景気の悪化が一段と深刻になってきた。日銀が発表した三月の企業短期経済観測調査(短観)は調査開始以来、最悪の水準となった。一方、失職した非正規労働者は二十万人に近づいている。政府は景気の落ち込みを食い止め、雇用を安定させるための実効ある対策に全力で取り組まねばならない。
短観によると企業の景況感を示す業況判断指数(DI)は、大企業製造業がマイナス五八となった。昨年十二月調査より三四ポイントの大幅減であり、第一次石油危機当時のマイナス五七(一九七五年五月)を下回り、七四年の調査開始以来、最悪の水準である。
大企業製造業では設備投資計画も過去最低水準まで落ち込み、雇用の余剰感の悪化幅は最大。さらに中小企業の景況感も軒並み低下した。ほぼ全業種で経営心理が冷え込んでいる。急速に悪化した景気に回復の兆しはなく、雇用情勢が一段と悪化するのは必至だろう。
先月末に出た雇用をめぐるデータは十分に厳しい。厚生労働省の調査では、昨年十月から六月までに職を失ったり、失う見通しの派遣社員ら非正規労働者が十九万二千余人に達した。正社員リストラも加速して一万二千人を超え、採用内定を取り消された学生は過去最多。新規求人倍率は〇・七七倍で過去最悪だった六五年に並んだ。失業率はかろうじて4%台に踏みとどまっているものの、動向次第で過去最悪の5・5%を超える可能性もあるという。
政府はこれまで、非正規労働者への支援強化のため雇用保険加入要件を緩和した雇用保険法の改正などに取り組んできた。政府と日本経団連、連合の政労使三者は残業削減や休業などで雇用維持を図る「日本型ワークシェアリング」の推進と、その支援を柱とした雇用調整助成金の拡充で合意した。
しかし、改正雇用保険法の適用範囲は一部に限られ、ワークシェアリングも賃金減など労働条件の引き下げを伴う緊急避難的な側面を持つ。政策を一つ一つ点検しながら、さらに踏み込んだ対応が求められよう。
政府の厚生労働行政の在り方に関する懇談会は最終報告で、正規雇用を軸として組み立てられた行政組織の不備を指摘し、非正規労働者対策に取り組む部門の新設など総合的・機動的な組織整備を提言した。こうした視点からの取り組みも必要だ。
景気の本格回復には国内外の需要復活を待つしかないと、手をこまねいてはいられない。
政府は年金記録問題に関する閣僚会議で、誰のものか特定できていなかった「宙に浮いた」五千九十五万件の年金記録について、持ち主に統合できたのは二割の千十万件にとどまっていることを明らかにした。
解明作業が始まって二年が過ぎた。社会保険庁によると「ねんきん特別便」による受給者への記録確認に加え、住民基本台帳ネットワークによる照合作業などによって、三千四百万件を解明したとしている。
しかし、入力ミスなどが原因の未解明記録は、まだ全体の三分の一に当たる千六百九十五万件も残っている。このうち住基ネットなどで解明作業中の記録は五百三十三万件あるが、全く特定が困難な記録が千百六十二万件に上る。全容解明には、ほど遠い状況だ。
昨年は厚生年金の紙台帳記録がコンピューターに誤って入力されたり、社会保険事務所が標準報酬月額の改ざんに組織的に関与していたことも明らかとなった。新たな検索システムや不明記録のインターネット公開などが必要となり巨額の税金がつぎ込まれる。ずさんな事務処理を行った社保庁の罪は重い。
年金記録不備が明らかになった当時の安倍晋三首相は「最後の一人までチェックし、まじめに保険料を納めてきた人にお支払いする」と述べた。政府は記録を解明する作業を粘り強く続け、国民の年金への信頼を回復する責務がある。
三日から年金の加入記録や将来の見込み額などを加入者に通知する「ねんきん定期便」の発送が始まる。加入履歴や標準報酬月額などが確認でき、記録漏れや改ざんを防止する狙いだ。加入記録について問い合わせるなど年金について関心を持ち、自分の年金は自分で守る意識を持つことが重要だ。
(2009年4月2日掲載)