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発射成功なら「ICBM級」技術力 米への脅威も強まる

2009年4月5日12時10分

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 北朝鮮が、「テポドン2」とみられる長距離弾道ミサイルのロケット技術を用いて、「人工衛星」を打ち上げた。「成功」が確認されれば、そのミサイル開発が米本土の一部を射程に収める大陸間弾道ミサイル(ICBM)級のレベルに達したことを意味する。「核」と「運搬手段」の2枚のカードがそろうことで、北朝鮮の軍事的脅威は、米国にとってより現実味を増すことになる。

 2段式のテポドン2(全長35メートル、射程約6千キロ)をもとにした3段式の改良型(同約8千キロ以上)とみられる。重さ1トン前後の弾頭を積み、グアムやハワイ、アラスカなどに到達するとされる。

 いずれも旧ソ連製の短距離ミサイル「スカッド」をもとに、80年代から北朝鮮が独自に大型化を進めてきた。

 最も注目されるのは、北朝鮮のロケット開発が98年に発射されたテポドン1以来、どこまで進んだかだ。日米など各国は、観測データをもとに分析を急ぐことになる。

 もしテポドン2の改良型なら、とりわけ第1段目のロケットエンジンは「未知の新型」として関心度が高い。地球周回軌道への衛星投入に成功したとすれば、より長射程の弾道ミサイルを保有したことを意味する。

 弾道ミサイルと宇宙ロケットは、目的がそれぞれ「敵地攻撃」「衛星運搬」と異なるが、用いる技術はほぼ同じ。主な違いは飛行軌道にある。ミサイル技術に詳しい軍事評論家の野木恵一氏は、野球の「ホームラン」と「ライナー」の違いにたとえる。「高度や角度などの軌道が確認できれば一目瞭然(りょうぜん)」という。

 弾道ミサイルは、最大の距離が出るよう高い角度で打ち上げるのに対し、人工衛星を軌道に乗せる宇宙ロケットは、それより低い大気圏外を秒速約8キロの高速で水平飛行させる必要がある。

 テポドン2を弾道ミサイルとして使った場合、最大高度は約600〜1千キロ。宇宙ロケットとしてなら、98年のテポドン1(射程約2千キロ)とほぼ同じ約250キロではないか、と野木氏は推定。「(成功したなら)自前の長距離弾道ミサイル技術を確立させたことになり、米朝の交渉は一つの仕切り直しとなる。米国は新たな戦略を組み直すほかない」と話す。

 ロケット工学の専門家で宇宙工学アナリストの中冨信夫氏は、今回の打ち上げを「ICBM開発のための偽装実験」と考えている。

 「打ち上げに成功すれば、エンジンの燃焼を制御でき、設定通りの軌道に乗せられたということ。これはICBM技術を同時に習得したことになる。国威発揚にとどまらず、北朝鮮は商品ベースの技術を習得したといえる」

 では米国にとって、その軍事的脅威はどのくらい増したといえるのか。

 核弾頭を載せたミサイルを米国に到達させるには、弾頭を小型化し、運搬ロケットを大型化する必要がある。搭載重量(ペイロード)と飛行距離は反比例するからだ。

 米議会調査局(CRS)が2月に発表した資料では、テポドン2は弾頭を200キロにすれば「ワシントンまで届く」能力(射程約1万キロ)があるという。長崎に落とされたプルトニウム型原爆は重さ約5トン。推定上、テポドン2のペイロードは約750キロ、改良型は1トン前後とされるが、今回どのくらい向上したかは精密な分析を要する。

 核弾頭の小型化がどこまで進んだのかも、脅威をはかる大きな要素だ。米国防情報局(DIA)は3月、報告書で弾道ミサイルに搭載できる小型核弾頭の開発に成功した可能性を示唆した。北朝鮮はすでに日本を射程に収める「ノドン」(射程約1300キロ)を実戦配備、ノドンに搭載可能な小型核弾頭を保有しているとの民間研究機関の分析もあり、重大な脅威となっている。

 しかし小型化について別の見方をする専門家もいる。科学技術ジャーナリストの松浦晋也氏は、06年の地下核実験の結果から推定して「まだ数トンのレベル」とみる。「形の上では、核保有国といいたいのだろうが、まだとても載らないと思う」と懐疑的だ。弾道ミサイルとして運用するには、「さらに弾頭を大気圏に再突入させる高度な技術開発も必要」で、実際の脅威は限定的とみる。

 このほか観測データからは、飛行性能や燃料の燃焼状況などを分析することで、今回のミサイルの詳細な特性を割り出すことができる。例えば炎の色の分析からは燃料の種類や配合がわかり、北朝鮮の技術がイランやパキスタンの弾道ミサイルとどんな関連があるのかも確認できる。

(編集委員・谷田邦一)

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