北朝鮮には言葉による説得は効かないのだろうか。日本、米国、韓国だけでなく、中国やロシアですら自制を求めたにもかかわらず「人工衛星」の打ち上げと称して長距離弾道ミサイル実験を強行した。日本国内への破片の落下はなく、自衛隊による迎撃もなかった。
4日の誤探知騒動を除けば、政府による警戒活動は、おおむね適切だった。被害情報はないが、北朝鮮の行動は無害ではない。「関心獲得行動」と米メディアは表現するが、これは親の関心を引きたい子どものいたずらではない。周囲に脅威を振りまく冒険主義的行動である。
2006年7月のミサイル連射、10月の核実験の後にそれぞれ採択された国連安全保障理事会決議1695号と1718号は「弾道ミサイル計画に関連するすべての活動の停止」を明記している。日米両政府が指摘するように、今回の発射はふたつの決議に違反する。
人工衛星と弾道ミサイル打ち上げの技術はほぼ同じであり、発射実験による北朝鮮のミサイル技術の向上は地域の不安定要因になる。脅威を感じるのは、日本、米国、韓国だけではない。向きを変えれば、中国、ロシアののど元への短刀となる。
国際社会が強い措置をとらなければ、似た行動が繰り返される。日米両政府が国連安保理の緊急会合を求めたのは当然である。
中国、ロシアは安保理が強い措置をとるのに抵抗感があるとされる。両国とも自国の安全が北朝鮮のミサイルで脅かされる結果につながるとは考えないのだろうか。
安保理が北朝鮮の行動に対する外交包囲網をつくるのに失敗すれば、冒険主義を助長する。安保理に求められるのは、それを封じ込め、あの国に政策転換を迫る行動である。
このためには安保理のみならず、関係諸国の行動が重要になる。国際社会が繰り返してはならないのは06年以降の経緯である。
決議1718の採択の2カ月後、米ブッシュ政権は北朝鮮との間で金融制裁解除の交渉に入る。安保理決議が示した封じ込め路線をわずか3カ月で事実上骨抜きにし、融和政策に転じたのが07年1月だった。
核、ミサイル、日本人拉致問題で前進があれば、戦略的決定と評価されたはずだった。実際には逆に致命的な判断ミスとして歴史に残る。
効果的なのは、例えば金正日氏など北朝鮮要人の海外口座に絞った金融制裁である。2年前、北朝鮮が解除にあれだけこだわった事実をみれば、必要性は自明である。