本書は、かつて沖縄に駐留した元日本軍兵士の視点から沖縄戦の実相をつづったドキュメントだ。「戦記」ではなく、対住民感情を軍の論理で赤裸々につづった元兵士による証言記録は、わずかの「個人手記(証言)」を除き先例がなかったように思う。とりわけ、沖縄転戦前の中国戦線における元兵士たちの体験証言は、住民を「集団自決」に追い込んだ日本軍の構造的な暴力性を露呈させ、日本軍駐屯と「集団自決」の不可分なつながりを裏付けたものとなった。
「『チャンコロ(中国人の蔑称(べっしょう))は人間じゃない』と上官や先輩から叩き込まれ」、初年兵は中国人捕虜に「度胸試し」として“刺突訓練”を強要された。さらに「おなごを見たら、もう最後。強姦(ごうかん)してしまう。(強姦した回数は)二度や三度ではきかない」。高い慰安婦を買うより強姦はただ(無料)だから、とも言った。「人を殺すよりも先輩のいじめの方が怖かった」という証言があるように、上官から下級兵士へもたらされた暴力は、下級兵士から中国人へと連鎖し、その延長線上に沖縄転戦があった。
「日本人は偉く、強く、美しい国民」。「沖縄の住民を戦闘に巻き込み死なせても、何とも思わなかった」「沖縄の人間はチャンコロ系統という差別意識」が沖縄人に「集団自決」を強い、スパイ嫌疑による住民虐殺や食料の強奪、壕(ごう)の追い出しへと連なった。著者が接触した元兵士のうち、約半数が「重い口」を開いたといい、登場する元日本兵21人の証言からは、沖縄人に対する「懺悔(ざんげ)」の念が伝わってくる。
しかし要は、元兵士たちの“戦後の生き方”だろう。沖縄戦の惨劇と向き合いつつ、その実相を後世に語りつぐことを決意した元兵士がいる一方で「よその国でも住民は犠牲になった。戦争とはそういうもの。沖縄戦だけこれだけ騒がれるのは……」と、いぶかしがる元兵士がいることも事実だからだ。いずれにせよ、全国を回って元兵士たちを探し出し、“加害”という「負の記憶」を語らせるとともに、写真でその苦悩の表情をとらえて証言に重みを増した著者の労作に敬意を表したい。
(宮城晴美・沖縄女性史家)
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