まず金融危機の影響で企業による資金調達の道が閉ざされてしまったこと。また、連邦議会の議員たちの間でもオバマ大統領のグリーン政策に関しては慎重、あるいは反対の意見の持ち主が数多く控えていること。石炭や石油業界の既得権にしがみつこうとする議員もいれば、SUVのような大型車ばかりを製造し環境対応車の開発を怠ってきた自動車メーカーの救済擁護に血眼になる議員もいるからである。
オバマ大統領が自らの政治生命をかけ実現しようとする環境技術の開発には膨大な予算が必要とされるが、これらの議員たちは自らの関係する業界や企業の救出にのみ関心を寄せている。
アメリカにもGEやファースト・ソーラーなど風力発電や太陽光発電の技術開発に取り組んでいる企業は数多く存在する。とは言え、そうした代替エネルギーを工場や家庭に送り届けるためにはスマートグリッドと呼ばれる次世代電力網の整備が不可欠とされる。そのようなインフラ整備には莫大な資金が必要とされるため個別の環境エネルギー企業で太刀打ちできるものではない。国家レベルの公的資金の注入が欠かせないだろう。
しかし、肝心の国庫は空っぽ状態である。さらなる赤字国債は日本を除けば引き受け手が容易に見つかりそうにない。新大統領はこうした問題の根の深さをどこまで理解しているのだろうか。エネルギー長官に指名されたノーベル物理学賞受賞者であるスティーブン・チュー博士らのアドバイスを得てオバマ大統領もスマートグリッドのインフラ整備に着手することになりそうだ。
オバマ政策に望みを託すヘッジファンド
この点に注目し、新たな投資のチャンス到来と虎視眈々と身構えているのがヘッジファンド業界である。今回の金融危機の影響を受け、多くのヘッジファンドは倒産の波に飲み込まれた。とはいえ、生き残ったヘッジファンドは「廃墟からの復活」をスローガンに掲げ、オバマ大統領が進める「グローバル・グリーン・ディール」に望みを託している。この3月から4月にかけては、ニューヨーク、シカゴ、サンフランシスコ、ロンドンなどで「ヘッジファンドの再編と再生」をテーマにしたセミナーが目白押し。
どのセミナーにも共通しているのが「いかにしてオバマのグリーン・ニューディールから儲けるか」といったアプローチである。具体的には、スマートグリッドの技術で注目を集めるABBや世界最大の風力タービンメーカーであるベスタ・ウィンド・システムズ、ビルのエネルギー管理で実績を誇るジョンソン・コントロールズなど、代替エネルギーやインフラ関連株への期待が高まっている。
とはいえ、実際にこうしたインフラが効力を発揮するには少なくとも5年から10年の時間が必要とされる。そこまでアメリカの労働者や企業の体力が持つのだろうか。大いに懸念されるところである。もし、それができれば、アメリカは大量消費経済のスリム化に成功し、新たな環境重視社会に移行するチャンスを手にするだろう。失敗すれば、ロシアが描く「アメリカ分裂」というシナリオが現実のものになりかねない。どちらに進むにせよ、2009年が正念場であることは間違いない。
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