| 原始ダイオード |
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1.概要 自作ダイオードを検波だけでなく,交流電源の整流に用いることにも成功しました。 2.必要なもの 6石スーパーラジオキット(エース電気【AR-606型】が最適です。電子パーツの店や科学教材社(Tel.03-3291-7271)の通信販売などで購入できます)を検波ダイオードなしで組み立て,代りに基板穴からシールド線を延ばします。次に,ミノムシクリップをシールド線の先に取り付け,代用となる自作や市販の検波ダイオードを接続します。 当初は回路が単純な鉱石ラジオ(ゲルマニウムラジオ)を利用しましたが,混信や音声出力が小さすぎること,実用にならない地域があること,1〜2セットに1本の屋外アンテナが必要だったので止めました。
結果,6石スーパーラジオの複雑な回路はブラックボックスとして扱い,検波ダイオードに的を絞っての教材化となりました。しかし,とても明瞭な音声で結果を確認できるので,鉱石ラジオよりも好ましい学習になることがわかりました。 (2)針立て式検波ダイオード装置 長さ18cmのIVコード(屋内配線用単芯ビニル電線)の先にミノムシクリップをハンダづけして垂直に立てました。このクリップに普通の縫い針を挟み,針先を自重で半導体に接触させます。 (3)検波ダイオードとなる自然の半導体 黄鉄鉱・方鉛鉱・天然磁石(磁鉄鉱)・黄銅鉱・斑銅鉱・閃亜鉛鉱などの鉱石,粗製シリコン(石英を還元したもので半導体用高純度シリコンなどの原料です。アルミニウムの鋳物を作るときに添加するそうですので,入手は関係の業者に問い合せてください。鉱石標本業者からも購入できます。),10円玉などの汚れた硬貨,他
(4)自作黒さび検波ダイオードの素材 直径1.6mmの針金を長さ10cm程度に切断して用いました。なお,銅線やアルミ線も試しましたが,検波ダイオードになりませんでした。 3.実験の方法とコツ 採集するか標本店から購入した鉱石の表面を針で探り,検波ダイオードとして機能する部分を見つけるとラジオ放送が受信できます。自然の鉱石ではありませんが,不純な粗製シリコンは極めて高性能です。10円玉などの硬貨も,針先で丁寧に探すと検波ダイオードとなる部分が見つかります。 (2)黒さび検波ダイオード 以前から鉄さびが検波ダイオードになることは知られていました。しかし,実際に試してみると高性能な鉄さびはなかなか見つかりません。鉄釘を用い,いろいろな方法で数百種類の鉄さびを作りました(注:予め,表面を磨く必要があります!)。ほとんどが赤さびになりましたが,過酸化水素水入りの水を用いると,斑点状の黒いさびができました。これが十分な性能の検波性能を示したのです。こうして,赤さびではなく黒さびがカギであることに,偶然,気付いたのです。 黒さびは,実験室では,濃い水酸化ナトリウム水溶液をつけて水蒸気中で蒸し焼きにします。試してみると,時々,高性能なものができます。しかし,時々では困ります。そして,悩みぬき,閃いたのが以下の作成方法です。黒さびづくりの簡易化をきっかけに,発想を転換したのです。
これによって,針金の表面には[黒光り〜灰色]の部分までいろいろな種類の黒さびが連続的にできます。この中には必ず性能のよい検波ダイオードとなる部分が存在し,針先で簡単に見つけることができます。見つかると,明瞭なラジオ放送が聞こえてきます。このように,最適な黒さびを作るのではなく,一部分でも高性能であればよいと気付いたため,簡単な方法で,確実な自作に結びついたのです。 ※勤務先の学習で1年間実施し,受講した2000人以上の生徒すべてが,簡単に作成することができた。 黒さび検波ダイオードは,金属酸化物(MOS型)半導体の一種であり,P-N型のダイオード領域が存在すると考えられます。一般に,金属は酸化の進み具合によってP型,またはN型の半導体になることが知られています。 4.発展 改造ラジオから引き出した検波端子に,市販の各種半導体素子を接続するとラジオ放送が受信できます。整流用ダイオードはもちろんのこと,LEDを接続すると同調によって発光し,フォトダイオードやフォトトランジスタを接続すると明るさでラジオの音が変化します(蛍光灯下では,点滅によるノイズが入ります)。電子ブザーや,電池を外した電卓や時計も検波ダイオードになって驚かされます。トランジスタも可能ですが,コレクタとエミッタ間を利用する場合はベースに乾電池1個でバイアス電流を流す必要があります。これは,トランジスタの働きを理解する教材になります。
(2)自作ダイオードで交流を整流 検波ダイオードは許容電流容量が小さく,整流用ダイオードとしては利用されません。ましてや,自作ダイオードはもっと厳しい状況です。しかし,粗製シリコンに針を立てたダイオードで整流し,電子メロディを接続すると音が出てきました。 電燈線100Vをトランスで2〜3Vに降圧し,自作ダイオードと電子メロディを直列に接続するとノイズっぽいメロディが出てきます。この状態が半波整流であるからです。そこで,電子メロディに100μF程度の平滑コンデンサーを並列接続するときれいな音になります。このような整流実験が可能になったのは,電子メロディが極めて微小な電流で作動するからです。 電子メロディ自体が整流用ダイオードとして機能しているのではないかという疑問も出てくることと思います。そこで,代りにダミー抵抗を入れてオシロスコープで調べると,かなりきれいな半波波形が見られました。 5.備考 ・科学の祭典CD-ROM 『原子の世界へ旅立とう! PART1』 科学技術館。 ・実験器具は中村理科工業より市販されています。 ・2000年7月15日(土)18:30〜19:00テレビ東京「テクノ探偵団」”電子を自由自在!の謎〜半導体〜”で,私が提供した「原始ダイオード」実験装置が使われました。内容も,ほぼ私のレポートに沿って構成されていたようです。 ・この「原始ダイオード」は,私が最も楽しんで開発できた教材です。 |