警察庁の08年の統計で自殺者がまた3万人を超えた。月別のデータでは、金融危機が深刻化した10月の自殺が最多になり、空前の不況の影響もうかがえる。今年に入っても自殺者は増加傾向で、関係者からは危機感もにじむ。
97年に山一証券が破綻(はたん)するなど、98年にかけての金融危機の時には、自殺者数は約35%も急増。以来、連続で3万人を超え高止まりの状況が続く。特に同年3月は自殺者数が3265人(厚生労働省統計)で、前月より一気に約1000人増え、関係者に「98年3月ショック」と呼ばれる。
自殺対策に取り組むNPO法人「ライフリンク」(東京都千代田区)の清水康之代表は「決算期をむかえ、失業や倒産を迫られる人が増えるため、例年3~5月は自殺者が多い。経済悪化による自殺への影響がこれから深刻化する恐れがある」と指摘する。
「もう自殺するしかないと思って」
清水代表のもとに先月、思いつめた声で電話がかかってきた。
東北地方の40代後半の男性。3年前、詐欺にあって職を失い、今年1月には頼みの派遣先からも解雇された。多重債務の状態を妻に知られ、夫婦仲もこじれた。「自分が死ねば生命保険が出る。死ぬ準備をしている」
最後の方は息が乱れ、言葉に詰まった。
うつの症状が疑われ、精神保健福祉センターを紹介したが、雇用対策や借金返済の問題は別の窓口を探さなければならない。
清水代表は「失業や多重債務だけでなく、うつ病や家庭不和など複数の要因が重なっているケースが少なくない。ワンストップで支援できる仕組みが必要だ。運良く情報に接した人の命だけが救われるようなことがあってはならない」と訴える。
また、自殺問題に詳しい高橋祥友・防衛医大教授(精神医学)は「日本の自殺者は40~50代男性と高齢者に多いのが特徴。中年男性や高齢者が孤立しがちな環境を変える対策が必要だ」と訴える。【長野宏美、清水健二】
日本いのちの電話連盟は10日、24時間の無料電話相談(0120・738・556)を実施する。午前8時から翌日午前8時まで、研修を受けたボランティアが相談に応じる。匿名の相談も可能。全国各地には一般回線の「いのちの電話」もあり、電話番号の問い合わせは同連盟(03・3263・6165)。
毎日新聞 2009年4月2日 東京夕刊