麻生太郎首相、単独インタビュー G20内の分裂を浮き彫りに――フィナンシャル・タイムズ

フィナンシャル・タイムズ2009年4月1日(水)21:15


(フィナンシャル・タイムズ 2009年3月31日初出 翻訳gooニュース) 

(訳注・フィナンシャル・タイムズは3月30日、麻生太郎首相を単独インタビューしました。以下はその一問一答全文です。以下の麻生首相発言は、FTの英語記事からgooニュースが翻訳したもので、必ずしも麻生首相本人が使った日本語表現ではありません)

フィナンシャル・タイムズ(以下、FT)G20サミットにおける首相の重要課題は何ですか?

麻生首相(以下、麻生):景気後退の中にあって、世界193カ国が創出するGDPの80%はG20諸国が作り出しているものです。世界GDPの80%を生み出す国々が手に手を取って経済回復を確保できるようにすることが、G20の最重要課題だと思います。

5つの優先課題のうち、第一は経済成長の回復でしょう。そしてそのためにすべての関係各国は国内経済回復に取り組みつつ、財政出動に着手すべきです。

第二に、世界のあちこちで資金流動性が枯渇しつつあります。なので、十分な流動性を確保しなくてはなりませんし、このためには新興経済や途上国経済をなんとしても支援しなくてはなりません。国際通貨基金(IMF)の資金基盤を強化する必要があります。そして今や貿易が縮小しつつあるので、十分な貿易金融を確保しなくてはなりません。とりわけアジアにおいては、アジア開発銀行(ADB)の資金基盤を強化するべきです。

さらに付け加えるなら、IMFの特別引出権(SDR)拡充し新たに割り当てる必要もあります。

3つ目の優先課題は、保護貿易主義にしっかりと立ち向かうことです。保護貿易は止めさせなくてはならない。保護貿易主義を止めさせて、それにはドーハ・ラウンドを妥結させる必要がある。さらには昨年11月にワシントンで開かれたG20首脳会合での約束を堅持し、継続しなくてはなりません。

金融市場の規制や監督についても、作業が必要です。とりわけヘッジファンドや信用格付け会社に対する規制が必要だ。たとえばこうした会社の登録制を導入するとか。そして国際協調の局面においては、非協力的な態度を続けている地域や国に対して対策を講じる必要があると思います。

第5の優先課題は、国際金融機関の改革です。IMFの監督機能を強化し、ガバナンスを改革する必要があると考えます。

日本について言うなら、今や2009年度予算が国会成立したので、私が「三段ロケット」と呼んできた景気対策は完成しました。そしてこの完成した三段ロケットをもとに、今は予算を執行し、予算をできるだけ5月や6月に前倒ししていくことが大事です。また地方自治体にも、できるだけ前倒しで執行するよう要請していきます。

今の世の中を見回せば、世界の経済状況がさらに悪化しかねないリスクはまだ残っています。これは否定できない。そのため私は明日、政府与党に対して、さらなる追加刺激策を検討するよう指示しますし、こうしたことについてロンドンのG20でも説明するつもりです。

2つ目の、IMFの資金基盤強化について。我々はすでに、日本からIMFへ1000億ドルの融資を行うと表明し、話し合っています。なので(G20では)、IMFの資金基盤強化に関する提案をするつもりです。

もうひとつ忘れてはならないのは、世界中で景気が急速に悪化するせいで、新興国やアフリカなどの途上国への思いやりがほとんど忘れ去られてしまっていることです。信用収縮のせいで、アジアやアフリカの国々への貿易金融は大打撃を受けています。昨年開かれた第4回アフリカ開発会議 (TICAD IV)の議長国として、これは今後きちんとフォローするつもりです。

全般的に見て金融への打撃は、日本では欧米ほどには深刻ではないと私は思います。なのでG20が抱える諸問題に取り組むにあたって、日本は積極的な対応策の協議で指導的な役割を担う必要があると思っています。

FT: 議題はたくさんあります。そのなかでもIMF強化について考えを教えていただけますか? IMFの資金枠強化というシンプルな問題について首相のリーダーシップに従った後、その次には何をどうするべきと思いますか?

麻生:今どうなっているかご存知かもしれないが、日本がIMFへ最大1000億ドルの資金支援を提案したからこそ、欧州連合(EU)もやはり1000億ドル支援するという提案をまとめつつあるのだそうです。

IMFの「新規借入取決め(NAB)」を拡大するために、IMFの資金基盤はさらに拡大する必要があります。さらに、IMFは金を保有していますが、金相場はこのところオンス900ドルを超えて上昇しています。なのでIMFが持つ金の売却益を、最貧国支援支援に使わなくてはならないと考えています。

同時に、減りつつある流動性を回復させるため、日本が提案してきたように、IMFのSDRを新しく割り当てる必要があると思います。

信用収縮を受けて、貿易金融について新興国や途上国の支援を強化する必要があると思います。なぜならこうした国々は今や、貿易金融がないばかりに貿易取引が決済できない状態になりつつあるからです。

具体的に言うと、我々は今後2年間で総額220億ドル以上の追加的な貿易金融支援を実施する方針です。このためには、独立行政法人「日本貿易保険(NEXI)」に160億ドルの貿易金融の枠を確保します。そして「国際協力銀行(JBIC)」がさらに60億ドル規模の増資を提供することになります。またアジア諸国に限定されていた貿易保険のネットワークを、世界全体に拡大します。

アジアが今後も世界に開かれた成長拠点であり続けるため、そして世界経済の成長に貢献し続けるため、我々は、私がダボス会議で約束したODA1兆5000億円にさらに5000億円を加えることにしました。つまり日本はアジア諸国に約200億ドル規模のODAを提供していく予定なのです。

ADBの資金力は徐々に枯渇しつつあります。なので我々はG20会議を機に、ADBの資本を3倍増に強化するという合意を日本は実行に移していくと表明するつもりです。

アフリカについては、対アフリカODAを2012年までに倍増し、今後5年間で最大40億ドル相当の円借款を提供したいと思っています。またできるだけ早い段階で、20億ドル相当の無償援助と技術協力を実施します。

これらは私たちがやろうとしていることの一部です。そしてこういう具体的な施策を実施することで、日本は国際金融の安定化に貢献したいと願っています。

FT:  日本にできる最大の貢献はもちろん、国内経済の促進です。経済刺激の次の段階として何を計画しているか、もう少し話していただけますか? どういう規模のものを期待すればいいでしょうか? そして優先項目は何になるのでしょうか。

麻生:すでにお話したように2009年度予算がおかげさまで先週末、国会で可決され成立しました。申し上げたように、その予算の執行をできるだけ前倒しし、それを通じて成長率回復を図ることで、現在の厳しい経済状況を改善していきたいと思っています。

付け加えるなら、経済は生き物で、経済状況は常に揺れ動いているものです。だからこそ常に、景気悪化のリスクが可能性としてあるわけです。

なので私は政府与党に対して、今の経済危機に取り組むための次段階の包括案をできるだけ早く、できれば4月半ばごろまでに、まとめるよう指示することになります。

まず第一に、何よりも大事なのは、なんとしても景気の底が抜け落ちてしまわないようにすることです。第二に、国民の痛みを和らげるため、できるだけたくさんの職を守ることです。そして第三に、将来の成長ポテンシャルを拡大するため、はっきりとした目標を確立することです。

雇用、金融、未来への投資、社会保障、子育て支援、地域・地方経済対策などといった分野で、使える政策はすべて総動員する必要があると考えています。そうすることで、安心と活力を実現できると。

ご存知かもしれませんが、日本の予算制度は常に単年度主義です。けれども数年単位で考えて予算を作るために新しいアプローチで臨むつもりです。

予算作成はこれまで多かれ少なかれ、公務員や政治家の仕事でした。けれども私はもっと幅広く国民の知見を活用したかったので、様々な分野の代表たちと有識者会合を開きました。学界、ビジネス界、NGOなどから84人を集めて、会議を10回開きました。私も全部、出席しました。予算で何を強調すべきか、今のこの危機に国として取り組むに当たって、何を重視すべきか、有識者の考えや意見を聞いたのです。今はそこで出てきた意見を集約して、政策手段に反映させようとしているところです。

追加刺激策の規模や額についてご質問でした。まだ具体的なことを申し上げられる段階にないが、包括パッケージの中身についは、もちろん、申し上げた3つの目標実現に役立つ、あらゆる手段を動員するつもりです。そうやって、経済回復を実現していくつもりです。

FT:  首相が冒頭で指摘された財政出動の重要性についてお聞きします。一部の国家首脳は、ここでは特にドイツ首相を念頭においているのですが、「今はすべての国が金を使うべきではないし、国によっては支出が多すぎる」と問題提起しています。日本は財政出動を増やす責任があるとお考えですか? そして、具体的な数字は言えないでしょうが、日本がある程度の財政出動を実施すれば、日本経済の状態について諸外国を安心させられると思いますか?

麻生:日本のバブル経済が崩壊したのは1990年代初めのことです。あのとき、日本の6大都市で地価は87%も下落しました。当時の政府は金利引き下げに尽力し、実際に日本銀行は景気刺激策として金利をゼロ近くまで下げましたが、効果はなかった。なぜかというと、地価下落や資産価値下落で、多くの企業が倒産してしまったからです。その結果、企業は経営方針を利益の最大化から負債の最小化と転換せざるを得ませんでした。

日本企業は長い間、銀行融資の返済を最優先課題にしていたため、銀行から資金を借りて設備投資するわけにいきませんでした。ゼロ金利なのに融資を受けようとしない企業が設備投資をするなど、そんな発想の経済学の本など読んだこともありません。

企業がひたすら銀行に負債を返済していったおかげで金融機関に余った余剰資金を、日本政府が年間20兆円とか30兆円規模で借りていきました。そして経済状況が悪化する中、政府は財政出動の形でその借金を使っていったのです。おかげで1992年以来というもの、景気情勢は悪化しても、日本のGDPは500兆円を下回ったことがありません。

過去15年間の経験のおかげで、私たちはどういう対策が必要か承知しています。それに対してアメリカや欧州各国にとっては、今回のような経験は初めてかもしれない。財政出動の重要性を理解している国もあれば、理解していない国もあって、だからドイツは(財政出動に消極的な)発言をしているのだと思います。

また欧州にはマーストリヒト条約(欧州連合条約)があるわけで、英国は採択していない部分があるからこそできることがあるし、もしかしたら採択しているからこそドイツにはできないこともあるのかもしれません。


フィナンシャル・タイムズの本サイトFT.comの英文記事はこちら(登録が必要な場合もあります)。

(翻訳・加藤祐子)

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