春休み最後の日曜日、花見日和に不似合いな速報が日本列島を走った。北朝鮮が人工衛星打ち上げとして「ミサイル」を発射した5日、九州で暮らす在日コリアンや拉致被害者家族、平和団体関係者からは憤りや困惑の声が聞かれる一方、日本政府の対応を疑問視する意見も出た。
「政治的、軍事的緊張を呼ぶだけで迷惑な話」。在日本大韓民国民団(民団)福岡支部幹部の宋正満(ソンジョンマン)さん(63)は語気を強めた。支部は福岡市の公園で花見を催し、「ミサイル発射」の速報が流れた午前11時半すぎには約200人が桜の下で宴を楽しんでいた。「日本人との関係は成熟してきた。昔のように短絡的に在日いじめにつながることはないと思いますが…」
北朝鮮に拉致された市川修一さんの兄健一さん(63)=鹿児島県鹿屋市=は「ミサイルも拉致も日本の権益の侵害。対話に応じない北朝鮮にもっと強い姿勢をとるべきだ」と厳しい口調で語った。
「北朝鮮は国際社会の声を無視して挑発するような打ち上げをすべきではなかった」。長崎原爆被災者協議会の山田拓民事務局長(77)=長崎市=はそう指摘する一方、イージス艦やミサイル防衛システムを展開した政府を「まるで戦争前夜」と表現。「メディアももっと冷静に対応すべきだった」と振り返る。
原水爆禁止佐世保協議会の山下千秋理事長(61)=長崎県佐世保市=も「政府は軍事対応ばかりで外交努力が足りなかった」と苦言。ミサイル破壊措置命令の撤回を求めていた「9条九州ネットワーク」世話人の石村善治・福岡大名誉教授(82)は軍備増強につながることを懸念し「平和的な解決を図るのが日本の役目」と説いた。
在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)熊本県本部の副委員長朱永徳(チュヨンドク)さん(53)=熊本県八代市=は「国際機関にも通告した人工衛星の打ち上げに、報道機関を含めて大騒ぎし過ぎ」と憤慨する。九州朝鮮中高級学校(北九州市)で娘の入学式に出席した後、ニュースを聞いた。同校はこの日、嫌がらせを警戒して部活動の生徒を集団登校させており「命の危険すら感じている。怒りを越して悲しい」とつぶやいた。
=2009/04/06付 西日本新聞朝刊=