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社説

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G20合意―これは出発点に過ぎぬ

 ロンドンで開かれたG20金融サミットで首脳たちは、2010年末までに全体で5兆ドル(約500兆円)規模の財政出動を行い、世界の経済を4%分底上げすることなどを宣言した。まずは、小異を捨てて、大同につこうとした意思が結実した。

 事前には、さまざまな不協和音が伝えられていた。財政では、各国が国内総生産(GDP)の2%規模の出動を行うべきだとした米国に対し、ドイツなど欧州は追加的な措置に慎重だった。金融規制では、ヘッジファンドやタックスヘイブン(租税回避地)に対する厳格な監視と規制を求めたフランスやドイツに対し、米英は緩やかな措置にとどめようとした。

 国際通貨基金(IMF)の改革では、資金拠出の見返りに発言権を高めたい中国と、従来の主導権を守りたい米欧、という構図だった。

 しかし本番の会合では、対立の芽は極力抑えられた。財政出動では、国別の数値目標は見送られ、代わってG20全体の目標を掲げる形にした。金融規制も、米英がある程度の規制強化を容認して妥協が図られた。IMF改革は事前のスケジュールを2年間前倒しして、11年初めまでに出資比率問題などを解決したうえで、新興国の力を取り込む方向になった。

 首脳宣言は「各論反対」になりかねない各国の個別事情には踏み込まず、「総論賛成」を演出した色彩が強い。それだけに課題も多い。

 財政出動の5兆ドルという規模は、G20各国がこれまでに打ち出した対策を積み上げた数字であり、G20で新たに付け加えられたものはなかった。それで世界経済を4%底上げできるのか、しっかり検討されてはいない。思うように効果を発揮しなければ、追加策の議論に追い込まれるだろう。

 また、各国政府がその財源をどう調達するのかもハードルが高い。日本などはすでに巨額の財政赤字が累積している。米国は国債の買い手として海外の資金に頼っているため、ドルへの信頼が低下すれば、財源を賄えなくなる悪循環に陥る危険がある。

 保護主義阻止では、とりわけ各国の覚悟が問われる。前回のG20で「今後1年間に保護主義的な措置をとらない」と合意したのに、約束違反が相次いでいる。今回は、同様の決意を10年末まで1年延長した。各国首脳は今度こそ約束を実行しなければならない。

 このように、G20宣言には不十分な点や不安な面が多い。しかし、いま必要なことは議論をさらに積み重ねることではない。まずは、各国が合意を全力で実行に移してみることだ。

 G20が結束力を保ちながら、スピード感をもって対策を打っていく。その効果を見つつ、新たな事態に応じて対策を追加していく柔軟さが大切だ。

プロ野球開幕―新たな名勝負が見たい

 プロ野球がセ・パ両リーグで始まった。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)連覇の余韻もさめやらぬうちの本格的な球春である。

 日本のプロ野球界にとって、今年は節目の年だ。1950年の2リーグ制開始以来、60年目になる。

 日本シリーズもこの年から始まった。当初の名称は少々、奇異なものだった。「日本ワールド・シリーズ」

 大リーグへの尊敬と、おそれが透けて見える。この名称は4年間続く。日本は52年まで占領下にあり、敗戦の傷跡はまだあちこちに残っていた。

 日本が主権を取り戻し、復興していくなか、熱気に満ちた試合から人々は明日への活力を得た。

 時は過ぎ、大リーグに野茂、イチローら数多くの選手が挑む。メジャーは遠く仰ぎ見るだけの世界ではなくなった。WBC連覇は、日本野球が成熟したことの、ひとつのあかしだろう。

 観戦する側や取り巻く状況も変わった。茶の間で家族がそろってテレビを囲んだ時代は去った。大リーグやサッカーなどの人気の高まりで相対的な存在感が下がったのだ。かつて関東地区では視聴率20%を超えていた巨人戦も、近年は1ケタに低迷している。

 課題も山積する。ドラフト会議で上位指名が濃厚だった社会人選手が大リーグ球団と契約した一件は、記憶に新しい。メジャーへの「壁」は低くなったが、どう対策を取っていくのか。

 五輪から野球が外れたため、プロが参加する国際試合は当面、13年に開く予定の第3回WBCまでない。国際化を進めたい加藤コミッショナーは、米国やアジアとの交流試合を増やすことを視野に入れている。

 2リーグ制60年を機会に原点に戻り、見る者をうならせる高い次元の勝負が見たい。機動力や小技を重視する日本スタイルは年々、洗練されてはいる。が、かつての長嶋対村山、王対江夏に見られるような、語り継がれる名勝負が少なくなってはいまいか。

 4年前。清原が巨人からオリックスに移った時、西武のエースだった松坂は言った。「イチローさんらが海外に行き、勝負ができなくなっていた。清原さんと勝負できるのはうれしい」

 翌年、松坂は清原との最後の対戦で4連続三振を奪う。18.44メートルを隔てた、圧巻の戦いだった。松坂は海を渡り、清原は昨秋、バットを置いた。

 WBCからチームに戻った代表たちは大舞台の経験を昇華させ、しのぎを削ってほしい。開幕戦では日本ハム・ダルビッシュと楽天・岩隈が投げ合った。例えばこの2人と、清原がつけた背番号3を背負う西武・中島や、2年連続本塁打王の横浜・村田との対決は、新たな名勝負として期待できる。

 プロたちの戦いを心底楽しめるシーズンに、と願う。

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