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時効:見直し「少し希望持てた」 遺族、「遡及」議論評価 日弁連反発「人権損なう」

 「国の真剣な姿勢を感じる」「制度改正は行き過ぎだ」--。凶悪・重大事件の公訴時効を見直す法相の勉強会結果に対し、犯罪被害者団体からは、国が制度見直しに取り組み始めたことを積極的に評価する声が出た。一方、日本弁護士連合会には、時効廃止や長期の延長は容疑者・被告の人権を損なう可能性があるとして反対意見が根強い。刑事裁判への参加など被害者の権利保護が進む中、容疑者が判明していない未解決事件の遺族たちにも光が当たるのか注目が集まる。【石丸整、山本浩資】

 時効撤廃・停止を求めて結成された「殺人事件被害者遺族の会(宙(そら)の会)」の代表幹事で、上智大生殺害事件(96年9月)で次女を失った小林賢二さん(62)は「論点整理の段階とはいえ、時効制度の見直しに向けた国の真剣な姿勢を感じる。特に見直しの遡及(そきゅう)適用についても議論対象として取り上げられたことは、時効が進行中の遺族にとって大きい」と評価する。勉強会が今後も継続され、夏ごろをめどに一定の方向性を打ち出すと明言されたことにも「ようやく届き始めた私たち被害者、遺族や国民全体の声を国は尊重し、良い結論を導き出してほしい」と期待した。

 全国犯罪被害者の会(あすの会)幹事で、千葉市の都立高校教諭強盗殺人事件(97年2月)で夫を失った内村和代さん(69)も、時効が進行中の事件への遡及に言及している点を一番に評価。「少し希望が持てるのかなという思い。事件が我が身に降りかかったらどうなるかということを考えて、過去の事件にまでさかのぼって適用されるよう議論を尽くしてほしい」と話した。

 一方、日弁連には、犯罪被害者側にたって時効制度に対する検討を始める動きもあるが、見直しに否定的な意見が根強い。刑事法制委員会事務局長代行を務める山下幸夫弁護士は「被害者を含むみんなが意見を述べ、制度を変えていくのはいいことだが、容疑者の人権を重視し、無罪の立証が困難になることを考えると、時効廃止や極端に長い期間の延長は行き過ぎだ」と制度の見直しに反対している。

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 ■解説

 ◇被害者の声配慮

 公訴時効の見直しを議論した法相勉強会の検討結果は、法制度の壁を意識しながらも最大限に被害者遺族の声に耳を傾けたものと言える。それを裏付けるのが、これまで議論を避けてきた遡及(そきゅう)適用の検討に踏み込んだ点だ。憲法は、違法行為の実行時の後に定められた厳しい罰を科すことを禁止する「遡及処罰の禁止」を掲げている。時効の遡及適用は違憲とする学説もあり、前回公訴時効を延長した05年の刑事訴訟法改正の際も、ほとんど議論されなかった。

 これに対し、省内には「当時、遡及を適用していれば、たった4年で議論は再燃しなかった」と当時の議論不足を指摘する声もある。法改正につながっても遡及適用がなければ、いま声を上げている遺族たちは救われない。この点を踏まえて勉強会は、検討は避けて通れないと判断した。

 今回の議論は、刑事裁判への被害者参加制度(昨年12月施行)などを実現した被害者施策の一環と位置づけられる。再び問題が浮上しないよう、あらゆる角度から、拙速にならない議論が求められるだろう。【石川淳一】

毎日新聞 2009年4月3日 東京夕刊

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