社会不安も高まる一方だ。いくら公的資金を注入し、環境にやさしい産業を創出すると言っても、時間差を考えれば、焼け石に水と言わざるを得ない。しかも、政府が検討している予算は1500億ドルに過ぎない。これはAIG1社を救済する名目でオバマ政権が用意した金額と変わらない。
もともとこの環境重視政策の発端は2008年7月にイギリスのグリーン・ニューディール・グループがまとめた提言にある。いわゆる成長至上主義を前提とする強欲資本主義を改め、経済のみならず自然環境にも配慮した持続可能な経済発展のあり方を模索しようとするものであった。
そのレポートの中心に据えられた時代認識は3つの危機を前提としていた。
第一が当面の金融危機。第二が地球規模の気象変動という未曽有の環境問題。そして第三が価格の乱高下が著しいエネルギー問題。これら3つの危機に対して「一石三鳥」ともいえる解決策を探り出そうとするものであった。言い換えれば、代替エネルギーの開発による新たな市場の創出と雇用の拡大を目指す戦略である。
このイギリスのレポートに刺激を受けたオバマ政権は、これこそアメリカ経済の復活にとって欠かせない戦略と見なしたようである。ほぼ同じ時期、国際エネルギー機関(IEA)も気象変動やエネルギー危機に対処するのみならず、世界経済を活性化するためにも今後2050年までに温室効果ガスを50%削減するとの目標を掲げ、45兆ドルという空前の投資を伴うグローバル革命を提唱したものである。
イギリスのブラウン首相やフランスのサルコジ大統領もこの提案を積極的に支持した。その影響もあり、2008年10月には、国連において 「グリーン経済イニシアチブ」 と題するレポートがまとめられた。パンギムン国連事務総長もこのレポートに沿う形でオバマ新大統領のグリーン・ニューディール政策に期待する声明を発表。ドイツのシュタインマイヤー外相もオバマ政権の環境重視策を積極的に後押しする姿勢を見せている。まさに「グローバル・グリーン・ディール」と呼ばれるゆえんであろう。
オバマ流「グローバル・グリーン・ディール」はアメリカ再生の切り札となるか
このように世界が直面する3つの危機が互いに影響し合いながら深刻度を深める中、その回避策としてビジネスのグリーン化に対する期待が、オバマ大統領という新たな救世主の登場というタイミングに一致する形で高まってきたと言えよう。
とはいえ、オバマ氏の掲げる政策にはまだ透明性や実現性に欠ける点が多々ある。これまでに打ち出された政策の中味を見ると、「2050年までに温室効果ガスを8割削減する。再生可能エネルギーの開発に1500億ドルを投資する。結果的に500万人のグリーン雇用を生み出す」といった具合で、一見すると、IEAや国連の提案より大胆なものに思われる。
確かに、夢のある政策ではあるが、金融危機の影響下でこうしたオバマ流の公約がどこまで達成できるものか怪しい限りである。太陽光、風力発電、バイオ燃料など、代替エネルギーの開発に資金を投入しようとするベンチャーキャピタルはいずれも青息吐息の状況でかつての力強さを失っている。それどころか当初の計画を無期延期したり、企業自体が破綻するようなケースも相次ぐ。こうした状況の下、「大盤振る舞い」とも「社会主義的」とも批判される環境エネルギー政策が成功する可能性は極めて低いと見なさざるを得ない。
スタンフォード大学の土木環境工学科のステファン・シュナイダー教授といえば、国立大気研究センターの研究員として気候変動に関する調査研究で実績を上げ、この分野における国際的権威。同教授いわく 「オバマ政権はブッシュ政権と比べれば、環境政策においてはるかに進んだ発想を持っていることは否定できない。しかし、我々が望んでいるような成果をもたらすかどうか多いに疑問の余地がある。なぜならあまりに多くの障害が目の前に立ちはだかっているからだ」。
肝心の国庫は空っぽ状態
では、具体的な障害として何があるのか。