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たった1%の賃下げが99%を幸せにする

献本に添付された編集者の手紙によると、著者(城繁幸氏)は当ブログの読者だそうだ。私も著者のブログをたまに読んでいるが、意見はほとんど同じだ。しかし大手メディアでわれわれのような意見を公言する人はなく、ウェブでも他には赤城智弘氏ぐらいだろう。

著者も書くように、橘木俊詔氏も樋口美雄氏も「非正規雇用の問題を解決するには年功賃金をやめる必要がある」という点では一致している。日本の解雇規制が強すぎることが非正規雇用の増加の原因になっているという事実は、政府機関であるOECDでさえ繰り返し指摘している。これは学問的には今さら論争するまでもない常識だが、労働経済学者はあまり発言しない。解雇規制を緩和しろというと「非人間的だ」とか「大企業の手先」などと罵倒されるから、もう懲りているのだ。

非正規労働の問題を雇用規制の強化によって解決しようとするパターナリズムが、与野党にも厚労省にも強い。彼らの発想は、『蟹工船』を持ち出して「階級闘争」を語る共産党と同じだが、これは笑止千万だ。日本は欧米に比べれば、階級格差の少ない社会である。アメリカの大企業のCEOの平均報酬は1420万ドル。日本の30倍以上だ。

しかし著者もいうように、いま日本は新しい階級社会になろうとしている。新卒で正社員になれなかった若者は、一生フリーターで暮らすしかない。労働人口の1/3を占める非正規労働者の賃金は正社員の半分で、この格差はどんなに努力しても埋められない。ロスジェネ世代の非正規労働者は技能を蓄積できないまま高齢化し、そろそろ40代になろうとしている。こうした「高齢フリーター」は無年金・無保険であることが多く、このまま老人になったら生命の維持も危ぶまれる。最大の階級格差は、正社員と非正規労働者の間に生まれているのだ。

「アゴラ」にも書いたが、日本の潜在成長率が低下している最大の原因は労働市場の硬直性だと思う。それは失業者や非正規労働者を生み出しているだけでなく、衰退産業から成長産業への労働移動をはばみ、労働生産性の低下する最大の原因となっている。非正規労働を単なる雇用問題とみて場当たり的なバラマキを求める「派遣村」的な温情主義は、問題の解決にならない。それは古い産業構造と雇用規制の生み出したひずみであり、規制改革を行なわないかぎり長期衰退も止められない。
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