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【北ミサイル発射】日米同盟の「新たな真実」
北朝鮮のミサイル発射は日本の国家安全保障の基本にいくつかの深刻な課題を突きつけた。なかでも今回の危機で抑止の存在感を薄めた日米同盟の機能に関しては「真実の時」をもたらしたとさえいえよう。
北朝鮮は日米両国だけでなくロシア、中国の反対を無視する形で平然と長距離ミサイルを発射した。米国本土にまで届きうるミサイルの打ち上げは98年のテポドン1号の発射、2006年のテポドン2号の発射と合わせて北朝鮮が国際社会に挑み、北東アジアでの対外脅威を増す戦略意図を再度、誇示した。こうした能力の顕示はそれだけで北東アジアの戦略的安定を崩していく。
とくに北朝鮮とは拉致問題などで国家利害が衝突する日本にとっては、いつでも弾頭ミサイルを撃ち込めるという北側の軍事能力の誇示は実効ある重大な威嚇となる。日本側の国家意思をねじ曲げ、抑えつける効果を持つわけだ。本来、この種の軍事威嚇を無効にすべき日米同盟の抑止力も、国際社会の連帯による「多国間外交」も、北朝鮮の無法行動を阻めなかった点にも、日本の安全保障への重大な教訓がある。
ゲーツ米国防長官は3月末のテレビとの会見で、北朝鮮のミサイルが米国本土に向かってこない限り、「迎撃の計画はない」と断言した。同じミサイルが日本領土に照準を合わせて発射されても迎撃の対象としないという意味となる。
文字どおりに解釈すれば日米安保条約の米国の責務に違反する重大な発言だった。長官の姿勢は北朝鮮のミサイル発射宣言への米国の対応の異様なほどのソフトさだけでなく、日米同盟を発射阻止のための抑止手段として前面に出さない基本とも合致していた。
現実には日米同盟はここ数年、両国共同のミサイル防衛こそが協力強化の象徴であり、今回のような際にこそ両国がミサイル迎撃でぴたりと歩調を合わせる共同防衛態勢を明示して、抑止とすることがより自然な帰結だった。
だが北朝鮮のミサイル発射の予告がなされて以来、オバマ米政権側では日本との同盟に基づく対応よりも、もっぱら多国間協力の効用が説かれた。その背景には同政権の「二国間よりも多国間」という基本姿勢とともに、オバマ大統領自身のミサイル防衛への消極姿勢があるといえる。
この構図を広げていくと、日本にとっては「北朝鮮からのミサイル攻撃で米国には必ずしも依存できない」という深刻な新シナリオさえ浮かびあがる。歴代の米政権とは異なる状態である。日本にとってオバマ政権下での日米同盟のそうした新たな真実が姿を現したのかと、探索をせねばならない時であろう。
一方、日本側でもこの機会に日米共同ミサイル防衛の政策論での懸案となっていた集団的自衛権の行使禁止について触れることがなかった。現在の憲法解釈では日本はどんな場合でも日本領土だけに向かってくるミサイルしか迎撃できない。日本の領土や領海のすぐ外で日本防衛のために行動する米軍の部隊や基地に向けられたミサイルを撃てば、集団的自衛権の行使となるから、撃つことはできない。
他方、米軍は日本領土だけを撃つミサイルも迎撃できるし、せねばならない。この不均衡を是正することが日米共同ミサイル防衛の実効発揮の大前提になるという主張は、ブッシュ前政権では盛んだった。だが日米いずれの側でも今回、この課題は提起されなかった。麻生太郎首相とすれば、この危険な緊急時に日米一体の日本防衛をより確固にするためにも「この種のミサイル防衛では集団的自衛権行使の権利を留保する」と解禁宣言する好機だった。だがそれもなく、米側の日米同盟を希薄にする流れを広くする結果となった。(ワシントン駐在編集特別委員 古森義久)
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