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北朝鮮が発射した「飛翔体(ひしょうたい)」は日本のはるか上空を越え、太平洋上に飛び去った。
政府によると、1段目の推進装置と見られる部分が日本海の公海上に落下し、残りの部分はさらに飛行を続けたという。政府は万一の場合に備えて迎撃ミサイルやイージス艦を配備したが、幸い被害はなかったようだ。
北朝鮮は、人工衛星を搭載したロケットの打ち上げであり、成功したと主張している。だが、米国は軌道には何も乗らなかったと見ている。
■国連安保理を動かせ
いずれにせよ、この発射はとうてい容認できない。強く自制を求めた日本をはじめとする国際社会の声を逆なでした暴挙に、深い憤りを覚える。
衛星を打ち上げる技術は、核弾頭などを積める長距離弾道ミサイルと変わらない。いくら宇宙開発、国威発揚と言ったところで、真の狙いが「テポドン2」の改良型とされるミサイルの実験にあったのは間違いあるまい。
「弾道ミサイル計画に関連するすべての活動」の停止を北朝鮮に求めた06年の国連安全保障理事会決議に背くことは明白だ。日米韓などの政府が抗議したのは当然だ。
安保理がさっそく対応を協議する。日本政府は米国などと協力し、国際社会としての明確なメッセージを北朝鮮に送るべく外交努力を強めるべきだ。
最低限、まず06年の核実験を受けて安保理が出した北朝鮮への制裁決議の再確認をしなければならない。
この決議には中ロも賛成し、全会一致で採択された。北朝鮮に対して核やミサイル開発の停止を要求し、加盟国には、関連技術・資金の移転や、ぜいたく品の輸出などを禁じている。
問題は、まともに決議を実行している加盟国が少なく、実効があがっていないことだ。安保理は決議の着実な実行を加盟国に促す必要がある。
■加速する世界の危険
それにしても今回の発射で、核兵器やそれを運ぶミサイルの拡散によって世界がますます危険になってきたことを思わざるを得ない。
北朝鮮はすでに短距離弾道ミサイル「スカッド」と、中距離の「ノドン」を実戦配備している。韓国や日本はとうに射程内に入っている。3年前には核実験を強行した。今回、さらに長距離ミサイルの技術を見せつけた。
イランは2カ月前に衛星打ち上げに成功した。こちらも安保理決議を無視し、核開発につながるウラン濃縮を続けている。そのミサイル開発には北朝鮮が協力しているとも言われる。
一昨年、シリアの砂漠にある建物をイスラエル軍がいきなり空爆した。北朝鮮が支援していた原子炉関連施設だった、と米国が発表した。
インドとパキスタンが核武装してにらみ合い、北朝鮮はパキスタンの「核の闇ルート」とつながりがあった。
核やミサイルに絡む技術、資材が世界を行き来する。そんな現実の一極に北朝鮮がいる。
この事態に一日も早く終止符を打たねばならない。だが、どう対応すればいいのか。ふたつのことを冷静に粘り強く追求していくことだ。第一に、北朝鮮に国際ルールを守らせるための硬軟両様のダイナミックな外交であり、第二に「核のない世界」をつくるための軍縮、不拡散の努力だ。
金正日総書記が何より目指しているのは、自らの体制の継続に違いない。そのための最大の交渉相手は米国、と思い定めている。
むろん、大量破壊兵器に手を染め、日本人拉致や数々のテロを起こした体制は容認できない。しかし、無法な行動を抑え込む現実的な手段は外交しかない。そのための舞台は米朝交渉であり、6者協議である。
核施設を使えなくする無能力化の段階で、6者協議は膠着(こうちゃく)している。非核化プロセスを再起動し、日朝や米朝の関係正常化の交渉も広げていきたい。制裁の「ムチ」を絡めながら、さまざまな分野で北朝鮮を交渉のテーブルにつけることだ。
■オバマ政権と連携密に
米国の役割と責任は重い。早く対北交渉の陣立てを固めて動き出してもらいたい。クリントン国務長官が、今回の発射と6者協議を切り離し、6者合意の実行を追求すると語っているのは正しい。
ミサイル問題も、まず米朝間で打開策を探るのが現実的ではないか。いずれは6者協議で取り上げるべきだ。核に限らず地域の平和と安定にかかわる課題を扱う枠組みでもあるからだ。
おととい、政府が誤って飛翔体発射を発表し、5分後に取り消す失態があった。危機管理上、ゆるがせにできない問題だ。原因を追及し、十全の対策を講じなければならない。
もっとも、国民がいたずらに不安を抱かないよう、政府が積極的に情報開示したのはよかった。あたかも日本が攻撃されるかのような浮足だった議論もあったが、国民は冷静だった。
政府は、3年前から北朝鮮に科している独自制裁を1年延長する方針だが、さらに中身を強化すべきだという声も聞かれる。だが、日本単独のカードの効果は限定的だ。
むしろ国際社会の結束を優先し、安保理の非常任理事国として率先して動く。オバマ米政権との連携を強める。まず、そちらを真剣に追求すべきだ。