ワーネバコラム

第3回:知られざるワールド・ネバーランドの歴史

 さて、これまで「オルルド王国とプルト共和国」、「バース連邦とアシツガハラ」とお送りしてきたこのコラムだが、第3回では更にその原点にまで遡って見たいと思う。

 オルルド王国が最初のワーネバだと思っている人が多いと思うが、実はもっと古いワーネバがあったのだ。

人工生命研究の実践

事の発端

 1970年代はマイコンの登場でコンピューターが単なる計算機以上のものになった時代だった。今でもGUI(MacOSやWindowsのような操作方法)やマウスの故郷として記憶されているゼロックス社のパロアルト研究所には当時、人工生命の研究を行っている研究チームがあった。チームの主任はロシアから亡命してきた数学者ウラジミール・ナヴェーリン博士で、元々は弾道シミュレーション部門の研究員だった。

 この頃研究チームでは、プログラムがちゃんと動かないとコンピューターをノックしながら「おい!寝てないでちゃんと仕事しろ!グズども!」とか「お〜い、ランチに出かけるにはまだ早いぞ!」などと「中で働く小さな妖精」に話しかけるジョークが流行っていた。そしてナヴェーリン博士はこのジョークからマイコンの中で「本当に」人工生命を飼う事を思いついたのだった。

ナヴェーリン博士のドット・イーター

 博士は手始めに「少し複雑な」ライフゲームを作った。通常ライフゲームと呼ばれる最もシンプルな人工生命は生まれて死ぬまで動かないものだが、博士のライフゲームでは周りに誰もいなければ仲間を求めてうろつくようになった。


ナヴェーリン博士のドット・イーターの画面写真(CP/M版の再現)。画面中"C"や"c"が餌を求めて動き回るIMU。"O"や"o"は満腹状態のIMU。IMUは大人と子供で体の大きさが違う。

 次に博士は人工生命のユニット─後にIMU(Inteligent Moving Unit:知的な動的ユニット)と名づけた─が餌を食べて活動エネルギーを得るようにした。IMUは仲間とくっついて繁殖するだけでなく、画面中に時々出現する餌を求めてうろつきまわるようになった。ちなみに「パックマン」は博士がアメリカのマイコン雑誌に寄稿した、この人工生命シミュレーション(ドット・イーター)に関するコラムをヒントに生まれたものだといわれている。


より人間的に

リアルライフローグ

Amiga版 Realtime-Rogue の画面写真(オリジナルはAltair版だが、現存していない)。いわばアクションRPGの先駆けともいえるゲーム。当時としては画期的だった。

 ドット・イーターは世界中のコンピューターマニアの注目を集め、やがてマニアたちの間で独自の進化を始めるようになった。

 その中に「リアルタイムローグ」(後にUltimaなど2Dロールプレイングゲームの礎となったApple][用のプログラム)の開発者で、従兄弟と二人でネバーランドシステムズというソフトウェア会社を立ち上げたばかりのヨシュア・ミーアンがいた。

 リアルタイムローグの次回作を模索していたヨシュアは、リアルタイムローグのモンスターのアルゴリズムに人工生命の理論を組み込むことで、餌を求めて徘徊し、子孫を残すモンスターの社会を作り上げて「リアルライフローグ」としてリリースした。

 しかし斬新ではあったものの、モンスターの繁殖ペースとプレイヤーがモンスターを退治するペースが折り合わず、ゲームとしての評判は芳しくなかった。

リアルライフビレッジ

キャラクターコードで描かれた Real Life Village の画面(MZ版)。

 リアルライフローグの「モンスターの社会を作る」という考え方を継承したのが、当時まだ15歳だったロベルト・エッキーニョだった。

 彼は元々リアルライフローグのゲームバランスを改良しようとダンプリストを眺めていたのだが、そのうち人工生命の社会をもっと複雑で現実的なものに近づける事に関心が移り、自分のApple][の中に村を作り始めたのだった。


人工生命同士の会話画面。良く見るとキャラクターコードで描かれた顔が表示されていて、画面構成もオルルド王国物語の会話画面とよく似ている事が分かる。

 ロベルトの「人工生命村」は当初ドット・イーターと大差ないプログラムだったが、餌を自分で育てたり、自分で生活必需品を作ったり、他の人工生命と戦ったりするようになった。  次に人工生命にもっと個性を持たせるために性別やパラメーター、遺伝情報を与えた。人工生命は互いに友人や家族を持ち、互いに会話するようになった。


行動配分指示画面。仕事やトレーニング、会話などにポイントを振り分けてキャラクターの行動パターンをコントロールする。

 最後にゲームに仕立て上げるため、人工生命から一人を選び、行動の割合を分配することでキャラクターの行動をプレイヤーが間接的にコントロールする仕組みを組み込んだ。

 ロベルトはこれをリアルタイムローグを開発したネバーランド・システムズに持ち込み、販売契約を結んだ。このプログラムは「Real Time Village」という名で発売されたほか、日本でもMZなどの国産コンピュータ用に移植された。


ワールド・ネバーランド

 90年代にネバーランド・システムズとリバーヒルソフトが業務提携を結んだ際のレセプションパーティーで70年代から80年代のゲームの話になり、そこで偶々リアルライフビレッジの話が出たのがワールド・ネバーランド誕生のきっかけだった。

 開発スタッフの中に昔MZ版のリアルライフビレッジで遊んだことのある人間が居たことから、現在のコンピューターの処理速度を利用すればもっと複雑な人間社会がゲームとして作れるのではないかという話になり、ワーネバの開発がスタートした。

 そしてあとは皆さんご存知の通りである。

※このコラムはフィクションです。告示した名前が実在しても一切関係ありません。