麻生太郎首相が、早期の衆院解散・総選挙の可能性に言及した。先月末の記者会見である。これまで首相は内閣支持率の低迷に加え、「政局より政策」と繰り返し、景気回復の実績づくりを最優先するとして早期の解散には慎重姿勢をみせていた。それだけに、踏み込んだ発言は波紋を広げよう。
首相が早期解散もあり得るとの認識を示したのは、経済危機に対応する追加の経済対策として二〇〇九年度補正予算案、関連法案の今国会提出と、成立に向けた決意に関連してだった。首相は「(野党が)補正予算案にどういう対応をするか。どうしても反対と言うのであれば(関連法案再議決に必要な)六十日を要してでもやるのか、審議を打ち切ってでも選挙すべきかは、その時の状況で判断する」と述べた。野党の出方次第では解散も辞さないという構えだ。
政府は今月下旬にも補正予算案を国会に提出する方針で、与党は五月中旬には衆院を通過させる考えとされる。その後、参院での民主党など野党の出方を見極めることになるが、野党の抵抗が強いようなら「五月解散」もあり得よう。
早期解散に触れようとしなかった首相が、強気の姿勢に転じたのは西松建設の巨額献金事件で小沢一郎民主党代表の公設第一秘書が起訴され、内閣支持率に回復の兆しがみえだしたことが背景にあるのは間違いない。打ち出した追加の経済対策に野党が反対すれば、総選挙は有利になるとの思惑もうかがえる。
補正予算規模は今後詰めるが、約二十兆円といわれる日本経済の需要不足解消に向け、過去最大級になるとみられている。財源について首相は「状況によっては赤字国債(発行)を辞さない気持ちでやる」と果敢な財政出動を表明した。
景気の冷え込みが一層厳しさを増し、思い切った対策も必要だろうが、補正予算の規模を膨らませるばかりではばらまきに終わり、将来に過大なつけを残す。中川昭一財務相兼金融担当相がもうろう会見で引責辞任するなどで傷ついた麻生政権が、日本の経済を外需頼みから内需主導の強靱(きょうじん)な体質に転換させるだけのたくましい政策を打ち出せるか、懸念が募る。
野党の出方いかんを問わず、早期の解散・総選挙によって政権を立て直さなければ、未曾有の危機は乗り越えられまい。各党は、選挙が近づいたと意識を高め、次期衆院選のマニフェスト(政権公約)づくりに全力を挙げるべきだ。
インターネット商店街大手の楽天が、約千二百億円を投じて買い進めたTBS(現TBSホールディングス)の全株式19・83%の売却を決めた。
約三年半に及んだ両社の経営統合をめぐる攻防にピリオドが打たれたことになる。「ネットと放送の融合」を掲げて交渉に臨んだ楽天にとって、ほとんど具体的成果を出せないままの完全撤退といえよう。
経営統合を持ちかけたのは楽天だ。二〇〇五年秋にTBSの株式を大量に取得し、統合を提案した。だが、TBS側はこうした手法に猛反発し、交渉は手詰まり状態に陥っていた。
攻防の行方を決定づけたのは、TBSが〇八年十二月に開いた臨時株主総会である。この場でTBSが今年四月から、特定株主による出資を33%までに制限する「認定放送持ち株会社」に移行することが決まった。これで経営統合は事実上、不可能になった。
楽天は反対したが、他の株主の理解を得られなかった。「ネットと放送の融合」という理念には期待感を抱かせるものがあったが、具体的なメリットを提示できなかったからだろう。
楽天はTBS株価の下落に伴い、直近の連結決算で六百七十一億円の評価損を計上し、純損益が赤字に転落した。ただ、持ち株会社化に反対した株主に株式買い取り請求権が認められているため、TBSも買い戻しに多額の費用が必要になる。
今回の攻防は双方に大きな傷跡を残す結果に終わった。やはり日本では、「会社は株主のもの」というドライな感覚はなじまないようだ。特に報道を担うなど公共性の強い放送局はなおさらだろう。ネットとメディアの融合は徐々に進んでいるが、今後の在り方を考えさせられる事例となった。
(2009年4月3日掲載)