上大岡トメさんのプロフィールはこちら 池谷裕二さんのプロフィールはこちら
もくじ
001 脳に対する、からだの反乱。
2009-03-30-MON
002 責任と欲望の出会う場所。
2009-03-31-TUE
003 他人の不幸は喜びである。
2009-04-01-WED
004 やさしさの生存戦略。
2009-04-02-THU
005 一般の人のための学問。
2009-04-03-FRI
006 少ない人の間で生きる。
今日の更新
007 脳をからだに分散させる。
2009-04-07-TUE
008 最終結果だけがわかるシステム。
2009-04-08-WED
009 ええい、好きになっちゃえ!
2009-04-09-THU

006 少ない人の間で生きる。

糸井 トメさんは、漫画や文章を、ずっと
書き続けていらっしゃいますよね。
スイッチが入って一生懸命やってると、
「うわあ、おもしろい!」
なんて、言っちゃうとき、あります?
上大岡 描いてて「クスッ」となってしまうことは
けっこうあります。
それが世間の反応と重なるときもあるし、
「あ、私だけ?」みたいなこともある。
糸井 うん、僕もそうです。
重ならないときって、あるよね。
上大岡 私は『キッパリ!』を書き上げるぐらいのころ、
すごく悩んでたんです。
それは、私のような無名の人が、
「自分を変える方法」というものを
本にまとめようとしているけど、
自分は変わってないし、
そんな本を誰が読むんだろうって
ものすごく考え込んでいました。
そのとき、「ほぼ日」で
天童荒太さんの連載をやってました。
そこで天童さんが
「まず、自分がおもしろければいいんです」
とおっしゃっていました。
「ああ、そうなんだ。それでいいんだ」
って、すごく助かったんです。
糸井 うん、うん。逆に、
「自分がおもしろくない」
ということだって、あるわけですもんね。
上大岡 がんばって描いても、
イマイチだ、腑に落ちない、
でも締め切りが来ちゃった、
ということもあります。
自分のおもしろいものと
みんなのおもしがってくれるもの、
それぞれ脳の報酬系があるのかなぁ。
糸井 アマチュアだったら
きっと違うと思うんです。
だけど、プロとして仕事を続けていくと
喜びを確かめるのが
どんどん難しくなるから、
お金が欲しくなったりするんでしょうね。
池谷 それは、自分の価値の再確認
ということですよね。
糸井 そうですね。
「お金にして確認させてくれよ」って
言いたくなるんでしょうね。
上大岡 数字がいちばんわかりやすいですからね‥‥
だけど私は、
絵を描いていていちばん楽しいのは、
らくがきなんですよ。
池谷 へぇえ。
上大岡 いま、娘が高校生で、息子が中学生なんです。
先日、娘の学校で
PTAの集まりがあったので行ってきたんですが、
もらったプリントに、
ついつい先生の似顔絵を描いちゃったんです。
「よくできた」と思って、娘に見せたら、
娘が「うわ、似てる!」って言ってくれました。
これが、けっこううれしかったんです。
一同 (笑)
糸井 数字よりもね。
上大岡 そのプリントを、今度は
娘が学校に持っていって友達に見せました。
「みんなにウケたよ」なんて反応があると
もっと、すっごい、うれしかったりします。
自分もおもしろくて、
身近な人たちもおもしろい、
私にとっては
これがいちばんの報酬系かなぁ。
糸井 そのあたりのことは、最近、
ちょうど僕もテーマにしていることなんですよ。
中崎タツヤさんの『じみへん』って漫画、
知ってます?
上大岡 もちろん、もちろん。
糸井 僕はあれが大好きなんです。
あの漫画にね、ご近所の人気者、という人が
出てくる回があるんですよ。
ヨッ、ヨッ、○○さん、元気?
ヨッ、元気だ!
そういう奴がいて、最後に
「あんた、ホントにご近所の人気者どまりだね」
のようなことを言われる、
それだけの漫画があるんです。
一同 (笑)
糸井 読み終わって、
「俺はこれがやりたいんだ」って思ったの。
池谷 ふむ、ふむ。
糸井 あまりにそう思ったんで、
それをかみさんに見せたんです。
そしたら、かみさんもそのとおりだと言うんです。
「あなたはほんとうに
 ご近所の人気者として生きているフシがある」
一同 (笑)
糸井 「ご近所の人気」が、きっと
僕にとっていちばんうれしいことなんでしょうね。
これは「ご近所どまり」という欲望の小ささだ、
という話ではありません。
きっと、みんなそうじゃないかな。
トメさんの「娘と娘のクラスメイト」と同じ、
人間の単位って
そのぐらいなんですよ、きっと。
上大岡 うん、うん、わかります。
糸井 メディアを通して
遠くのほうの100万人が喜んでいる、
なんていうのは、
ほんとうにはわかんないです。
先日、社会学者の山岸俊男先生と
対談させていただいたんですが、
そのとき、山岸先生が、
人間の扱える単位はだいたい
150人だと言われてますねって、
おっしゃったんです。
原典は『ティッピング・ポイント』という本です。

バレンタインとかホワイトデーとかの範囲も、
自分の係長や、部長、同僚でしょ。
トヨタも新日鉄も、
全係長にチョコはあげないですよね。
上大岡 同じ部署くらいまでですね(笑)。
糸井 大きい会社であっても、関係する人は
その単位のところまでで区切る。
そうしないと人間は
生きていけないように
できているんじゃないでしょうか。
池谷 そう言われれば、僕もそうです。
自分の研究で発見したことを
論文にしたり
学会で大勢に発表するよりも、
研究室のラボの10人ぐらいに
「こんなおもしろいデータが出たよ」
「え、この裏にどんな真実が
 隠れているだろう?」
って、あの瞬間がいちばんうれしいんですよ。
糸井 ホントに(笑)、そうだと思う。
上大岡 だけど、たくさんの人に受け入れられた、
ということも、
絶対に、うれしいはずですよね。
糸井 それはもしかしたら、
そのニュースがあることによって、
身近の150人に対して
幅が利くからじゃないかな。
「俺はノーベル賞をもらったぞ」
という喜びは、
大勢に通じたことがうれしいんじゃなくて、
「大勢に通じたよ」ということを、
150人に言えるからなのかも。
上大岡 そうか!(笑)
糸井 それで思い出したんですけど、
スティーヴン・キングって、
草野球のチームで選手やってるんですよね。
それはね、ものすごく正解だと思います(笑)。
そこで打つ一本のヒットはヒットだし、
ベストセラーはベストセラーだし、
どちらもひじょうにうれしいことだけど、
野球チームの人に
「大ベストセラーらしいじゃん」
って言われて
「いやいやいや」
という、そのときがうれしいんですよね、きっと。
(つづきます)
2009-04-06-MON
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『のうだま やる気の秘密』
上大岡トメ&池谷裕二 著(幻冬舎)1260円

上大岡トメさん、池谷裕二さんの共著。
池谷さんの最新の脳研究をもとに、
脳を「だま」しながら
夢を叶えるための4つのスイッチについて
トメさんがたのしい漫画と文で綴ります。
「飽きっぽい」と言われつづけ
「性格は一生なおらないの?」と
本の冒頭で白目をむく主人公(トメさん)が
案内してくれるので、
本を読むのは三日坊主、という方でも
気軽に手に取ることのできる一冊ではないかと思います。

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