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社説

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分権改革―首相の「決断」はどこへ

 地方分権にかける麻生政権の意気込みに大いに期待したのに、結果は全く逆である。政府の出先機関を統廃合する道筋を示す「工程表」のことだ。

 政府が先月決めた工程表は、2012年までの分権改革のスケジュールを示したものだ。昨年12月、地方分権改革推進委員会(委員長、丹羽宇一郎・伊藤忠商事会長)が出した2次勧告を踏まえてつくるはずだったが、肝心の2次勧告の骨格部分がすっぽり抜け落ちてしまった。

 勧告を読んでみる。8府省が持つ出先のうち15機関について、116項目の事務や権限を廃止、もしくは自治体に移す。これにより9万6千人の国家公務員のうち3万5千人を削る。国土交通省の地方整備局や農林水産省の地方農政局など6機関を、ブロックごとに「地方振興局」と「地方工務局」に統合する。

 ところが工程表には、こうした人員削減の数的目標や「振興局」といった具体案はあとかたもない。あるのは「勧告の方向性に沿って検討を進め」とか「要員規模について精査を進める」といった抽象的な言葉だけだ。

 年内に決める改革大綱に、結論を盛り込むのだという。要するに、秋までにある衆院選が終わるまでは、何も決めないでやり過ごそうということだ。

 こんな絵に描いたような骨抜きになったのは、自民党の地方分権改革推進特命委員会などを舞台に、役所の意を受けた族議員たちが猛烈に巻き返しを図ったからだ。

 これから景気対策が大事なのに、3万5千人も削減すると言っては公共事業を担う出先機関の士気が落ちる。雇用情勢が厳しくなる中、国のハローワークは地方に移すべきではない――。これらが族議員たちの言い分だ。

 一見もっともらしいが、本音は別のところにありそうだ。巨額の公共事業などの予算を実際に差配するのは出先機関であり、族議員たちはそこへの影響力を競っている。出先機関の縮小や自治体への権限移譲は、自らの権力の縮小につながりかねない、という思惑が透けて見える。

 麻生首相は、そんな抵抗があっても「私が決断する」と、丹羽委員会に大胆な勧告づくりを促したのではなかったか。それがこんな骨抜きを容認するようでは、ほとんど裏切りに等しい。選挙を考えれば、自民党が得意とする利益配分の伝統手法を変えるのは得策でないと踏んだのだろうか。

 委員の間に、近く予定される次の勧告を見送ろうという反発の声がくすぶるのも無理はない。

 歴代自民党政権の分権への取り組みは、威勢のいい掛け声と骨抜き、先送りの連続だった。このままでは、だから政権を代えなければという民主党の主張にいよいよ説得力が増す。

大戸川ダム―国交省は中止の明言を

 国土交通省が発表した淀川水系の河川整備計画に、大戸川(だいどがわ)ダムについては「本体工事は当面実施しない」とする方針が盛り込まれた。ダム建設は凍結するというのが国交省の説明だ。

 淀川上流の大津市につくるこのダムについて流域の大阪、京都、滋賀の3府県知事は、建設反対の意見書を国交省に提出した。97年に河川法が改正されて、河川整備計画をつくる際は、流域の知事から意見を聴くことが義務づけられた。3知事の意見書はその手続きに沿ったものだ。

 大型公共工事の実施をめぐって国と地方とが真っ向から対立するという、地方分権の時代を象徴するできごとだった。国交省も「地域のことは地域で決める」と主張する知事たちの声を無視できなかったということだろう。

 大津市など流域の市町は建設促進を要望した。幅広い判断が求められる知事たちの意見をくんだのは常識にかなっている。財源が限られる時代、地元が合意できない事業よりは、ほかの事業に、という考えが国交省にあったのかもしれない。

 ただし、今回の国交省のやり方には理解しにくい点がある。整備計画に「凍結」という言葉がないうえ、「本体工事は、中上流の河川改修の進み具合とその影響を検証しながら実施時期を検討する」と書かれていることだ。

 これでは、建設か凍結かはっきりしないだけでなく、依然として建設を前提にしているということではないか。

 大戸川ダムの必要性や緊急性については、国交省自らが専門家や住民を集めてつくった流域委員会からも同意を得られなかった。国交省は凍結ではなく、建設の中止を明言すべきである。

 やはり熊本県知事が反対を表明した川辺川ダムでは現在、国交省と県、流域市町村が「ダムによらない治水」の検討を進めている。大戸川ダムでも同じ検討に入るべきだ。

 3知事はそれぞれ財政、地方分権、環境といった観点からダム建設に反対した。上下流の利害を超えて結束した背景には中央集権への反発もあった。

 大戸川のような国直轄ダム事業は、地域の優先順位とは関係なく進められ、自治体は多額の負担金まで求められる。そうした公共事業のあり方に「ノー」を突きつけたわけだ。

 各地のダム計画にも影響を与えるに違いない。

 国交省や自治体が計画しながらまだ完成していないダムは、全国に約150基もある。多くは高度成長期につくられた計画で、水需要や発電など前提にしていた社会状況はすっかり変わった。ダムがもたらす生態系への影響も懸念されている。

 国交省は、一つひとつの地域の声ときちんと向き合い、立ち止まって考え直してはどうか。

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