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社説:北朝鮮ミサイル発射 「ルール破り」は明白だ 安保理で共同歩調探れ

 北朝鮮が「人工衛星」の打ち上げに成功したと発表した。一方、米国の北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)は「ミサイルの2段目以降は先端部分も含めて太平洋に着水した」とし、いかなる物体も軌道上に乗っていないと指摘した。

 成否はどうあれ、この「発射」を容認することはできない。名目は人工衛星でも実際には長距離弾道ミサイルの技術が大陸間弾道弾(ICBM)の水準に到達したことを確認し、世界に誇示する狙いだったことは明白だ。「宇宙の平和利用」を隠れみのにした脅迫とも言えよう。

 ◇脅威をばらまく行為

 まず、私たちは日米韓3国政府の一致した見解を改めて支持する。北朝鮮の核実験を受けた国連安全保障理事会の決議1718は「弾道ミサイル計画に関連するすべての活動」の停止を求めている。人工衛星用のロケットも弾道ミサイルと同じ技術を使う以上、北朝鮮の行為はこの決議に違反するとの見解である。

 次に「宇宙ロケット計画が弾道ミサイル計画を隠ぺいするために利用されるべきでない」という合意の存在を指摘したい。02年に採択され04年の国連総会で161カ国の支持を得た「弾道ミサイルの拡散に立ち向かうためのハーグ行動規範」の一節である。法的拘束力はないが、北朝鮮の「発射」が国際的に非難されるべき理由を示している。

 北朝鮮は「宇宙空間を平和的に利用することは、だれにも干渉できない主権国家の合法的権利」だと主張してきた。

 国際宇宙条約は第1条で、差別のない自由な平和利用を「すべての国」に認めている。北朝鮮の主張に原則的な根拠がないわけではない。だが条約前文には「全人類の共同の利益」や「相互理解」「友好関係」への貢献がうたわれ、北朝鮮のこれまでの振る舞いは、こうした理念に全くそぐわない。

 北朝鮮は「平和に対する脅威」をばらまいてきた。ミサイルに限ってみてもそうである。東西冷戦のさなか、弾道ミサイルの保有国は米国と当時のソ連だけだった。冷戦終結後に急増して約50カ国に達したが、このミサイル拡散の「元凶」と目されているのが北朝鮮である。

 この過程で北朝鮮は、ミサイル関連技術輸出規制(MTCR)への参加を拒み続けた。これは射程300キロ以上、搭載重量500キロ以上の弾道ミサイルの輸出などを規制する措置である。北東アジアで弾道ミサイルを保有しながらMTCRに参加していない国は中国と北朝鮮だが、中国はこの規制を順守する方針を表明した。北朝鮮のルール無視が突出している。

 今回、事実上の弾道ミサイル発射について、北朝鮮が日米韓をはじめ関係国の再三にわたる中止呼びかけを無視したことは、国際社会に対する挑発と受け止めるべきだ。核問題をめぐる6カ国協議でも、北朝鮮は核放棄へのプロセスを逆戻りさせるなど誠実な対応をしてこなかった。河村建夫官房長官が声明を発表し「極めて遺憾であり厳重に抗議する」と非難したのは当然である。

 ◇核計画の放棄が重要

 オバマ米大統領はプラハでの演説で「北朝鮮は再びルール破りをした」と指摘し、ルール違反は「罰せられねばならない」と明言した。韓国大統領府も非難声明を発表した。一方、中国は「冷静、抑制した対応を求める」としている。

 日本政府の要請を受けて国連安保理は緊急会合の招集を決めた。当面の焦点は安保理の対応に移る。

 日本は米国と連携し決議1718の確実な履行を求める新たな決議などを目指す方針だが、拒否権を持つ中国やロシアが、北朝鮮への厳しい対応に消極的な姿勢を示しており、難航も予想される。

 これが国際政治の現実ならば、日米韓も今後の対応について冷徹な判断が必要になる。北朝鮮の暴挙は容認できないという認識を堅持しつつ、6カ国協議や米朝交渉を通じた事態打開といった選択肢も冷静に考慮すべきであろう。

 例えば日本と韓国は、「ノドン」など既に大量に実戦配備された北朝鮮ミサイルの射程に入っている。最大の脅威となるのは核兵器を搭載したミサイルだから、まず何よりも小型核弾頭の開発阻止、つまり北朝鮮に核計画を放棄させることを最優先するという選択肢がありうる。

 いずれにせよ安保理は、北東アジアの平和と安定をかき乱し、挑発的行為を続ける北朝鮮への対処について、一定の道筋を示すべきである。非常任理事国として安保理に参加している日本は米国と連携し、中国やロシアとの溝を埋める努力をすべきだ。中露も安保理としての合意づくりに柔軟に対応してほしい。

 対立構図を際立たせては北朝鮮を利するだけである。

毎日新聞 2009年4月6日 東京朝刊

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