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【日本の議論】電磁波は本当に危険なの?

4月5日18時25分配信 産経新聞


【日本の議論】電磁波は本当に危険なの?

北里大学で開かれた日本衛生学会の電磁波に関するシンポジウム=東京都港区(写真:産経新聞)

 送電線や携帯電話、IH機器−。電流が流れると発生する電磁波(電界と磁界)が健康に与える影響を懸念する人が増えている。昨年7月、経済産業省のワーキンググループの提言を受けて設立された「電磁界情報センター」では「科学的根拠はない」としているが、「電磁過敏症」を訴える市民団体などでは「国や企業がもっと対応すべきだ」と主張する。幼少期からのケータイ使用など未知の研究分野も多いとされるこの問題を改めて検証した。

  ・大型の携帯電話基地局

■100基以上の基地局が…

 「携帯電話の安全は確認されていない。基地局が屋上に建ったマンション住民が引っ越したという話もある」

 3月31日、東京・広尾の北里大学で開かれた日本衛生学会の「携帯電話の電波の健康影響」についてのシンポジウムで、参加者が疑問を投げかけた。

 ケータイの普及とともに増える基地局(アンテナ)周辺で、健康被害への不安を訴える住民から反対運動が起きている。NTTドコモなど携帯電話会社は実数を明らかにしないが、反対運動で基地局の設置計画が変更されたり、撤去されるケースもあるという。

 反対住民らの相談にのってきたNGO電磁波問題市民研究会事務局長、大久保貞利さんは「研究会設立から13年になるが、反対運動による計画変更はこれまでに100基以上」と話す。

 これに対して、世界保健機関(WHO)で電磁波の健康影響を調査・研究してきた電磁界情報センター所長、大久保千代次さんは「実際に健康被害があるのなら大変なことだが、科学的な因果関係を示す証拠はない。WHOも国際的なガイドラインを守っていれば、がんやその他の病気のリスクが増加するという証拠は見つかっていないとしている」と指摘する。

■送電線で白血病?

 電磁界情報センターによると、電磁波の健康問題が世界的に認識されるようになったのは30年前の1970年代末。

 米国・コロラド州・デンバー市で、高圧送電線や配電線に近い住宅地で血液のがんである小児白血病の発生が高いことを統計的に示した研究が発表された。これは、国際的なガイドラインを大幅に下回る微弱な電磁波で健康影響を示していたことから、大きな波紋をよんだ。

 また、1992年にはスウェーデン・カロリンスカ研究所が高電圧送電線周辺に住んだことのある約44万人を対象に調査し、小児白血病の発症率が高いという結果も報告されている。

 ただ、住民を対象とした詳しい調査や、動物や細胞を使って電磁波の影響を調べる実験は他の国々でも行われており、喫煙と肺がんのような因果関係を示す実験データは得られなかったという。

 こうした中、WHOは1996年、電磁波の潜在的な健康リスクを調査するプロジェクトをスタート。日本を含む60カ国以上が参加、リスク評価を行ってきている。2002年には、WHOの付属機関である国際がん研究機関(IARC)が発がん性評価を行い、電磁波のうち、低周波の磁界を「発がん性があるかもしれない」(人への発がん性示す証拠が限定的で、動物実験で十分な証拠がない)と分類した。これは、コーヒーや鉛、ガソリン、クロロホルムも同じ分類にあたるという。

 2007年には、低周波の磁界と小児白血病との間に「因果関係があるといえるほどの証拠はない」とする見解も示した。

■消えない不安感

 一方で、住民の健康被害への不安はぬぐい去られたわけではない。実際に日常にある低レベルの電磁波で、耳鳴りや頭痛、めまい、疲労感、しびれなどの症状を訴える「電磁過敏症」の人たちがいる。

 電磁波問題市民研究会の大久保事務局長は「WHOの報告の中には、『因果関係があると考えるほどに証拠は強くないが、懸念や不安を抱く程度の証拠は十分にある』とする部分がある。たとえ科学的に実証されなくても懸念や不安を与えることを認めているわけなのだから、企業や国は対応するべきだ」と指摘している。

 こうした溝を埋めることは難しい。市民の間には、過去、公害事件などで企業や国が被害をなかなか認めようとしなかったり、証拠を隠蔽(いんぺい)したという不信感があるからだ。肺がんと喫煙の因果関係についても因果関係が認められ、対策がとられるまでには長い時間がかかった。

 WHOは、広がる不安に対応するため、情報提供や研究推進を提言している。日本に電磁界情報センターが設立されたのも、そうした一環だ。

 センターのスタッフはアルバイトも含め9人。WHOの報告書や海外の研究論文をデータベース化し、ホームページで公開。市民との意見交換会を東京や大阪で催した。本格的な活動を開始した昨年11月から3月までに約100件のメールや電話での問い合わせがあったという。送電線や変電所についての問い合わせがもっとも多く、家電製品や携帯電話と続いた。

■子供とケータイめぐる調査開始

 電磁波問題で、今最も話題になっているのが、携帯電話の使用による健康への影響だ。耳のすぐ近くで使うため、頭部や頸部(けいぶ)のがんの発症リスクが懸念されている。

 1998年、英BBC放送は携帯電話会社が、脳腫瘍(しゅよう)患者から訴えられたことを報じた。逆に、米国では90年代後半にかけ脳腫瘍患者のインタビュー調査を行ったが、携帯電話使用者とそうでない者との差はなかったという。

 ただ、携帯電話の使用と健康への影響をめぐる研究の歴史は浅く、データも少ないため、WHOは、日本や欧州を含む13カ国で研究を開始した。その結果は、今年中に発表される予定だ。

 日本では、慶応大学医学部の武林亨教授が患者約530人、住人約1600人を対象に調査したところ、携帯電話使用とリスク上昇の関連性はなかったという結果が出たが、スウェーデンでは、10年以上の携帯電話の使用者で、聴神経腫瘍(良性腫瘍)の発生率が3倍と高かったという気になるデータも報告されているという。

 武林教授は「スウェーデンの調査結果は無視できない」としながらも、「調査数が少なく、脳腫瘍の発症患者やその家族に聞き取りを行うという方法をとっており、記憶が不正確だったり、質問することで携帯電話が病気の原因という答えを誘導してしまうことがある」と調査方法自体の問題点も指摘する。

 さらに、不明なのが子供への健康被害だ。子供のケータイ普及が最近であるため、世界的にもほとんど研究は行われていない。そのうえ、子供の頭蓋骨(ずがいこつ)は成人と違って小さく、形状も違っており、成人よりも携帯電話の電磁波にさらされるレベルは高い。子供の携帯電話の使用は生涯にわたるため、その影響も見ていかなければならない。

 東京女子医大は、現在、小学4〜6年生を持つ保護者を対象に、子供の携帯電話の影響についての調査を行っており、協力者を募集している(登録はホームページ http://keitai.twmu.net/)

 同医大の佐藤康仁助教は「子供の悩腫瘍の発症率は10万人に2人。現在、1800人が登録しているが正確に調査するために協力者を数万人に増やしたい。子供の携帯電話の影響はまったく分かっておらず、将来の安心のためにも協力してほしい」と話している。登録者は携帯電話についての質問についてメールで専門家に答えてもらえるという特典もある。

■世界各国は…

 電磁波について世界各国はどう対応しているのか。

 米国・カリフォルニア州は、電気事業者は、送電線や変電所の新設や拡充の際に、予算の4%を電磁波低減に使うことを定めたり、法的規制ではないが、英国やフランス、フィンランドは子供の携帯電話の使用を控えるよう勧告が出されている。これに対して、日本は国際的なガイドラインと同様の指針はあるが、それ以上の規制はとられていない。

 電磁波問題市民研究会の大久保事務局長は「健康被害の因果関係がはっきりしないにしても、一般の懸念に対応するため今後、送電線を地中化したり、子供の携帯電話の使用を禁止するなどの対策をとるべきだ」と話している。

 100%の安全はない。どこまで「安心」対策を行うのかはコストも伴う。科学的な結果を踏まえたうえで、判断するのは国民になってくる。

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最終更新:4月5日18時46分

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