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日本は法治国家なのか

派遣労働者の置かれている状況が、日本経済の悲惨な現状を集約していることは確かだが、その怒りが役所に住居の斡旋を求める陳情になるのでは、現状を打破できない。彼らの敵は、生産性を大きく上回る賃金をもらって終身雇用を保障されているノンワーキング・リッチなのだ。その最たるものが、退職後も第2、第3の職場まで「超終身雇用」を保障される高級官僚である。

あまり注目されていないが、天下り廃止を決めた公務員制度改革が政令によって骨抜きにされ、渡辺喜美氏がこの政令の撤回を求める要望書を自民党の行革推進本部に提出した。今週の週刊文春で高橋洋一氏も怒っているが、この政令は法律と矛盾する規定を政令で定めるルール違反である。

昨年改正された国家公務員法では、天下りは「再就職等監視委員会」が承認することになっている。ところが野党がこの監視委員会の人事承認を拒否したため、なんと政令で「監視委員会の委員長等が任命されるまでの間、内閣総理大臣が権限を行使する」と定めたのだ。これは各省庁が権限を行使するということだから、結局いまと同じことになる。さらにこの政令には、あきれたことに「元職員でも必要不可欠な場合は斡旋できる」という規定が忍び込まされ、天下り後の再々就職を斡旋する渡りも公認された。

法律で「監視委員会が行なう」と明記されている権限を、政令で首相に変更するのは、法治国家の根幹にかかわる違法行為である。さすがに国会で民主党が問題にし、自民党の行革本部も「霞ヶ関の暴走だ」と首相を突き上げ、首相も「渡りは承認しない」と答弁した。メディアも渡りばかり話題にしているが、根本的な問題は監視委員会の権限を各省が乗っ取ることだ。これは日本が法治国家か官治国家かをわける重大な分かれ目である。
コメント ( 14 ) | Trackback ( 7 )
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コメント
 
 
 
唖然 (麦茶)
2009-01-08 22:57:33
何ですかこれは。政令って法律に反してもいいのですか。
 
 
 
おまけ (池田信夫)
2009-01-08 23:54:26
この話は、半年ぐらい前から高橋氏に聞いていました。彼も「首相が代行する」という話は聞いており、「それはできない条文になっている」といっていたのですが、政令で換骨奪胎するとは驚いた。

テクニカルにいうと、監視委員会が発足できない状況というのは法律で想定していないので、暫定措置として首相が代行するという「解釈」はありえますが、それは国会で法律を修正しないとおかしい。官庁が天下りを承認するというのは、単なる運用の問題ではなく、天下りをやめるという改正案の根幹をくつがえすものだからです。

百歩ゆずって天下りを各省が承認するのは職員の処遇として認めるとしても、「渡り」は民間人への便宜供与であり、違法の疑いが強い。ただ、ここで先輩の人事が渋滞すると、これから天下りする官僚の行き先もなくなるので、霞ヶ関としては決死の強行突破をはかったのでしょう。しかし逆にこれが、首に縄のかかった麻生政権の足を引っ張ることになるのでは・・・
 
 
 
憲法73条 (hl)
2009-01-09 00:38:36
本日、国会審議での中継を拝見しておりましたが、
法相の答弁すら、全く法議論にはなっておりませんでした。情けない。

憲法73条を政令が覆す。
こんな事なら、ハローワークに集約してしまうべきです。
 
 
 
Unknown (TGB)
2009-01-09 02:29:24
日本社会の根幹だった終身雇用は維持できなくなって崩壊した
世の中にはもうこんなに非正規社員と外国人労働者で溢れかえってるのに、正社員がただで済むわけが無かった
それと同じように、その上に成り立つ超終身雇用の官僚も無傷で済むわけが無かった
これはまるで古い細胞が剥がれ落ちていくかのようだ

バブル崩壊から20年、日本もついに力尽きてしまったのか
日が落ちるように落ち、枯葉が落ちるように落ちる

もう見栄張ってる場合じゃなく、崖上りしてる労働者がロープを切ってそれに捕まってる人を谷底に落とすしかない
厚生労働省などは廃止して、その再就職の世話ならしたいですけどね
エリートは大企業に行けるだろうけど、それ以外はトヨタの工場でネジでも切ってろっつーの
あ、今仕事無いんだった
それにそんなことしたら僕の仕事がますます無くなってしまうな…
あー全く
 
 
 
三権分立 (青木)
2009-01-09 06:29:00
日本では立法権も事実上官僚の手にあるので、決して三権分立ではありません。
国会がやっていることは単に協賛であって立法ではありません。なけなしの立法権が政令によって更に骨抜きになっています。
法律と矛盾する今回の政令は憲法に違反するので論外ですが、政令に白紙委任するような法律が多すぎます。

社会科の教科書にこうした実態が書かれることはありません。教科書は文部省が検定していますから。
 
 
 
やっぱりマッチ・ポンプだ (Taro)
2009-01-09 08:51:08
労組や財界の態度が変わらないのもうなづけますね。役人が率先して変わる気がないのだから。マスコミも含めて、みんな既得権を擁護する点では利害が一致する。適当にロール・プレイングをしているフリをしているだけで、結局はみんな仲良くやっているだけ。

法の支配は一体どうなってるんでしょう?

宦官政治じゃあるまいし。(左翼嫌いの保守派の方々でも、こういう前近代性まで温存することはないのでは? そろそろ、左とか右とか、保守とか革新とかやめませんか? 伝統の保守も改革も、革新的構想の考案・実現もその批判・検証も、みんな必要なんですから。どちらか、ではなくて。二元論でどちらが良いかを決めつけるのは非合理ですよ)。
 
 
 
衆議院TVを聞いて (たぷりん)
2009-01-09 10:17:43
政府答弁はそれなりに筋が通っていると思いました。
「内閣総理大臣が承認する権限は、再就職等監視委員会に委任」されているわけだから、再就職等監視委員会が機能しない以上、委託権限を総理に引き戻すのは法解釈としてはアリだと思います。

「渡り」に関する項が悪乗りが過ぎるのは同意です。
 
 
 
誰も約束(法律)を守りたくならなくなる (フレモン)
2009-01-09 11:52:37
行政と言う所は法律を守らせるのが仕事だと思いますが、昨日の国会を見ていて、世間一般の常識から大きく外れてしまっていたと思います。やはり約束(法律)と言うものは、同じ常識を持つ者同士の間で交わされる契約だと思います。
 
 
 
Unknown (Unknown)
2009-01-09 12:19:50
法治国家という考え方の基本には「法の下に平等」というものがありさらにその根底は「神の下に平等」ですね。これは非常にキリスト教的です。
「基本的人権」も同じですね。「神の下に平等」だからこそ全ての人に同じ権利があるという考え方です。以前の記事で「人権は根拠のない迷信」とおっしゃていましたが、確かに迷信です。しかし根拠はあります。それは「神の下に平等」というキリスト教に基づくものです。
日本の場合はというと、日本の根幹思想になるものは聖徳太子が十七条の憲法の第一で説いている「和」であり、そしてやはり朱子学・儒教ではないでしょうか。儒教の影響は中国や韓国に比べれば少ないですが、日本人の思想の底には色濃く生きています。
そして「和」の思想ですね。そのあたりの考え方は「逆説の日本史」の序盤で井沢元彦氏が指摘しておられますが、日本が人治的である根元であるのではないでしょうかね。
 
 
 
Re: 衆議院TVを聞いて (池田信夫)
2009-01-09 14:08:14
>再就職等監視委員会が機能しない以上、委託権限を総理に引き戻すのは法解釈としてはアリだと思います。

だから上でも書いたように、引き戻すなら法律を改正しなければおかしい。政令というのは法律を実施する規則であって、法律に書いてないことを決めるものではない。高橋氏も書いているように、法律に「委任できる」と書いてあるなら省庁が委任しないことも可能ですが、「委任する」と書いてあるとき、その機関が存在しなければ、法律は実施できない(天下りは全面禁止になる)のが普通の解釈です。
 
 
 
規則制定権とは (cam)
2009-01-09 14:29:50
法を制定する権限は議会にしかない。議会は、規則制定権の一部を政府や規制監督機関(公正取引委員会、金融庁など)に付託することができる。ただしその場合、基になる法により規則制定に関する権限の委譲がなされる範囲が設けられていなければならないことになる。政府といえど、規制監督官と同じで、規則制定権限を越えて規則を制定することは許されないので、議会はその権限を委ねておらず、憲法上違法となる。
その場合、誰が違法を訴え、規則を廃止する権能があるか。直接の被害を及ぼされるのは、渡りを受ける機関の取締役会あるいは代表取締役が、渡りの取締役就任を違法だとして、地裁に対して、違法な就任であり、無効を訴えることになろう。裁判所は、就任のよりどころになる法を評価し、それが基の法律の目的を潜脱するものとして、違憲による制定と判断すれば、就任は取り消され規制も違反となり、取り消されると考える。
もうひとつは、議会が、憲法違反について政令を廃止すればいい。政府は、議会の規則廃止決定が規則制定権限の範囲内であるので、誤った立法と主張するのであれば、地裁に申し立てればいいが、議会には法を制定する権限があるので、申立ては法解釈上、却下されるにすぎない。民主党の議員には弁護士も多いから、皆さん分かっておられます。
 
 
 
イノベーションのジレンマ (ペンギン)
2009-01-09 23:18:14
以前から強く感じていることですが、
官僚、および政治家のおこなっている仕事は「持続的イノベーション」の連続であり、もはや何をやっても環境が変わらないところまで来てしまっていると思います。
これを打ち砕くのは破壊的イノベーションしかありませんね。

とは言え、ネットを使った選挙2.0などは当面出てこないでしょうから、ここはひとつ、アメリカで少しは暇を持っているかもしれないマイケンさんにでも政治をアウトソースしてみたらどうでしょう。
 
 
 
Unknown (paka)
2009-01-10 05:08:24
9日の国会。 民主党の議員が、2004年に福島県で産婦人科医師が逮捕された事件(福島事件 裁判の結果「無罪」)について、「指揮権を発動して逮捕をさせないようにするべきだった」っと言って迫ってましたね。 
「指揮権」も軽くなったものです。
民主党が政権を取ったら、どんどん発動するような勢いでした。
 
 
 
福田さん (雑種犬)
2009-01-15 21:26:49
麻生さんに変わって、官僚はますますやり放題になったのでしょう。去年の5月か6月か忘れましたが民主党が人事を拒否した時に、(福田)総理が承認できるのかという話は国会で出てました。天下り出来ない状態を自民党が放置するわけは無いので、おそらくこうなると思ってましたが政令でやるとは思いませんでした。狂ってますね。
 
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