社説

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷

社説:ミサイル誤情報 「勘違い」ではすまない

 北朝鮮が「人工衛星」と主張する長距離弾道ミサイル発射をめぐり、政府が4日午後0時16分、「発射された模様だ」と誤った情報を地方自治体と報道機関に流した。5分後に取り消したが、テレビが「発射」を速報し自治体などに混乱を招いた。

 「発射」を国民に速報するのは政府の当然の責任だが、危機管理上の誤情報は深刻と言わざるを得ない。政府は、自衛隊内の情報伝達で「勘違い」があったと説明している。詳しい検証が必要だが、お粗末というだけですますわけにはいかない。単純な人為ミスで安全保障面の重大な事態を引き起こしかねない仕組みに問題があったのではないか。

 政府の速報態勢は、早期警戒衛星で発射を探知した米国からの情報を受けた防衛省が首相官邸に連絡し、緊急情報ネットワーク「エムネット」で自治体や報道機関に通報、国民はマスコミ報道や防災無線で発射を知るというのが基本だった。

 今回の情報の発信源は日本のレーダーだった。防衛省は、弾道ミサイルなどの探知・追尾のために、固定式の警戒管制レーダー(FPS5、通称・ガメラレーダー)を開発し、千葉県旭市にある研究試作機を北朝鮮の「発射」対応で実戦運用していた。このレーダーが、日本海上に「何らかの航跡」を探知し、航空自衛隊の航空総隊司令部に伝えられた。

 ところが、司令部の担当者が、米国の「早期警戒情報」でも発射が確認されたと勘違いし、防衛省の中央指揮所に「発射」と連絡、これが首相官邸に伝わったというのである。

 重要なのは、担当者が北朝鮮の基地を静止軌道で注視している米軍の早期警戒衛星からも発射情報がもたらされたと勘違いしただけでなく、司令部がそれをチェックしないまま速報ルートに乗せてしまったことである。安全保障が個人の勘違いで左右される危うい構図の上に成り立っていたことになる。自衛隊内の態勢に問題があったのは間違いない。

 こうした情報伝達の基本的ミスが起こるようでは、北朝鮮が発射した時、必要もないのに迎撃することはないのか、日本に落下する場合にミサイル防衛(MD)がきちんと機能するのか、といった疑念もわいてくる。迎撃システムは自衛隊内の正確な情報伝達を前提に成り立っているからだ。

 一方、これとは別に、ミサイルが頭上を飛ぶとみられる秋田県で、午前11時過ぎに「発射」の誤情報が県から全市町村に電子メールで一斉に伝達される騒動もあった。県は現地の自衛隊員から口頭で情報が伝えられたと説明し、防衛省もコンピューターの不具合によるものと認めた。こういう形で情報が飛び交うようでは、国民は戸惑うばかりだ。

毎日新聞 2009年4月5日 東京朝刊

社説 アーカイブ一覧

 

特集企画

おすすめ情報