|
consumption008 「くまのがっこう」と団塊ジュニアママの不思議な関係
バンダイキャラクター研究所
所長 相原博之
カルチャースタディーズ講座における講演より(2003年9月12日)

「くまのがっこう」という絵本の話とその売れた要因、きっかけともなったモデルの雅姫さんの話を絡めながらお話させて頂きたいと思います。
私自身も、ほんの数年前までは、全く絵本との関わりはなかったのですが、絵本の世界に関わるようになって、最近絵本を取り囲む世界の動きが活発であることを感じました。
絵本は、マーケットとして先行性があり、また面白いテーマであるように思います。
1) バンダイのキャラクター戦略
バンダイで一番売れているキャラクターは、ガンダムです。次いで、仮面ライダーを始めとする、ウルトラマンやハリケンジャーなどの戦闘ものシリーズなどが人気です。男児中心で、女児では、セーラームーンやあしたのナージャなどを取り扱っていますが、数十億円程の売上で男児に比べると大きな数字とは言えません。あくまで、男児中心の展開になります。
キャラクターものは、玩具、雑貨、生活用品、食品、ITなどあらゆるものに活用し、商品化します。色々なものにキャラクターを活用し、商品化を行いますが、元々おもちゃ屋であるため、主力は、玩具中心になります。
また、商品を売る戦略としては、アニメで放映されているものについては、放映した翌日に商品を店頭に並べるなど、コミックを始めとする出版やアニメのテレビなど、マスメディアを活用し、マスMDを中心に戦略を立て行っています。
最近では、その戦略も効果的であるかは分かりませんが、そのような戦略を立てておりました。
キャラクターのマーチャダイジンングと呼ばれる戦略は、バンダイが生み出したといっていいと思います。
商品売上に関していえば、定番キャラクターものが好調であったため、昨年度も売上はプラス成長、今年度も上半期では、非常に好調な動きを見せております。
しかし、いくら好調な動きを見せているといってもテレビキャラクターに頼るだけの事業展開にも限界を感じ始めており、数年前から新たに絵本事発のキャラクター開発を始めるようになりました。
2)アンチテレビキャラクター層の増加
それに伴い、子育て中のお母さんにキャラクター商品の購入調査、意識調査を実施しました。そこで、得た結果は4つのクラスターに母親が分けられるということでした。
まず1割が、教育ママと呼ばれる層で、アニメを一切見せず、キャラクター商品も全く購入しない層。次に、4割を占めるのがアニメは許容しており、子供に見せるが、キャラクター商品は購入させないという層。この4割の層は、今ブームとなっているイケメンライダーを支えている層であるといってもいいかもしれません。そして、同じく4割がアニメもキャラクター商品についても比較的寛容で、子供が望めば購入している層。そして、最後の残りの1割が母親自身がキャラクターが好きで、積極的に購入している層です。
今後伸びていくと考えられるのは、最も多い4割を占めるアニメは許容するが、キャラクター商品は購入させない層と、1割の、親が積極的にアニメやキャラクターものに関心がある層です。逆に、4割を占めるアニメもキャラクターもなんとなく子供が望めば受け入れているいわゆる受け身層の減少が考えられます。
今まで、なんとなくの受け身層に支えられバンダイは事業を行ってきましたが、その受け身層が減少し、キャラクターを購入する人、しない人に二極化することで、今後の戦略を見直さなければならない時期にきているといえます。
果たして、二極化、分化していった時にアニメやキャラクター商品の売れ行きにどのような変化があらわれるのかを考えていかなければなりません。
4割の、アニメは許容するのにキャラクターものは購入させない層の母親に、なぜキャラクターものは購入させないのか理由を尋ねると、キャラクターものはセンスが悪く、できれば生活空間に持ち込みたくない。もし、購入した場合でも、一点に集めて部屋の中で目立たないように工夫を行っているということでした。
キャラクターものがあるとセンスを疑われるとまでいう母親もいたほどです。
しかし、その中でもセンスにうるさい母親、キャラクターを敬遠する母親が、受け入れるキャラクター商品もあります。たとえば、昨年誕生100周年を迎えたピーターラビットです。
ピーターラビットは、今まで商品化もあまり活発ではなく、マーチャンダイジング的な観点で見ると地味なキャラクターでありましたが、元々、キャラクター、および商品のクオリティが高く、センスがいいので、キャラクター商品を受け入れない層の母親でも、別物として受け入れられていました。
そこに昨年誕生100周年ということで、高島屋でピーターラビット展を実施するなどプロモーションをかけたところ、多くの人が集まり、1億数千万円の売上があり、絵本キャラクターのイベントでは、異例のセールスを売り上げたのです。まさにピーターラビット現象といえるでしょう。
3)絵本と絵本的なもののブーム
最近、かつての少女文化を支えてきた、「オリーブ」(休刊)、「MCシスター」(廃刊)、「CUTIE」(テイストに変化あり)といった雑誌の人気にも陰りが見え、少女カルチャーが減退していく一方で、地味ながらも「H」の斉藤まこと氏が発起人となった「spoon」や絵本雑誌の「Pooka」(学研)「みずえ」(美術出版社)が好調です。
今までのファッション中心のカルチャーから絵本のような世界観に人が集まるようになり、注目され始めている、移行しつつあるということに雑誌からも気付かさせられます。
4)「PICT.BOOK」の立ち上げ
バンダイでは、絵本の世界に多くの人が集まるようになっている現象に注目し、「PICT.BOOK」という絵本のレーベルを立ち上げ絵本業界に参入していくことにしました。
「PICT.BOOK」という由来は、絵本を英語に訳した「Picture book」から来ているものです。
雑誌の人気からも、若い女性の関心がファッション中心のカルチャーから絵本の世界観に注目が注がれていることに目をつけ、若い女性をターゲットにした絵本を刊行することにしました。
そして、刊行されたのが、去年、一昨年と刊行された「金持ち父さん、貧乏父さん」の装丁で注目されたイラストレーターの長崎訓子さんの絵本と、無名に近い新人イラストレーターの池田まりこさんの2冊の絵本です。
これは、出版された当初は、紀伊国屋書店や青山ブックセンターなどで、フェアを実施されたこともあり、上々の滑り出しを見せました。
しかし、フェア終了後、絵本売り場にもサブカルチャー売り場にも戻れず、売り場を転々とした結果返本という末路を辿ることになりました。
絵本業界では、4〜5000冊売れればヒットいわれますので、決して2冊は失敗とはいえませんが、バンダイという大企業の一部門として見た時、やはり失敗といわざるをえない結果でした。
失敗の要因としては、ターゲットとして若い女性に訴求力が弱く、定着させることが難しかったように思います。
しかし、この失敗が、思わぬ誤算というか、新たなビジネスチャンスを予感させるきっかけを作ってくれたのです。
元々は、若い女性をターゲットにした作品づくりを行いましたが、30代の若い母親も購入してくれ、第一弾の結果は失敗でしたが、思わぬ誤算でターゲットとは別のファン層を獲得できたからです。
特に愛読者カードを見ると、30代の若い母親からの声は、熱く濃いラブメッセージが多くありました。
彼女達の声に耳を傾けると、今までにないセンスのよいこのような絵本を求めている、今回の絵本は年齢層が若めの設定であったが、もう少し上の世代も楽しめる絵本を求めている、といった声でした。
そこで、我々は、若い女性をターゲットにした絵本展開でなく、30代の若い母親、現状の絵本に満足していないセンスのいい母親に向けた絵本展開を行うことに軌道修正を行うことにしました。
5)「くまのがっこう」の発売
そこで、昨年8月に若い母親に向けた絵本展開の第一弾「くまのがっこう」を刊行しました。
コンセプトとしては、「ニュースタンダード」「昔からあった感じ」を掲げました。今までにないものを求めているが、あくまで基本には忠実にし、装丁などでおしゃれとスタンダードのぎりぎりをつくことにしました。あくまで、いきすぎていない感じを大切にしました。
キャラクターにくまを掲げたのも、昔から子供達に人気があるということと、昨年シュタイフのテディベア誕生100周年ということもあり、シュタイフから伝承される伝統、スタンダードさを汲み取り、また新たなくまのキャラクターを誕生させようということもあり、まさにニュースタンダードのコンセプトと合致したからです。
ストーリーも奇をてらったものでなく、あくまでスタンダードで、12匹のくまの兄妹の話で、どのシリーズも前半は同じで、途中からそれぞれある事をきっかけに物語が展開していくというものです。
ターゲットは、若い母親でしたが、さらに細かく的を絞っていくと、東横線沿線上に住み、子供にはキャラクターアパレルなどを着せず、手作り風のワンピースを着せるような母親、比較的裕福な層、アンチテレビキャラクター層の母親です。この層を上手く取り込むことを考えていきました。
そこで、まず「くまのがっこう」のデビューの場をアンチテレビキャラクター層の母子の牙城ともいえる「絵本カーニバル」(来場者3万人)にしました。
「絵本カーニバル」は、バンダイも母子の価値観把握及びオリジナルキャラクター浸透を目的に3年前からイベント協賛を行っている絵本の展示即売会です。
そこで、「くまのがっこう」は、ブースを設け、絵本の世界を体現するコーナーを作ったり、キャラクターのくまの着せかえの人形のコーナーを作ったりして、上手くターゲットとなるアンチテレビキャラクター層の母親の心をつかみ、絵本カーニバルでは、並入る名作を抑えて、売上第一位を記録しました。そして、その後若い母親の間でブームとなり、シリーズ化されました。
2002年8月に刊行された第一弾目の「くまのがっこう」は、現在まで11刷を数え74、000部、2003年2月に刊行された「くまのがっこう ジャッキーのパンやさん」は、9刷65、000部、「くまのがっこう ジャッキーのじてんしゃりょこう」は4刷で30、000部を数え、シリーズ累計で169、000部を数える大ヒットとなりました、
絵本では、4〜5000冊でヒットといわれ、一気に爆発するのではなく、初版は少ないながらも息長く版を重ねていくのが通例といわれる中で、「くまのがっこう」シリーズは思わぬ大ヒットとなったのです。
また、「くまのがっこう」は、ただ絵本を出版するだけにとどまらず、あらゆる方向から読者にアプローチをかけ読者との交流の場を設けました。
たとえば、サイドストーリーを掲載した公式ホームページを開設したり、クリスマスの時期にはクリスマス限定webページを開設したり、幼稚園には絵本を寄贈したり、また売上の一部を「子供地球基金」へ寄付したりと、絵本の世界にとどまらず、あらゆるアプローチを行っています。そのアプローチがアンチテレビキャラクター層といわれる母親の心をつかむ要因になっているのかもしれません。
行ったイベントに関しても、アニメキャラクターのイベントといえば、サンシャインなどが多いなかで、ターゲットとなる層の母親に配慮し、立地にもこだわり、おしゃれママが多く集まる玉川高島屋で実施し、イベントの内容に関しても、展示中心で、くまのがっこうの世界を体現したイスを置いたり、カリスマママと呼ばれる「LEE」のモデルの雅姫さんとタイアップし、サイン会やトークショーを行うなど子供はもちろん、ターゲットとなる母親をも満足させるイベント内容で好評を博しました。2回目の出展となった、「絵本カーニバル」でも、「くまのがっこうのサマースクール」と称し、図画工房を設けたり、実際に本に登場したパンを作るコーナーを設けたり、実際に絵本の世界を体験できるコーナーを充実させ、またまた大好評でした。
また、「くまのがっこう」のグッズも好評で日本の他のキャラクターのグッズに比べ、値段が高めにもかかわらず好調な売れ行きをみせています。
ぬいぐるみ(1800円)、着せ替え洋服(2400円)、おまじないカード(1200円)、ポストカードなどが現在商品化されています。
これらの商品は、値段が高めながらも、縫製がしっかりしていたり、絵が描き下ろしであったりと非常にクオリティが高いものであるため、こだわりを持った母子に売れているのかもしれません。
6)カリスマ・ママ雅姫さんと「くまのがっこう」
「くまのがっこう」の人気に拍車をかけるきっかけともなったのが、雑誌「LEE」で絶大な人気を誇るモデルの雅姫さんと娘のゆららちゃんとの出会いです。
雅姫さんと「くまのがっこう」の出会いは、昨年パルコブックセンターの奥の「LOGOS」で実施されていた「世界絵本フェア」に始まります。「くまのがっこう」は、日本代表の絵本として、出品されており、その絵本フェアに訪れた雅姫さんとゆららちゃんが、「くまのがっこう」を気に入ったことに始まります。
ゆららちゃんは、洋書の絵本を読むことが多いようですが、ゆららちゃんが「ママの好きそうな絵本があるよ。」といって持ってきたのが「くまのがっこう」であり、母子共々気に入りファンになったという経緯です。
雅姫さんは、特にイラストを気に入り、イラストを担当しているあだちなみさんに雅姫さんが経営するショップ「ハグ・オー・ワー」のホームページのイラストをお願いした程です。
雅姫さんは、「LEE」のカリスマモデルでありながら、「ハグ・オー・ワー」という自由が丘の親子服ブランドショップのオーナーであり、成功を収めています。自由が丘の2店目の大型のショップも、連日超満員です。
ショップを始めた経緯もごく自然で、夫である元Jリーガーの森雅彦氏がショップを始めるから私も何かやってみようかなという、軽い気持ちで始めたものであり、その無理をしない自然体が、自然志向、自然体を好む主婦層に受け入れているのだと思います。
ショップで扱う商品もガーゼ素材のもので、自然感の強いものです。
ショップのある自由が丘や近隣の二子玉川には、「ハグ.オー・ワー」の服を着た「ダブルガーゼ族」が溢れています。
彼女の人気は目覚ましく、今春発売された自身のライフスタイルを綴った本も好調ですぐ十万部を突破し、年末には第2弾の刊行が予定されている程です。
また、彼女は、72年生まれで三浦氏が提唱するニセ団塊ジュニア世代であることも注目すべき点といえるでしょう。
彼女の家も築35年の貸家をリフォーム、趣味は球根集め、ガーデニングや庭いじりが趣味というのも「LEE」を支持する自然体を好む主婦層に支持されているようです。
また、お嬢さんのゆららちゃんも読者に人気で、雅姫さんとゆららちゃんの親子で活動している点も魅力になっています。
雅姫さんが、娘のゆららちゃんと露出することで、モデルとは別に母親像も打ち出せ、また生活感を感じさせることで、主婦達が親しみも持ちやすくなるのではないかと思います。
あとで、詳しく後述、比較しますが、同じような世代に支持されている雑誌「VERY」のカリスマモデル三浦りさ子さんと、雅姫さんの違いは、生活感がるか否かにあるように思います。
三浦りさ子さんも、同じJリーガーの妻で、カリスマモデルという立場ですが、彼女はお子さんを誌面に登場させなかったり、自宅も神戸の高級マンション、と生活感を漂わせない、華やか、キャリア妻といった雰囲気がありますが、雅姫さんはまるで逆なのです。
だから、三浦りさ子さんを支持する主婦は、都会的、華やかさを好みますが、雅姫さんを支持する主婦は、自然体、手作りを好む、主婦が多いのです。
「くまのがっこう」を支持する主婦は、後者の雅姫さんを支持する層であり、彼女に影響を受けた主婦が「くまのがっこう」のイベントに目立ちます。
7)ニセ団塊ジュニアママと絵本
ニセ団塊ジュニアの母親というのは、テレビよりも雑誌などの活字で価値観を育んできた、また育った世代であり、テレビに対するロイヤリティが高くないと考えられます。
以前は、子育てといえば夕食の支度中など手の離せない時には子供はテレビ、アニメでもとりあえず見せておけば、などという考えがありました。
そして、テレビのアニメには抵抗があるけど、どうしても手が離せないので、という理由の母親に受け入れられていたのが、ベネッセのしまじろうシリーズでした。しまじろうシリーズは、多くのアニメは嫌だけど、忙しくても手をかけずに教育もしたいという母親のニーズに合致し、一時期は圧倒的なシェアを占めました。
最近では、子供も多くないこともあり、子育てに手をかけたい、ちゃんと手をかけて教育していきたいと考える母親が増えてきています。
彼女達は、自身も高学歴で知的レベルが高く、教育をしっかり受けてきたと考えられるので、自分の納得いくもので、子供達を教育させたい、と考えるようです。
そこで、教育方針にこだわりを持った彼女達の目にとまったのが絵本です。
絵本は、知的レベルも高く、読み聞かせなどを行うので、手間もかかり自分の納得いくものを選んで与えられるという彼女達の利点に合致していたのです。
しかし、そこで問題となるのが、彼女達が求めるような絵本が見つからないということでした。
彼女達にとって、絵本一つをとってもセンスや価値観を表現するものなので、慎重に選びます。
しかし、日本の絵本は、ストーリーでは良質なものが多いのですが、どこか教育的で、装丁などのデザインやセンスに不満を感じるものばかりでした。
日本の絵本、出版業界は、保守的なため、昔からの名作とよばれるものにこだわる傾向が強いのです。
一方の外国作品は、絵本は大人も楽しむものという概念が浸透しているので、デザインやセンスはいいものの、英語であるため、ストーリーに子供がついていけず、本来の絵本の機能を果たせず、コミュニケーションを取れないという不満がありました。
そこで、その両方の利点、不満を解消すべく作られたのが「くまのがっこう」です。絵にもこだわりながら、ストーリーも日本のスタンダードを大事にすることで、両方の利点を合わせ持ちながら、両方の不満を解消し、多くの母親に受け入れられたのです。
雅姫さんのお嬢さんゆららちゃんが「くまのがっこう」に出会った時、「ママの好きそうな絵本があったよ。」という「くまのがっこう」の出会いのエピソードも雅姫さんの趣味と娘のゆららちゃんの母子のニーズを一致させた絵本であったことの証明であり、ヒットした要因であったような気がします。
「くまのがっこう」の登場が日本の絵本業界を変える大きな動きとはいえませんが、「くまのがっこう」が日本の絵本に不満を持つ層に訴えかけられたことは事実であると思います。
8)「くまのがっこう」の基本戦略とニセ団塊ジュニアの価値観
まず「くまのがっこう」を作る上で意識したのが、スタンダードということでした。登場人物もくまで、物語の設定の場、描く内容も学校や兄妹愛などスタンダードなもの、日常的なものにすることで、誰にでも手にとりやすく、感情移入がしやすかったのも多くの人に受け入れられたのだと思います。
愛読者である若い母親の「くまのがっこう」を読んでの感想、購入した理由を聞くと、「デザインがかわいいから。」といった声が多いですが、それと同じ位に学校や兄妹愛が描かれることで、親しみやすく、母親でも物語に感情移入をしてしまい泣いてしまったとか、兄妹愛に思い遣りを感じて感動したなどというストーリーに感動したという声が聞かれます。
奇をてらったストーリーではないものの、感動に飢えている彼女達にとってごくありふれた日常の生活のひとこまの幸せが渋カジを生み出した世代の、シンプルで等身大、飾らないといった価値観に上手くフィットしたのかもしれません。
彼女達は、少し上の新人類、「VERY」を支持する層と違い、物質的なものから得る幸せ、価値観よりも精神的な幸せを支持し、モノよりコトを支持する層であるといっていいと思います。
また、彼女達が「くまのがっこう」を支持する理由としては、一冊の絵本というだけでなく、世界観に共感しているので、商品、広告など絵本にかかわる全てのものが一つの作品であり、宝物になりうるものであるという点が挙げられると思います。
「くまのがっこう」の広告も、絵本同様こだわっており、ボタン1つ1つ手縫いしたものであったり、物語に登場するキルトを実際に作り、展示するなど、一つ一つのものにこだわりを持って取り組んでいる点が、Gショックなどの流行を生み出してきたニセ団塊ジュニアママの価値観、こだわり消費、自分の価値観に合うものしか置きたくない、という価値観に上手くマッチしたのだと思います。
また広告は、母親のみの評判でなく、広告業界でも高く評価されADC賞を受賞するなど、世間一般でも高く評価されています。
おしゃれ観も大切にしながらも、親しみやすさを持たせたことが彼女達の心をつかむ大きなポイントになったと思います。
例えば、物語の舞台は、イギリスに設定されていますが、作者が宮城と岐阜の出身ということで、どこかドメスティックで、おしゃれ感を演出しようにもどこか田舎くささや野暮ったさが残ることは否めません。
しかし、そこが、逆に「ハグ・オー・ワー」を支持するおしゃれだけれども、いきすぎていない、頑張り過ぎていない、等身大、自然体を重視する層に支持される要因かもしれません。
「くまのがっこう」と彼女達の関係性ですが、「くまのがっこう」も彼女達も非常に社会性やチャリティ、環境運動やボランティアに感心があり、同じ価値観で結びついているということです。
例えば、「くまのがっこう」は、売上の一部を「子供地球基金」に寄付したり、チャリティイベントを実施したりしています。
絵本も売上だけ考えるのでなく、社会性を培うことで、ブランドとして確立され強さを持つようになるのだと思います。
人気のきっかけとなった、雅姫さんにおんぶにだっこではなく、「くまのがっこう」をブランドとして育てることで、一つの軸として確立させることが大切だと考えています。
また、絵本が母親が選ぶものになりつつあり、親子コミュニケーションの重要なツールになっていることに注目しなければならないと思っています。
今までは、絵本は子供が気に入ったものを親が最終的にジャッジをして購入するという形が多かったのですが、時代の変化ともいえますが、最近は、親が最初にチョイスをして、子が決めるという購入形態が多いのです。
これは、絵本が母親自身のセンスや価値観を反映するものになっていることと、子供は、団塊ジュニア世代のように新しいお母さん像の若くてきれいでおしゃれなお母さんに憧れ、大好きであるため、母親の価値観に合わせようとする傾向が、絵本の購入形態にも反映されているのではないかと考えられます。
最近の母子は、とても仲が良く、昔は、親子のつながりは、縦社会のようなものがありましたが、最近は、横社会、つまり友達のような関係の母子が増えてきているような気がします。
また、異質とも言えますが、絵本が母親のセンスや価値観を体現するようなものになっているので、母親が気に入って選んだ絵本は、子供に読ませず、大切にしまっている、または2冊購入し、1冊は、鑑賞用にするなど、宝物化されているというようなことも起こっています。
9)LEE時代の到来か
今まで30代の母親のトレンド、流行、価値観を牽引していたのが、「JJ」のお姉さん雑誌として創刊された「VERY」でしたが、「JJ」で育った世代も40代にさしかかり、彼女達は、更に一つプレステ−ジの高い「STORY」に移行しつつあるのではないかと思います。
そこで、これから30代、または少し下の世代を牽引していく雑誌として「LEE」が台頭してくるのではないかと思います。
ブランド志向からドメスティックな自然、手作り志向に流れるのではないかと思います。
価値観に対しても、「VERY」の価値観は、イメージモデルの三浦りさこさんがカズの妻として認識されているように、「会社的価値観」というか、夫がキャリアで裕福か、自分がキャリアを持っているかのような会社的、キャリアを軸に考えられているような気がします。それに対し、「LEE」は、雅姫さんのように、キャリアというよりも自分の尺度で、自分の店を持ったり、コミュニティを大切にしたいという「コミュニティ価値観」に分類されます。
これからは、「VERY」のブランド志向、縦志向よりも、「LEE」のような自然で横につながりを求め、広げていく価値観の方が支持され、時代にマッチしていくのではないかと思います。
また、今までの母親のライフスタイルとの大きな違いは、以前は、どんなにオシャレな生活を送っていても、子供が生まれた途端、母親になった途端、そのオシャレな生活を捨て、自分の価値観を捨て、母親に徹する、母親を演じる、というような母親が多かったのが、今の30代、団塊ジュニアママ世代位から、おしゃれな生活を捨てるのではなく、母親を演ずるのではなく、「母親」を楽しむという価値観が生まれて来たことです。
彼女達の考えでは、今までの生活に子供という新たなコンテンツが加わったという考え方で、一人より、二人の方が色々楽しめることが増えるという考え方なのです。
そこには以前は、選ぶのは自分の服だけだったのが、かわいい子供服やおもしろい玩具などもプラスアルファで選べるというような感覚で、今までよりもより楽しもう!「母親」を楽しもうという価値観が伺えます。
そのような価値観を持った母親が増え、子供服や玩具が自分のセンスや価値観を体現するものになってから、玩具業界にも大きな動きがありました。
バンダイのガシャポンを扱うベンダー事業部は、3年前は、60億円の売上であったのが、今年は100億円にまで売上を伸ばしました。
その背景にあるのは、ガシャポンという子供のものを、大人までもが支持するようになったからです。
ミニチュアもの、フィギアがついたお菓子や、絵本、玩具、アニメ、雑貨、子供服など小さいものに対する人気は、子供だけでなく、大人にまで支持されるようになって、子供のものであってもも大人も楽しめるもの、大人価値と子供価値の融合があったからだと思います。
また、玩具や絵本などの、子供向け商品は、母子のコミュニケーションツールとしての役割を担っているので、子供だけでなく、母親にも受け入れられる商品づくりが大切になってくると思います。子供だましのような、子供だけに受け入れられるような一時的にしか受け入れられない商品づくりでは、これからは難くなるでしょう。
10)「くまのがっこう」の今後
11月12日〜12月25日 玉川高島屋「ホワイトエンジェルプロジェクト」(チャリティイベント)に参加
2004年2月 第4弾「くまのがっこう ジャッキーのおせんたく(仮)」発売
2004年2月 ビクターエンタティメントからCD発売
2004年4月 ボローニャブックフェア出展
2004年度中にアニメーションおよび本格的MDスタート?
今後「くまのがっこう」は単なるキャラクターコンテンツではなく、団塊ジュニアママたちの御用達の「ライフスタイルブランド」を目指しましす。
質問
Q.子供が、だだをこねておもちゃを買ってもらわなくなったのはなぜですか?
また、母親の好きなもの、価値観に合わせるようになったのは、なぜですか?
A. 母親が変わったからだと思います。
今の母親は、きれいになり、かっこいいママ、オシャレなママになりました。そんな母親に子供は憧れていますし、きれいでおしゃれなママが子供は大好きです。
子供は、母親が大好きな上に、周りを伺う習性を持っているので、母親の好きなもの、価値観に合わせようします。
そこで、だだをこねる子供よりも、母親の好みに合わせる子供が増えたのだと思います。
また、母親も今のおしゃれな感覚を失っていないので、子供が合わせているだけでなく、センスや価値観も子供とマッチしているともいえるでしょう。
それに加えて、昔と違い、現在の母親は、高学歴の人も多く存在し、知的レベルも高いので、子供も知的レベルが高く、子供も早熟化しやすい傾向にあります。
昔から子供に絶大な支持を受け、今でも高い人気を誇る戦隊シリーズは、現在のような母子でなく、昔ながらの母親に徹する家庭の子供が多く支持しています。2章で分類した層でいうと、受け身層と呼ばれる人達です。
戦隊シリーズは、現在でもバンダイの柱であり、またそれをを支えてきた層も、バンダイでは、大きなターゲット層ですが、これからその層も変化していくと思います。
Q.これから、一人っ子は増えていくと思われますか?
A.晩婚化が進み、出産も高齢出産が増えてきたこと、また、親自身の自己実現欲求が高まっていることで、今は子供は2人が多いですが、これから一人っ子が増えていくと思います。
家庭だけでなく、仕事などでも自己実現欲求を持っている母親は、出産に2度も休めないというのも現実だと思います。
しかし、一人っ子であるために、一人に多くの時間と手間をかけ、また母子が密着してコミュニケーションを取ることが可能になると思います。
以前は、母と子は縦のつながりであったのが、今は横のつながり、母は親でありながら、友達、アドバイザーを兼ねる存在になると思います。
Q.雅姫さんは、晩婚化、高齢出産が進む中で、早くに結婚され、早くに出産されていますね。
A. そうですね。
モデルさんやスポーツ選手は、一般的に結婚が早いですが、雅姫さんもしかりですね。
しかし、結果的に雅姫さんの場合は、早婚、早い出産が良かった、成功した例であると思います。
雅姫さんを支持する母親は、雅姫さんより子供が小さい人が多いと思います。彼女達にとって、雅姫さんは、お母さんの先輩、子供を生んでもキレイなお母さんの見本、目標としても彼女達に支持されるからです。
また、自然体、等身大を好む世代にとって、自身の経営するお店に関しても、あまりに手広く行うのではなく、あくまで、自然体で、自分の手の届く範囲で行っている所にも支持が集まっているのだと思います。
そして、結果的に自然体で、自分の手の届く範囲で行ったおかげで、成功している。ビジネスとしての才覚も持ち合わせているのだと思います。
Q.新しい絵本を描く書き手の特徴は?
A.消費者は、新しい書き手を求めているのに、作家が足りていないというのが、現状です。供給不足な状態です。
「くまのがっこう」をイラストを描いているあだちなみもストーリーを描いている私も、本職の作家ではないですし、その現状からも作家が不足している状態であることがお分かりになると思います。
だから、今の絵本業界は、絶好のチャンスマーケットともいえると思います。
現在の絵本業界は、50代後半の絵本作家、絵本界の長者と呼ばれる人達が中心です。
最近注目を集めている、酒井駒子さんに至っても、彼女は東京芸術大卒で、芸術色が強く、作品に至っても年に1冊というペースでアート色が強いので、若いお母さんたちのライフスタイルと合致するようなタイプの絵本ではありません。
最近の絵本は、本職の作家が描くのではなく、イラストレータ−が書いて、ある程度の支持は得ていますが、これもまた大きく育つかという観点で見ると難しいと思います。
また、彼等は、マスのトレンド、ヒットを狙うよりも現定数で、自分の好きなこと、手の届く範囲で物事を進めたがるので、絵本界の中心の作家になるのも難しいでしょう。
イラストレータ−は、多摩美術大学色が強いのも特徴です。
今なお第一線で活躍する50代後半の作家以降、30代前後の若い母親に受ける、センスに合う絵本を描ける作家が不足しているのです。
予備軍は、考えられるが、感覚にマッチする書き手が居ないというのが現状です。
Q.「くまのがっこう」を描くにあたって、作家として意識していた所、クリエイティブの狙い所は、どこですか?
A. 基本のフレームを守ることを大切にしています。
どこかで、読んだことのあるような感じを意識しています。
絵本は、ある程度パターン化されているのが常ですが、そのパターンを踏襲し、基本はオーソドックスを守るということを意識しています。
絵本のストーリーは、基本を守るということを大切にしていますが、人形などのグッズに関しては、従来のような大量生産の画一的なものでなく、一つ一つ丁寧に凝った作りにして、クオリティを大切にしています。
また、絵本を読んだ時のリズムも大切にしています。
絵本は、教育的なものであるため、言葉に対して厳しく、正しい言葉、表現を求められますが、私は、使い方が間違っていたとしても、母子が読んで楽しい、子供が好きそうなリズムを入れ込むことを意識しています。子供が口ずさむような楽しいリズムを入れ込むことを大切にしています。絵本も楽しいリズムも挟むことで、何度読んでも飽きず、絵本の読み聞かせ一回一回が経験になり、また大きなブランドになっていくと思うからです。
Q.今後、「くまのがっこう」をライフスタイルブランドとして広げる展望はありますか?
また、アパレルや食品、住宅、自動車との連動はありますか?
A. 住宅メーカーとは、是非やってみたいと思います。
というのも、絵本に出てくる住宅に対して、また家具に対しての支持が高いので、需要があると思うからです。
今までは、もので埋める生活、満たす生活空間でしたが、これもいずれ終わりが来ると思います。
そこで、我々は、絵本をベースにストーリ−性を持ったライフスタイル、キッチンや庭などを提案したいと思っています。しかし、イベントでは分かるさじ加減も、ライフスタイルそのものの提案になると、その物語と、キャラクター性の濃さのさじ加減を難しく感じています。我々は、ライフスタイルをパーツ化し、全体を物語のある空間づくりを行いたいと考えています。
「くまのがっこう」は、日々の日常生活を描いているストーリーなので、物語に出てくる家具なども、実際に商品化して売り出していくことも可能であると思います。
「くまのがっこう」が描く生活は、どこにでもあるような基本的な当たり前であるようで、実は、現在では難しくなっているような生活、当たり前のことができることの幸せ、生活が描かれており、我々が描く普通の生活の理想が「くまのがっこう」の中には、あると思います。
その理想生活をどこまで実際にパーツ化し、実現できるのかが、これから「くまのがっこう」をマーチャダイジングしていく上での鍵になると思います。
consumption メニューへ戻る
|