も経験したことがないほどに、イカは熱の影響を受けやすい食材だったのです。

ところが発想を転換し調理してみたところ、輪切りのイカが身も皮も反りかえることなく、理想の柔らかさに仕上げることができました。

柔らかい煮物を作るには「まるごと加熱」

柔らかい煮物を作るコツは、イカを切らずに、丸ごと加熱することです。

切ってから加熱すると縮みやすいイカも、まるごと加熱すると縮みにくくなります。しかも、加熱は水から行います。すると、温度計がなくても、イカの内部温度が60℃になるタイミングを目で見極めることができるのです。

60℃を見極める目安は、イカの形です。タンパク質の変性が始まることで、イカ全体が丸みを帯びてくるのです。

※作り方は、実習コーナー「イカのまるごとゆで」を参照してください。

イカの産地の郷土料理にも、まるごと調理する手法が多く見られます。たとえば、壱岐で最もポピュラーなスルメイカの食べ方は、その名も「まるゆで」。

水を張った鍋に、イカをまるごと(ゲソも肝も全てついた状態)入れて茹でる料理です。全体が丸くなったら、切ってしょうゆをつけて食べます。

また、「まるゆで」を使って和え物も作ります。代表的なのは「まるゆで」したイカを切って、大根、ごまみそで和えた「いかよごし」という料理です。まるごと調理してから、切って使うことは、イカを柔らかく仕上げる産地の知恵でもあったのです。

まとめ・イカ料理の極意

  • 刺身は極細の縦切り、しょうゆと熱でうまみUP
  • 揚げ物は7秒、煮物はまるごと