さきごろ閉幕した第2回主要20カ国・地域(G20)金融サミット(首脳会合)において、「急速に台頭」という印象も含め、一種のふてぶてしさを伴って最も存在感を示したのは中国でした。
G20開幕近くから様々な形で米ドルによる一極体制に異を唱え、新たな国際的通貨体制の枠組みを提唱し、自国の通貨である人民元のハードカレンシー化はもとより、米ドルと並ぶ基軸通貨に登り詰めるための道をつけようとの思惑が歴然。
一方では特定の国との貿易決済に米ドルではなく人民元を使うような通貨交換(スワップ)協定を結ぶことに積極的です。すでに韓国、インドネシア、マレーシア、ベラルーシ、アルゼンチン、香港とはこの協定を成立しており、お次の狙いはどうやらブラジルのようで。
●<人民元の野望>密かに勢力を拡大、相次ぐ通貨スワップ締結で…豪紙(RecordChina 2009/04/04/00:30)
●貿易決済でドル外し ブラジルと中国首脳会談へ(共同通信→MSN産経ニュース 2009/04/04/09:12)
しかしながら、おカネの世界は信用第一。GDPなどで示される経済の規模としては世界有数の存在となった中国ではありますが、では一人当たりGDPはといえば、ようやく3000ドルに乗ったところ。しかも大雑把にいえば「2割の金持ちと8割の貧乏人」で構成されている超格差社会です。
この超格差社会を是正しよう、という「胡温体制」による当初の意気込みがすでに挫けてしまっているのは、「格差が許容できる範囲へと改善された社会」という意味で以前盛んに呼号されていた「和諧社会」(調和のとれた社会)という政治用語、これが近年、党中央や国務院(中央政府)の公文書から姿を消していることでわかります。
「現状を維持するのが精一杯。ていうかそれも無理ぽ」
といったところでしょう。幸か不幸か、世界金融危機の突発による不況襲来で内需拡大や雇用機会の創出、またそのための財政出動といった非常事態となったおかげで、「格差改善」は最重要課題ではなくなりました。
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なぜ超格差なのかといえば、利権の旨い汁を吸う者がいて、一方でそのためにより多くの者が泣くようになってきたからです。一党独裁体制でチェック機能がまことに不十分であるため、各ランクの党幹部がその分際に応じた汚職や特権ビジネスをやりまくる。それと癒着した特定企業なども旨い汁を吸う仲間となり、それで泣く者がまた増えて、……という形で格差が超格差へと成長していきます。
こうした仕組みのもと外資導入がどんどん進み、しかもイケイケドンドン路線の江沢民型経済成長モデルが採られれば利権はいよいよ量産され、そのために泣く者の数も当然ながら増加の一途。このあたりを調節するための政治制度改革が1989年の民主化運動〜天安門事件で事実上タブーとなったのは致命的でした。改革開放政策に伴う分権化と、利権獲得による体質強化で地方当局、つまり全国各地に存在する「諸侯」の発言力が強化され、中央政府の権威は失われていくばかり。
胡錦涛や温家宝は構造改革の前段として中央の威厳を回復しようと努めているものの、「諸侯」をはじめとする抵抗勢力の反撃に遭って立ち往生している、というのがいま現在の状況です(景気刺激策である巨額の財政出動でこれから更に格差が広がる訳ですね。わかります)。
ともあれ、利権をめぐる勝ち組と負け組の典型例は、都市再開発や農村での開発区設立などによる有無を言わせぬ土地強制収用と、それに対して当局から支払われる補償金や指定された移転先が、奪われたものと全く見合わないといった不公正でしょう。支給実績と受給実績に大きな差が出るという不思議な事例も多々あります。当局からは実際に十分な補償金が出ているものの、民の手にそれが渡るまでに通過する政府部門のあちこちで横領され、結果的に雀の涙となってしまうのです。
これはもちろん汚職なのですが、一党独裁ですから党幹部の暴走を止める仕組みが整っていません。摘発されるのは大抵が運の悪い奴か,要路への贈賄に励まなかった奴。あるいは陳良宇・元上海市党委員会書記のように、政争の過程で生贄にされるケースもあります。
十分な転業資金も与えられず、理不尽に追い立てられる住民や農民は哀れです。生計が立たないところまで追い詰められ、とうとう抗議活動に出れば当局は武装警察(内乱鎮圧用の準軍事組織)や雇い上げた暴徒を使って武力弾圧。そうした弱者保護に奔走していた人権派弁護士は軟禁・拘束ひいては投獄。そうした衝突がいま、全国各地で発生しています。昨秋から数千万人の規模で失業者が発生していることも物情騒然の度を高めていることは想像に難くありません。
抗議活動は陳情、ストライキ,デモ、暴動、ひいては爆弾テロや自爆テロまで様々です。特に都市部では勝ち組の横暴を市民はごく日常的に見せつけられているため、いったん火がつくと瞬く間に群衆が出現し、当局の対応次第で暴動が始まってしまいます。火種の多くは弱者たる庶民が「官」の手先によって理由もなく虐げられ、そのことを抗議すると今度は暴力を振るわれたため、取り巻いていた野次馬が被害者の味方となり、さらにあちこちから新規野次馬がわらわらと湧いて出て官民衝突と相成るのです。
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▲こんな感じで。
失業者やニートは別として、他の連中はみんな仕事とか学業とかを放り出して駆けつけてくるのでしょうか。不思議です。ちなみにこの写真の事件は都市暴動にこそ至らなかったものの、発端はいつもの通りです。
●街頭で市民数千人が抗議―行政執行員、学生に暴力で(サーチナ 2009/04/01/17:13)
四川省南充市で3月31日、行政執行員が学生ひとりに暴行したとして、市民数千人が街頭で抗議活動をした。人民日報社が4月1日に伝えた。
市民は同市繁華街の五星花園地区で、大通りの車道部分を占拠した。道路の該当部分は交通が完全にストップ。現在、関係部門は、騒ぎの発端になったとされる行政執行員による暴行事件を調査しているという。人民日報社は写真を発表したが、市民による破壊行為は確認できない。
学生に暴行したとされるのは、城市管理員(都市管理員)と呼ばれる職員。衛生、交通違反、露天などの出店などの違反行為を監視する。法律では違反を発見しても取り締まりの権限はなく、警告程度にとどめるか警察に通報するのが建て前だが、実際には高圧的または力づくで取り締まる場合が多く、各地で市民とのトラブルを起こしている。(後略)
その前日にはやはり「城管」こと行政執行員による暴力で男性が死亡した、とのことで住民など約1万人が屯集する騒ぎが起きています。
●「治安員の暴行で死亡」と1万人デモ 中国江西省(共同通信→MSN産経ニュース 2009/04/01/18:53)
中国江西省萍郷市で3月30日、「城管」と呼ばれる治安維持要員から暴行を受けて男性が死亡したとして住民ら約1万人が道路をふさいで抗議する騒ぎがあった。米政府系放送局、ラジオ自由アジアなどが1日までに報じた。
男性は先月30日、違法建築の取り壊しに当たっていた治安維持要員らが自分の妹に暴力を振るったことから口論になった。その後、治安維持要員ら十数人の暴行で死亡したという。男性の家族らが遺体を見せて路上で抗議を始めたところ、多くの住民が集まり治安維持要員の車両をひっくり返すなどの騒ぎになった。(後略)
民衆側に死者が出た場合、その遺体を活用するというのも暴動の型のひとつです。事態がさらに悪化すると、みんなで死体を担ぎつつ地元当局の政府庁舎前に押しかけて抗議し、警察車両や庁舎の焼き打ちが行われたりします。5000人や1万人が集まれば、そりゃ地元の治安部隊だけでは衆寡敵せずで、放火だ打ち壊しだとなるのですが、周辺からの増援治安部隊が駆けつけると群衆は散って……という形で事件が終息するのが専らです。
むろん、デモや暴動ひいては自爆テロに発展した事件もあります。
●海南の暴動、背景に「腐った警察・無策の政府」…中国誌(サーチナ 2009/03/30/13:49)
●中国で回族が抗議デモ「交通事故処理不公平」(共同通信→iZaニュース 2009/04/02/20:56)
●賃金支払い求め、立てこもりの末に自爆 中国新疆ウイグル自治区(共同通信→MSN産経ニュース 2009/04/02/22:45)
ストライキについては昨年末にタクシー運転手と教師の事例その他を当ブログでも紹介していますね。実行する過程である種の連携が成立して、声明文やら檄文めいたものを事前に準備しておくなど、かなり組織化されたケースもあったことは要注目です。
●スト&デモ三連発。(2008/12/19)
●各地で相次ぐ教師たちの「蹶起」。(2008/12/16)
(「下」に続く)