2009年02月24日
(会報 未来ユートピア・ポリティカル・レヴューvol.10より)
小売業界においては「社会主義」だった
商店街をどう活性化させるかということで、政府として対策を講じ始めたのは1973年の大店法制定が始まり。ダイエーやイトーヨーカドーのような全国展開のスーパーに対する危機感から生まれた。その後、改正され、既存の小売業者の許可がないと中心市街地や駅前に出店できなくなった。結局、大店法は廃止されたが、それに代わって「まちづくり三法」が制定され、大型店が郊外に出るのを事実上禁止した。
これらの動きは、社会主義的政策としか思えないものだ。行政によって「店を出してはいけない」と命じることができる。日本は自由主義と言いながら、小売業界においては社会主義国家であることが判明した、というのが一連の商店街活性化策だ。
まちづくり三法は06年に改正され、今度は、中心市街地に大型店を誘致しようという趣旨になった。これまでの商店街活性化政策の問題点は、商店街の方々が自助努力の精神を失っていたということと言える。
商店街の衰退は自己責任。各商店が繁盛店に生まれ変わるしかない
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そもそも、なぜ街の中心部にある商店街が「シャッター街」になってしまったかというと、顧客が来なくなったからということは明白だ。顧客はどこに行っても構わないので、自由意思で郊外の大型店に行くようになった。商店街を活性化させるために第一点目に必要なのは、自己責任を自覚し、行政に頼ってはいけないということだ。
行政そのものの経営がうまくいっておらず、赤字経営をしているということは、行政に商店街の“経営再建”を頼んでもうまくいかない。二点目に必要なことは、商店街の中のそれぞれの小売店が意識改革し、繁盛店に生まれ変わっていくしかないということだ。顧客を郊外店に取られたということは、郊外店のほうが魅力があった。周りにダイエーやイトーヨーカドーがあっても繁盛している店は繁盛している。大型店の存在とそれぞれの店の商売繁盛とは関係がない。
商店街に、自分たちの力で何とかしようとする企業家が必要
結局、商店街の活性化に必要なのは、アイデアを出して行動する人だ。これを経済学では企業家と呼ぶ。この企業家の出現が求められている。商店街から企業家が出ないかぎり、何の解決にならない。企業家というのは、「他からもらおう」などと考えず、いまあるものから価値を生み出そうと努力する人間のこと。全国の商店街を見れば、企業家は意外にたくさんいる。成功している商店街は、まず何人かが音頭を取って、アイデアを出し、自分たちの力で何とかしようとしている。旗振り役、行動をする人がカギを握る。
企業家が商店街からどんどん登場するためには、ネックになるのがさまざまな規制や保護だ。商店街として目的法人をつくり、資金調達し、配当までしたいというときに、さまざまな規制に引っかかる。こうしたものをなくしていかないといけない。
保護するのではなく、逆に競合店を増やせ
商店街の中から繁盛店を出すためには、競合店を増やすという方法が重要だ。いい商店街は、競争が常に促進され、結果としていい店が残る状態にある。既存の米穀店や豆腐店に対して、新しい米穀店、豆腐店が参入してくると、危機感を感じてサービス合戦が始まる。
もし既存の商店主が「これ以上、自分でやっていくのはきつい」ということならば、テナント商法に転換し、大家さんになればいい。既存の商店を全部生き残らせようとすると、商店街そのものが生き残れない可能性があるので、入れ替えていくべきだ。撤退と新規参入をしやすくする仕組みが重要になる。テナントになった店に、全国的に有名なナショナル・ブランドのチェーン店が入ってくることができれば、商店街にとってもメリットが大きい。
商売の原点に戻り、顧客を創造せよ
シャッター街の商店の方々に、もう一度、商売の王道に戻っていただきたいと言うしかない。客が店に入って来ないということは、素通りしてしまっているということだ。いかに時代の流れについていっていない商売をしていたかということを示している。もう一度商売の王道に戻り、売り手の立場を守るのではなく、お客様を創造していくことが求められている。
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ピーター・ドラッカーは、「顧客はみずから創り出すものだ」と言っている。行政がつくってくれるわけでも、社会がつくってくれるわけでもない。自分でつくるのが商売なんだと言っている。顧客が減っているならば、顧客を創り出す努力が少ないか、その方向性がずれているかだ。
顧客を創り出すマーケティングとイノベーション
顧客をみずから創り出すときに、ドラッカーは二つのことが必要だと言っている。
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一つはマーケティングだ。日本語で言うと営業活動。これをセールス(販売活動)と混同する人がいる。マーケティングとセールスは全然違う。セールスは「在庫がこれだけあるから」「売り上げ目標があるから」と、顧客の都合に関係なく売るというものだ。
マーケティング(営業活動)は、「顧客がほしいものを、どうやったら準備できるか、ほしいタイミングで提供できるか」を研究し、行動することだ。商店街でも、そこに来る人がほしいと思うものを売らないといけない。
シャッター街となっていった商店街はほとんどの場合、セールスをやっている。「どうやって売ろうか」を考えていても、「どうやったら顧客のニーズに対応できるか」という点での努力が薄かったのではないか。
顧客を創り出すために必要な二つ目は、イノベーションだとドラッカーは言っている。ニーズに対応するために、製造、流通、販売をどう変化させていくかということだ。マーケティングとイノベーションを常にやらないかぎり、顧客はどんどん消えていくということを知らなければならない。
マーケティングとイノベーションには、“お上”を頼りにするという発想が一切ない。あえて行政が助けるとすれば、商店街の方々への経営教育だ。経営を指南できる講師を呼ぶ部分については市町村の予算でやっても構わない。それぞれの商店が繁盛店に生まれ変わるためには、最終的には経営教育が最も大事になる。
商店街をよみがえらせるには、商店主が自分たちで立ち上がらないかぎり解決しない。死に物狂いになった何人かに他の人が賛同し、全体が動き出す。“お上”に頼らない企業家、資本家の登場を期待したい。(談)