2009年3月28日
谷村はるかさん(38) 歌人
「私にしか書けないのは、記事か。歌か」と自問して短歌をとった元新聞記者、谷村はるかさんが第一歌集『ドームの骨の隙間(すき・ま)の空に』(青磁社)を出版した。
〈丸屋根の骨の隙間の青空にひとりを探しつづけるこころ〉など、“広島と私”をうたい、短歌研究新人賞(06年)で入選した一連の歌を含む約430首を収録。
歌を始めた98年以降08年までの詠を3部構成で編むが、「すべて街への恋文です」。生地東京のほか福井、広島、大阪、博多など、縁あって住み、あるいは磁場にひかれ何度も訪れた土地との相聞を思わせる、独特の世界が立ちあがった。
とりわけ広島に寄せる愛慕が色濃い。朝日新聞福井支局を経て04年に異動した2度目の任地だ。「海がきれいだった。振り返れば山。町に幾つも川が走り、刻限がくればあたりは潮の香に満ち、鳥の群れが小魚を食べにくる。心を洗う街だった」
1年後、谷村さんはここで4年の記者生活に終止符をうつ。「両立できなかった。どんどん歌が詠めなくなる、自分の言葉を取り戻さねばと思ったのです」
安アパートに住み、書店のレジ係などで収入を得て1年半余、去りがたく広島暮らしを続けたのち帰京。今は派遣の仕事をつなぎながら歌優先の、紛れもない歌人の日を送る。
「だれもが何らかの形で原爆とつながる個人史を持つ」広島。「毎日、そこにあって、ひとを失ったあとどう生きるか、失わないためにはどうすればいいかを問いかけてきた原爆ドーム」の広島。「8・15のヒロシマとは違う広島」を抱いて、谷村さんは離陸した。(河合真帆)
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