風知草

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷

風知草:偏向批判に答える=専門編集委員・山田孝男

 「小沢一郎のどこが悪い」と私の先輩である金子秀敏専門編集委員が書いている。「マスコミの小沢たたきは、どこがどう悪いのか、あいまいで、ヒステリックなバッシングに終わっている」と(2日本紙夕刊、東京版)。大事な局面なので反論しておきたい。

 金子コラムの論旨はこうだ。問題は、なぜ、西松建設が「陸山会」(小沢民主党代表の資金管理団体)に多額の献金をしたか、である。それを説明すべきは西松建設だ。西松が何を期待したかまで小沢が説明する筋合いではない。メディアに登場して背景を語る、姿の見えない「関係者」を国会に呼んで解明すればいい--。

 そうだろうか。西松の意図は西松に問えというのは言わずもがなである。一方、小沢は明日の首相候補だ。西松の意図を西松に代わって説明する義務はないにせよ、不透明な金脈について受け取った側の説明を期待されて当然だろう。

 ところが、記者会見こそよく開かれるけれども、「浄財の出所はせんさくしないものだ」というレベルの説明で終始している。そもそも西松は営利企業である。その社員や下請け業者が小沢の「日本改造計画」(講談社)を読んで感動し、一斉に献金しましたという説明を誰が信じるだろうか。

 世論調査で「納得できない」が多いのは当然だ。小沢が本当にカネの出所を知らないのだとすれば、説明がヘタ過ぎる。国民とのコミュニケーション能力を疑う。「どこが悪い」と問われるなら、説明のしかたが悪いと答えよう。

 政治資金規正法はタテマエに過ぎず、表向きのツジツマさえ合えばいいのだと言わんばかりの、小沢の後ろ向きの法律観も気になる。首相候補のセンスとは思えない。

 混乱に拍車をかけているのが検察とメディアの信頼低下である。報道によれば、逮捕・起訴された西松の前社長は、多額献金について「ダム工事を受注するためだった」と供述している。ところが、最近は、この種の記事が信用されない。

 検察が偏った情報を流し、瀬踏みする手段を持たないマスコミが垂れ流す、つまりは虚報と見なされがちだ。が、記者がゼネコン関係者から直接取材した証言も少なくない。

 「野党であるにもかかわらず、小沢事務所の意向を最大に尊重する役人が国にも県にも今でもいると、ゼネコン側が認識している」(ゼネコンの元役員=朝日新聞3月4日朝刊)

 「東北では小沢さんが建設に強く、何でも指導力を発揮するので、力を借りたいという動きはあった」(西松の元社員=産経新聞3月4日朝刊)

 「岩手で仕事をするには小沢事務所の許可がいる。西松が小沢さんへの献金を強化していたのは、すごく理解できる」(岩手県内の建設業者=読売新聞3月5日朝刊)

 金子コラムが「姿の見えない関係者」と揶揄(やゆ)しているのはこれらの記事に現れる証言者たちだろうが、私の知る限り、たとえ匿名であろうと、記事に引用する談話を捏造(ねつぞう)するほど新聞は腐っていない。

 検察は100%政治偏向、メディアは100%虚報という極論が広がり、そのヒサシの下で小沢が一息ついているように私には見える。官僚改革を唱えつつゼネコンから3億円もらっている政治家に、役人とゼネコンの癒着が断てるか。疑問は解けていない。(敬称略)(毎週月曜日掲載)

毎日新聞 2009年4月6日 東京朝刊

 

特集企画

おすすめ情報