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【社説】

ミサイル発射 失うものの方が多い

2009年4月6日

 北朝鮮は、国際的な自制を求める声を無視して、ついにミサイル発射を強行した。国威発揚などの目的があるのだろうが、得るものよりも失うものの方が多いことを認識すべきだ。

 五日間の発射予告期間の二日目。北朝鮮は人工衛星「光明星2号」が軌道に乗ったと発表した。

 これに対して、日米韓は「挑発的な行為」として「深刻な憂慮」を表明、直ちに国連安保理でこの問題を討議することになった。

 打ち上げに使ったのは長距離弾道ミサイル「テポドン2」改良型とみられ、ミサイル開発に関するすべての活動を禁止した二〇〇六年七月の安保理決議に違反するからだ。

 米軍は衛星として軌道に乗せるのに失敗と発表した。しかし、大量破壊兵器の重ねての実験は、北東アジアの安全保障や安定を著しく損なう行為であり、極めて遺憾だ。

 日米韓は、既存の制裁の再確認、厳格な実施などを検討しているが、国連として、厳しい意思表示をするよう期待したい。

 今回の発射は、九日からの改選後初の最高人民会議の直前という時期を選んで行われた。

 この席上、金正日総書記は国家最高ポストである国防委員会委員長に三たび選ばれる予定だ。

 このところの健康不安説による指導力の不安を払拭(ふっしょく)し、独裁体制の万全を期すのが狙いだ。

 同時に「人工衛星を経済飛躍のテコに」という説明もあった。しかし核やミサイル開発への巨額の投資は、破綻(はたん)寸前の経済をさらに衰弱させている。

 さらに、大量破壊兵器の開発は周辺国の不信を買い、経済立て直しの必須条件である協力・支援を一層遠ざけるに違いない。

 オバマ米政権に対してはミサイル開発能力を誇示して、早期の直接交渉を迫る狙いもある。最大の脅威とみる米国との関係改善はかねて北朝鮮の悲願である。

 しかし、軍事緊張を高めることによる瀬戸際作戦、揺さぶり作戦は、不信感を増すだけだ。

 今回、日本政府は万一を考慮して「破壊措置命令」を発令した。領域内への落下物などはなく、実際には発動されなかったが、情報伝達で失態を演じた。

 発射の前日、二度も発射情報を流したのは、確認を怠るという初歩的ミスが原因だった。

 誤報は、内外のメディアで伝えられ、危機管理体制のお粗末さを露呈する結果を招いた。態勢の点検と立て直しが急務だ。

 

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