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ニューディール修正主義

ルーズベルトがアメリカを救ったという神話は、歴史家や経済学者によってくつがえされようとしている。この問題について開かれた会議のもようをNYタイムズが報じている。

ルーズベルトが金融を緩和して銀行の連鎖倒産を止めたことは評価されているが、失業率はニューディールが始まってからも下がらなかった。ジャーナリストAmity Shlaesの『アメリカ大恐慌』は、その原因はルーズベルトが裁量的に市場に介入したからだと説明している。歴史家Richard Vedderも「ルーズベルトが実質賃金を高止まりさせたために労働市場の調整が阻害された」と論じた。

Anna SchwartzもRobert Lucasも、財政政策によって経済を刺激して「需要不足」を解消するというケインズの理論は、おとぎ話だと批判した。政府支出は民間需要をクラウドアウトするだけで、意味があるのは金融政策だけだ。

ニューディールを擁護する歴史家は、むしろルーズベルトが財政赤字を気にして十分な規模の財政支出を行なわなかったことが1937年の景気後退の原因になったという。ニューディールによって建設されたインフラは、戦後の繁栄の基礎となった。また社会保障によって失業者の生活は改善された。

今は1930年代でいえば、どのへんだろうか? ニューディール擁護派は、ルーズベルト政権の始まった1933年に比較するが、Shlaesは1937年に似ているという。このころ市場は自律的に回復していたが、ルーズベルトがワグナー法などによって市場への介入を強めたため、成長率はふたたびマイナスになった。Coleは「30年代と現在を比べるのは間違いだ。当時の恐慌は今よりはるかに深刻だった」と指摘する。

Vedderは「むしろ1920年の不況と比べたほうがいい」という。当時のハーディング大統領は飲んだくれで、ポーカーやゴルフばかりしていたにもかかわらず、景気は22年には回復したといわれている。しかし実は、政府が何もしなかったおかげで経済は早く回復したのだ。

Mankiw's blogによれば、Ohanianは次のような新しい論文を発表した:
I conclude that the Depression is the consequence of government programs and policies, including those of Hoover, that increased labor’s ability to raise wages above their competitive levels. [...]The 1930s would have been a better economic decade had government policy promoted competition in product and labor markets, rather than adopting policies that extended monopoly in product markets, and that set wages above competitive levels which prevented labor markets from clearing.
追記:asakiyumemish氏が邦訳をつけてくれた。ありがとう。
コメント ( 3 ) | Trackback ( 1 )
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コメント
 
 
 
Unknown (kk8n53m)
2009-04-05 02:11:43
マケインのほうが良かったんじゃないですかね。
 
 
 
ぐうたら医者が一番の名医 (江戸川アダモ)
2009-04-05 03:18:02
よく「市場の失敗」などと言いますが、これまで政府が市場(金融でなく自体経済)に介入して上手くいった試しがあるんでしょうか?

不景気が風邪だとすると、景気対策は解熱剤のようなものでしょう。解熱剤を飲んで治ったように感じても薬が切れるとまた元に戻るだけ。発熱は健全な免疫反応なので、それを抑えるとかえって風邪の治りが遅くなるだけです。

よく引き合いに出されるのは、子供の場合などは体温が上がりすぎて体が持たない(後遺症が残る)という話ですが、日本経済はもはや子供ではありません。いや、たとえ途上国であっても、経済に関しては(マネー供給さえ充分なら)放置するのが一番よいのではないかと。

しかし、医者である政治家や役人は、不安がる患者(国民)に「数日寝てれば治りますよ」といっても納得してもらえない。それに薬の一つも処方しないと自分の商売もあがったりです。かくして「景気対策」はなくならず、薬漬けの不健康な産業構造が続くわけですね。
 
 
 
化けて出てくるのが心配 (Taro)
2009-04-05 09:24:26
 経済学とはまったく違う畑から見て興味深く思う点は、例えば、既に1970年代にMurray Rothbardは次のように書いています。

Austrian prescription for the business cycle will be: First, if we are in a boom period, the government and its banks must cease inflating immediately. It is true that this cessation of artificial stimulant will inevitably bring the inflationary boom to an end, and will inaugurate the inevitable recession or depression. But the longer the government delays this process, the harsher the necessary readjustmnets will have to be. For the sooner the depression readjustment is gotten over with, the better. This also means that the government must never try to delay the depression process; the depression must be allowed to work itself out as quickly as possible, so that real recovery can begin. This means, too, that the government must particularly avoid any of the interventions so dear to Keynesian hearts. It must never try to prop up unsound business situations; it must never bail out or lend money to business firms in trouble.
(p. 239. Rothbard, Murray. "Inflation and Business Cycle", _For a New Liberty_, Auburn: Ludwig von Mises Institute, 2006.)

 Rothbardも経済学者であり、師であるMisesに捧げた_Man, Economy, and State_という大著でアカデミックには知られているようです(またRothbardは経済学以外でも合衆国建国史でも有名ですが)。経済学上の裏付けをもって、前述のような内容のことを一般読者に語っていることは間違いありません。
 しかし、それから30年以上たった今でも、ニューディール擁護派と批判派のあいだで、似たような論争が行われているとは驚きです。しかも、この経済危機のさなかに。
 オーストリア学派の経済学者の声は、このあいだずっと無視され続けてきたということなのでしょうか。もちろん学問的な細部の議論については、その後の新しい状況も多く生まれているでしょうから、新しい議論があっても当然なのです。しかし、大筋のところでreinvent the wheel的な議論を行う必要があるのでしょうか。
 MisesやRothbardが墓の下から、「おい、それは我々が何十年も前に言ってたことだぞ。忘れたのか!」と怒って化けて出てくることを心配します。
 
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