まさに手に汗握る好試合だった。第81回選抜高校野球大会の決勝戦。3年前、あと一歩で優勝を逃した長崎県立清峰高校が岩手の花巻東高校を1-0で降し、長崎県勢として初の頂点に立った。敗れた花巻東は東北に初めての優勝旗をもたらすことはできなかったが、最後まで試合をあきらめない粘りは見事だった。
右、左の違いはあっても力のある好投手を中心に、堅い守りと勝負強い攻撃力で接戦をものにする。決勝を争った両校はタイプの似たチームだった。だが、それ以上に、見る者を元気づけてくれる共通点を持ったチームでもあった。
清峰は県北部の佐々町にある。町はかつては炭鉱で栄えたものの、炭鉱閉山後は過疎化の波におそわれ、高齢化も進んでいる。部員は全員、佐々町やその周辺の出身で、離島出身者もいるという。
そんな土地柄だけに、清峰野球部の活躍は地域住民の活力を生む「希望」そのものといっていい。長崎県高野連の角西政信理事長は「佐々町だけでなく、長崎県全体を元気づけてくれた」と話す。
清峰の初優勝は「公立校の復権」という側面もあった。今大会の出場32チームのうち公立校は清峰を含め16校。私立校優位が続いていた中、公立校が半数を占めたのは20年ぶりだ。清峰は一昨年夏の選手権を制した佐賀北に続く「公立校の星」でもある。
私立校の場合、一昨年、大きな社会問題になった特待生をめぐる問題が尾を引いているのかもしれない。私立・公立の違いはあるだろうが、今後も互いの長所を尊重し、切磋琢磨(せっさたくま)してほしいものだ。
花巻東は私立校だが、野球部のグラウンドを花巻市から提供されるなど地元自治体の全面的な支援を受けている。地元の厚い支援を実現させたのは、関西など少年野球先進地から才能のある生徒を招くのではなく、岩手県内から部員を集め「オール岩手」で日本一のチームを目指しているからだ。
宮城県立利府高校の活躍も特筆に値する。今大会は花巻東と、21世紀枠で選ばれた利府の東北地区2校がベスト4に進出した。長いセンバツの歴史で初めての快挙だ。
夏の全国高校選手権と比べ、春に行われるセンバツは、寒冷地の高校にはハンディが大きいといわれる。練習環境などを考えればそれも当然だが、両校の躍進は寒冷地でも練習の工夫次第で対等以上に戦えることを示してくれた。同じ悪条件下の学校に勇気を与えたはずだ。
日本中を元気づける「野球の力」を痛感させた今大会。選手たちに感謝とねぎらいの言葉を贈りたい。
毎日新聞 2009年4月3日 東京朝刊