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出産数県内最多の佐藤病院 受け入れ制限

2009年04月04日

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 県内で最も多くの出産を手がけている産婦人科専門の佐藤病院(高崎市)が、妊婦の受け入れ制限に踏み切った。これまでは「来る者は拒まず」で対応してきたが、受け入れが増え態勢の限界に達したからだ。背景には、産科医不足や開業医のお産離れがある。(渕沢貴子)

 佐藤病院の08年の出産数は1833人で、前年より約100人増えた。陣痛から回復まで一部屋で過ごせる分娩(ぶん・べん)室(LDR)を04年に3室から5室に増やしたが、当時想定していた出産数は年間1800人だった。医師数は常勤5人、非常勤16人。増やしたいが募集をかけても集まらないという。このため3月から現状を超える出産希望者は断ることにした。

 佐藤雄一副院長(40)は「ここでの出産数は頭打ちになると思っていたが、増える一方。市内の他病院に相談したら『うちは余裕があるから大丈夫』と言ってもらえたので決断した」と話す。

 外来の削減にも踏み切る。現在は1日平均160人を4人の医師が診ているが、120人に減らす計画だ。妊娠10カ月に入るまでは1、2回精密検査に来てもらうだけにして、定期検診はお産を手がけない産婦人科医院に任せる。「セミオープン」と呼ばれる連携システム。佐藤病院で勤めた後独立した医師も多く、カルテの書き方を統一するなど連携が取りやすいという。

 その分、現在1〜2人態勢の病棟の医師を常時2人以上確保する。産科医療への要求水準が高くなっているためという。

 外来削減にあたっては、利益率の高い外来診療が減ることによる収益の落ち込みを補うため、出産料金の値上げも検討している。

 佐藤病院に次ぐ年間約1250人の出産を扱う前橋市の横田マタニティーホスピタルは、1500人の出産を扱えるため受け入れ制限はしていない。横田佳昌・医療法人愛弘会理事長は「高崎は前橋より大きな病院が少なく、佐藤病院に集中するのだろう。限界を超えると医療事故が起こりやすい。無理せず制限した方がいい」と話している。

 佐藤病院では、周辺でお産を扱う病院が減ったことに加え、妊婦の大病院志向の強まりが同病院での出産数急増の原因とみている。医師不足と大病院への過度の集中は、全国で「お産難民」が生まれる事情と共通する。

 日本の赤ん坊の半分近くは、今も医師が1、2人の診療所で生まれている。この診療所が、次々にお産の扱いをやめている。

 産科医療関係者の間では、「内診問題」が開業医のお産離れが進む引き金になったと言われている。子宮口の開き具合を確認する内診は医師と助産師に限られるが、産科医側では医師の指導監督下なら看護師も可能と解釈されてきた。ところが02年に厚労省が看護師の内診を禁じる通知を出し、06年には内診を看護師にさせていたとして複数の病院が捜査を受けた。

 佐藤副院長は「助産師の絶対数が足りない。医師と看護師だけの小所帯では、お産が難しくなった」と話す。

 産科の勤務医不足も深刻だ。県内でお産を扱う医師の数は94年に194人いたが、06年には168人に減った=グラフ。減少率は13・4%。同時期の出生数の減少率16・1%に比べると、余裕があるように見える。

 だが医療事故の責任を追及されることが多いのを嫌って若い医師の産科離れが加速し、医師の高齢化が進み、働き盛りの負担感が増しているという。35歳以下の産婦人科医は半数以上が女性といい、結婚・出産で現場を離れれば医師はさらに不足する。

 このため、病院で出産の予約を取り付けることさえ苦労する地域もある。佐藤副院長は「特に横浜では里帰り出産は厳しく、妊娠4週目で予約を入れないと間に合わないほど。『里帰り先の30件以上の病院に全部断られた。やっぱりここで産みたい』と頼まれたこともある」と話す。

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