安全性に問題がないとしても締まりのない話ではないか。原子力安全委員会が想定を超える大地震に襲われた柏崎刈羽原発の耐震確認の経緯を説明した原子力安全白書を出した直後に、東京電力が解析の誤りを発表した。こんな調子では耐震審査は万全という信頼感が培えない。
白書は柏崎原発で新潟県中越沖地震のような大地震を想定できなかったとし、審査強化の考えを示している。東電は中越沖地震を引き起こした断層を過小評価し、安全審査でもそれを見過ごした。安全委はそれを率直に反省し、スキのない審査の決意を示したのに、東電の解析誤りで出ばなをくじかれた思いだろう。
原発の耐震性の不安解消に審査の強化は不可欠だ。しかし、専門家が厳格審査するにしても、電力会社が提出した断層評価や解析のデータしかなければ限界がある。評価・解析が甘くても審査で見抜ければいいが、すべてを見逃さないようにするのは無理だろう。
だから、審査の強化には電力会社の断層評価や解析を検証する仕組みが必要だ。今回の東電の訂正のような細かな解析は別にしても、少なくとも地震の巣となる断層は電力会社の過小評価を見逃さないよう、国や第三者機関が再調査すべきだ。
耐震指針や断層評価に新たな知見を反映させる仕組みも重要だ。安全委は2006年秋に25年ぶりに耐震設計指針を改定し、既存原発もこれに沿って点検するよう指示した。安全委はその後に起きた中越沖地震を踏まえ、新指針を見直す必要がないか問われているが、見直し議論は棚上げし、姿勢はあいまいだ。
安全委は新指針を補完する断層評価の手引をつくり、切り抜けている。ただ、耐震審査が万全と言い切るためには、新指針の見直しの要不要、新たな知見を取り入れる仕組みを明確にする必要がある。
既存原発の耐震性の再点検では過去の断層評価の甘さも浮かび上がった。断層調査技術が上がれば断層評価も変わる。定期的に断層調査を義務づけるべきではないか。
復旧を急ぐ柏崎原発ではぼやなど火災も起きている。審査後の解析訂正など電力会社に緊張感が欠けていないか。猛省を促したい。