|
きょうの社説 2009年4月4日
◎現代美術展 再現したい草創期の熱気
六十五回の節目となる現代美術展が、きょう開幕する。今回の作品搬入数が、過去最高
の千六百八十四点を数えたことは、現美という「真剣勝負」の舞台の揺るぎない信頼感を示すものであり、時の景気動向にも動じることなく、良質の文化を求める風土が、当地に受け継がれている証しと言えるだろう。今の状況とは比較しようもないが、現美は、終戦の虚脱感と飢餓感が漂い「美術や文化 で、めしが食えるか」と言われた時代に、あえて心の豊かさを復興の糧にしたいという先達の志によって産声を上げた。そして制作意欲に燃えた作家や県民から熱狂的な支持で迎えられた。 当時は、空腹を満たすことが精一杯の時代だったが、現美に向けて、作家たちは惜しげ もなく材料費をつぎ込み、妥協を許さぬ力作の制作に当たった。開幕すると、県民らも国民服やもんぺ姿で会場に足を運び、十七日間の会期中、合わせて四万人もの鑑賞者が訪れたのである。 今回は、第一回展から現美を支えた宮本三郎や高光一也の両大家をはじめ、鬼才・鴨居 玲の現美デビュー作など、巨匠の貴重な秀作も会場を彩る。こうした作品群に触れることで、現美草創期の気迫をいま一度思い起こし、美術王国の熱気を共有したい。 今回の入選、入賞者を見れば、新入選者や受賞者の中に、中堅、若手の躍進が目立った 。新しい感性を持った作家が、現美を大きな目標として制作に励むことが、地元美術界の「元気」につながる。 作家を支える地元の側にも、頼もしい動きが見えてきた。景気後退で美術を取り巻く環 境が厳しさを増し、画廊のメッカである銀座でも店をたたむところがある中で、この春、あえて金沢の中心部にギャラリーを開設し、若い作家たちに発表の場を提供する若い画廊主もいる。 こうした動きが出てくること自体、石川の美の風土の豊かさを示すものであり、現美が 切りひらいてきた沃野(よくや)と言えるだろう。いかに不況であっても、本物の芸術は生き続けることを、あらためて現美の場で実感したい。
◎G20と日本 「経済大国」試される場に
世界二十カ国・地域(G20)の首脳による金融サミットは、追加の財政出動や金融規
制などで温度差が表面化したものの、経済体制の違いを乗り越え、世界経済を早期に回復させることで何とか足並みをそろえた。年内に三回目の開催も決まり、G20の枠組みはこれから世界経済を議論する主要舞台になっていくだろう。麻生太郎首相は「世界二位の経済大国の責任」を繰り返してきたが、金融サミットはその「経済大国」の真価が試される場になることを認識する必要がある。金融サミットでは、各国が総額五兆ドル(約五百兆円)の景気刺激策を実施することで 合意し、国際通貨基金(IMF)の試算に基づき、二〇一〇年末までに実質経済成長率2%を達成することを事実上の目標に設定した。 日本の昨年十−十二月期国内総生産(GDP)は年率換算で12・1%減になるなど、 主要先進国の中でも落ち込みが際立っている。このままでは金融サミットの努力目標を共有できないばかりか、足を引っ張ることにもなりかねない。追加経済対策の中身や規模がますます重要になってきた。 金融サミットでは保護主義の阻止でも合意したが、実際には輸入関税引き上げや自国製 品の優遇策など保護主義的な措置が相次いでいる。不況下では各国が内需を抱え込み、自国優先に走りやすい面があるとしても、そうした動きが広がれば日本にとって深刻な影響をもたらす。日本経済も外需の落ち込みを内需でそっくり補うことはできず、景気回復の前提は外需の復活であることに変わりはない。自由貿易体制の維持へ向け、強いメッセージを発信し続けることも日本の重要な役割である。 今回の金融サミットは世界経済の新たな秩序づくりへ向けた主導権争いの様相もみせた 。金融や経済の国際ルールづくりは、自国に有利な内容につなげようとするせめぎ合いであり、各国は冷徹な国益の論理で動いている。数年後には中国が第二の経済大国になるといわれるなかで、金融サミットはまさに日本の国際社会における浮沈のかぎを握る場となる。
|