殺人など凶悪・重大犯罪の公訴時効について、法務省は制度見直しに向けた勉強会の中間報告を公表した。時効の廃止や期間延長を有力視する四つの案を示し、今後、被害者団体や警察庁、日弁連などから意見を聞き、八月までにたたき台を作る方針という。
時効制度の見直しは、被害者遺族らの要望を受けて一月から省内で議論してきた。もし時効廃止が実現した場合、刑事政策の大転換となろう。
中間報告に盛り込まれた案は(1)時効の廃止(2)時効期間の延長(3)犯人のDNA情報を基に検察官が氏名不詳のまま起訴し、時効が停止(4)証拠によって裁判官が検察官の請求を認め時効を停止(延長)―の四種類である。
時効は犯罪が終わった時点から一定期間が過ぎると、たとえ犯人が分かっても処罰できなくなる制度だ。社会の注目を集めた犯罪などでよく問題になるが、時効になった事件の数は意外に多い。
検察統計年報によると、二〇〇七年までの十年間で時効を迎えた凶悪事件は千七百件を超える。殺人事件だけでも年間五十件前後で推移している。
考えてみれば、時効というのは奇妙な制度ではある。罪を犯したのに、決められた期間を逃げ通せば捕まらない。犯罪被害者や遺族からすれば「逃げ得」としか思えまい。被害者らが理不尽さを訴え、見直しを求めるのは理解できる。
時効制度を設けている理由はいくつかある。人員面で捜査体制維持の難しさや、累積していく証拠品の保管問題がある。時間がたてば証拠が散逸し、公平な裁判ができない上、被害者感情も薄まるとされる。
被害者サイドから見れば納得し難いものばかりだろう。DNA情報など科学的捜査の技術も発達している。
こうしたことから、〇五年施行の改正刑事訴訟法では、「死刑に当たる罪」の時効が十五年から二十五年に延びるなどした。しかし、最近になっても時効撤廃や停止を求める被害者遺族の会が結成されるなど、見直しをめぐる動きは一段と活発化している。
中間報告では、捜査体制の維持問題の是非や、証拠によって不公平感が生じる恐れなどの課題も指摘された。
被害者らの意見はもちろん重視すべきだが、各課題も踏まえて感情に流されず冷静に議論を深める必要があろう。最終的には世論を尊重しつつ結論を導き出してもらいたい。
鳩山邦夫総務相は宿泊保養施設「かんぽの宿」の売却問題で、手続きに不透明な点があったなどとする調査結果を公表し、日本郵政に初の業務改善命令を出した。日本郵政は六月末までに改善策を報告する。
この問題は、日本郵政がオリックス不動産(東京)と結んだ「かんぽの宿」など七十九施設を約百九億円で一括売却する契約をめぐって持ち上がった。鳩山総務相が売却先の選定などに疑念を示し認可を拒否、契約は白紙撤回された。総務省は、日本郵政から段ボール箱十七個分に及ぶ入札関係の資料提出を求め検証作業を進めてきた。
問題点に挙げられたのは十六項目。譲渡に際して地元自治体などに説明していなかった点について「国民共有の財産の譲渡という認識に欠ける」と指摘した。さらに「不当に低い売却額を日本郵政が容認した」「取締役会が担当執行役の業務遂行について十分な監督を行っていない」などとしている。
多くの施設を一括して安く売却することに疑問を抱く国民は多かろう。指摘された問題点の多さは入札のあいまいさを物語る。一方、総務省側も膨大な資料を精査したにもかかわらず、違法行為は見つかっていない。もやもや感はぬぐえない。
今回の混乱の根底には、日本郵政が不動産などを売却する際の明確なルールを定めていなかったことがある。今年二月に設けた第三者検討委員会を中心に取り組みを進めるが、政府が全株式を保有する特殊会社の公益性確保と、企業としての利益追求の両立をどう図れるか。
日本郵政の西川善文社長は「指摘を重く受け止め、きちんと対応する」と語った。厳正なルールと情報開示を軸に、国民の理解が得られる改善策の提示を求めたい。
(2009年4月5日掲載)