水俣病未認定患者を救済するための与党法案が、国会に提出された。「公式発見」から半世紀余、解決は急ぎたい。だが、患者の将来に不安を残すようでは「最終解決」とは言い難い。
原因企業チッソの分社化容認と、公害健康被害補償法に基づく地域指定解除が、法案をめぐる争点だ。
未認定患者に一人百五十万円の一時金と月一万円の療養手当を支給する。その資金を確保するためにチッソの分社化を容認する。三年をめどに補償の対象になる人を“確定”し、水俣市とその周辺を水俣病という公害病の発生地域から外す。こうして水俣病は過去のものとなり、「最終解決」が成就する−。
分社化案は、補償責任を担うチッソから、事業を引き継ぐ「子会社」を切り離し、子会社株の売却益を「最終解決」の原資や公的債務の返済に充てたあと、親会社を清算する。水俣病の原因企業は、法律上はこの世から消滅する。
水俣病患者の救済では一九九五年、症状に応じて一時金などを支払う「政治決着」が図られた。しかし、二〇〇四年の関西訴訟最高裁判決で、政府の基準よりも幅広く損害賠償を認める司法判断が下された。その後六千人を超える新たな認定申請者が出たが、政府と司法の「二重基準」が障壁になり、救済は進んでいない。補償は速やかに行われるべきだ。
もういいかげん、水俣病の風評から解放されたいという漁業者や観光業者の気持ちも分かる。
しかし、患者、特に生まれながらに重い脳障害を背負った胎児性の患者は、これからも障害と闘いながら長く困難な人生を生きていかねばならない。
分社化が将来の「無責任」に、地域指定解除が患者の「切り捨て」につながるのでは、という不安を抱くのは当然だ。これ以上の重荷を患者に負わせることは許されない。
被害の実態調査も十分進んでいないのに、水俣病そのものを風化させるべきでもない。
政治の仕事は「幕引き」を急ぐことではない。ましてや救うべき患者とそうでない患者の間に「線引き」をすることでもないはずである。
水俣病公式発見から五十三年、すべての患者を救うという強い意思を表明し、その仕組みを考えることではないか。
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