◇早期発見、徹底指導が鍵
「ネットいじめの恐ろしい点は、書き込みや画像がなかなか消えず、被害者の心の傷が癒えないことです」。県内の私立高校で生徒指導を担当する男性教諭(51)は沈痛な表情で話した。
この学校では07年春、2年の男子生徒が、仲間5人と1人を殴ったりけるふりをしながらいじめるシーンを携帯電話で動画撮影し、プロフ(自己紹介サイト)に載せた。約1カ月後。インターネットの掲示板に「いじめ動画」として取り上げられ、新聞やテレビでも報道された。
いじめをした生徒たちは被害者に謝罪し、プロフに載せた生徒は自主退学した。
だが、掲示板や動画サイトの管理者に消去を依頼しても、次々と別のサイトに転写される。今年に入ってからも転写された新たな動画が見つかった。連絡を受けた被害者の保護者は「まだ残っているんですか」とつぶやいて、絶句したという。男性教諭は「ネットいじめがどれほど卑劣で危険な行為か。生徒に必ず教えなければならない」と、自身に言い聞かせるように話した。
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「『自分の学校にネットトラブルはない』という教師は、あることに気付いていないだけですよ」。県教委は今年1月、ネットいじめの予防と対応に関するマニュアルを作った。県教委に作成を提案した県立戸田翔陽高校の管野吉雄校長は断言する。
子供らが日常的に使う「うざい」という単語も、文字になると直接聞くよりきつい印象で伝わり、思わぬ中傷合戦やいじめに発展することがある。戸田翔陽高では、教諭らが生徒からの被害の聞き取りや、サイト上をパトロールして発見に努める。管野校長は「ネットに悪口を書き込むことは大変なことなのだと分かってもらう必要がある」として、生徒を7日間程度の謹慎処分にし、保護者を学校に呼んで書き込みを見せて処分の理由を説明する。
問題が多発するのは、入学や進級で新たな友人が増える4、5月。管野校長は「この時に徹底して指導すれば、その後ほとんどトラブルは起きない。早期発見、早期対応がモットー」と語る。
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さいたま市で昨年10月、「うまくいけば不登校になる」などと同級生の携帯のプロフに書き込まれた中3の女子生徒が自殺した。かかわった同級生の名字を挙げ「復讐(ふくしゅう)はきっちりしますからね」と書かれた遺書が見つかったが、市教委は調査の結果、「いじめから3カ月後の自殺で、直接の原因とは考えられない」と結論づけた。
しかし女子生徒の母親(43)は語る。「学校は、以前から生徒たちがプロフを使っていることを知っていたようです。携帯やネットいじめの具体的な対策を、もっと前からとってほしかった」
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県教委は今年1月、公立の小中学校は「持ち込み原則禁止」、高校は「使用禁止」にするとの方針を打ち出し、市町村教委に通知した。だが、現場の教諭からは「携帯を持っている限りメールやネットへのアクセスは可能だ。学校の中だけ規制しても意味がない」「所在地が分かるGPS機能があり、子供の安全を守る便利な道具でもある。もっとマナーやルールを学ばせるべきだ」との声も上がる。
子供たちは携帯やネットとどう付き合うべきか。行政、学校に保護者を交えた議論が必要だ。【桐野耕一、稲田佳代】=おわり
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4月5日朝刊
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