タイトルの通りです。時事通信電に基づいてあれこれ考えた先日のエントリー、
●李長春に説教されながら、その靴を念入りに舐めていた面々。(2009/03/31)
……について、追加情報などがありますので続編をば。
まずはその時事通信の記事の冒頭を改めて出しておきます。
「良好な世論を作る」
という点に「2ちゃんねる」では激しく反応している模様ですが、中国報道との付き合いが長いせいで感覚がすっかり麻痺してしまった私は、
「いつもの調子だな。やれやれ」
と、つい流してしまいました。
……いや、マヒだけではありません。日本だって新聞やテレビの世論調査なんてアテになるものかどうか、実に怪しいものではありませんか。状況に応じて数字を創作しているとか、同業他社との「談合」で足並みを揃えて「世論を作る」ことに努めている可能性を考えると、これは中国国内メディア並に信が置けません。
さらにいえば、中国国内の出来事に関して中国国内メディア、反体制系メディア、そして日本のマスコミという三者の報道内容をつき合わせて比較検討する作業(余暇の娯楽)をごく日常的にやっていると、作為的かどうかは別として、日本のマスコミによる中国関連報道の遅さと浅さ(紙幅という制約は三者とも同様でしょう)に辟易することが珍しくないからでもあります。……あ、ド素人のくせに生意気言ってすみません。(・∀・)
まあそんな訳で、「良好な世論を作る」という李長春・党中央政治局常務委員(宣伝担当=「世論作り」の仕切り屋)の言葉もつい流してしまった次第。……なのですが、「良好な世論を作るよう努力してほしい」という李長春の肉声が記事になったことには注目すべきですね。時事通信の果断によるものならまだいいのですが。……いやいや、こんな記事1本を出すのに度胸が必要だとすれば、その情けなさはどうしたらいいのでしょう。
より恐ろしい可能性として、日本の大手マスコミ掌握完了の「勝利宣言」として、中国様から「世論を作る」と書いていいぞ、とのお許しが出たことを示すのであれば救いようがありません。……ということを、あながち与太話として笑い飛ばせないから嫌になります。
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さて私の場合、上に掲げた時事通信電の冒頭でむしろ引っかかったのは、
「都内のホテルで夕食を共にしながら懇談」
という点です。どっちが主でどっちがゲスト?……てなことが気になりまして。日本の大手マスコミによる歓迎レセプションなのか、李長春が各社を呼びつけたのか。
するってーと、当該エントリーをupした後にそれが明らかになりました。新華社に次ぐ官製通信社である中国新聞社が3月31日の夜に配信した記事に、
「他還會見、宴請了朝日電視台、共同通訊社、朝日新聞社等十四家日本主要媒體負責人」
という一節があったのです。和訳すれば、
「彼はまた、テレビ朝日、共同通信、朝日新聞など日本の主要メディア14社の首脳を招宴し会見した」
という意味。主語である「他」(彼)は李長春のことですから、「宴請」という単語によって日本の大手マスコミ14社のお偉方が呼びつけられて説教された、ということがわかります。
●李長春與日本主要媒體負責人交流並提三點建議(中国新聞網 2009/03/31/20:02)
http://www.chinanews.com.cn/gn/news/2009/03-31/1626786.shtml
ちなみに「説教」というのは揶揄しているのではなく、本当にそうなのですから唖然としてしまいます。言明ではなく「厳命」。……というのも、「民す党」さんが前回のコメント欄で教えてくれた人民網日本語版とチャイナネット(CRI)の記事に日本語でしっかり書いてあるのです。
李常務委員は両国のメディアに対し、次の3点で引き続き努力するよう求めた。
(1)両国人民間の相互理解と信頼を促し、「真実・全面・客観的」の原則と責任を負う姿勢に基づき、両国関係や相手国の状況を報道すること。
(2)両国関係の発展の方向と主流を正しく把握し、両国関係の大局に立ち、各分野における両国間の互恵協力を積極的に促し、各分野における両国間の協力の強化にプラスとなるニュースを多く報道し、両国の戦略的互恵関係の推進にプラスとなる情報を多く提供すること。
(3)両国メディア間の交流や協力を一層強化し、引き続き「北京-東京フォーラム」をしっかりと開催し、「中日メディア対話活動」をしっかりと実施し、率直で誠意ある、踏み込んだ、理性的な対話にプラスとなる新たなルート、新たな形式を創出し、両国人民の理解増進のためのプラットフォームの構築に努め、両国の共同発展の実現に貢献すること。
●李長春常務委員、日本の主要メディアの首脳と面会(人民網日本語版 2009/04/01/14:34)
http://j.people.com.cn/94474/6627092.html
命令形ですよ命令形。これに対し日本の大手マスコミは、
席上の各メディアの代表たちは、「日中関係の安定発展を促進することは、両国国民の共通の願いで、メディア分野の歴史的な責任でもある」と示しました。
●李長春委員、14社の日本メディアの責任者と会談(チャイナネット 2009/03/31/22:19)
http://japanese.cri.cn/881/2009/03/31/1s137915.htm
要するに「ははーっ」「御意」などと平伏したことになっています。……あ、李長春による命令3項が明らかになったので、くどくなるのを承知の上で今回も当ブログのいう「中共語」を並べておきます。
●「対話」→「中共の言い分の押しつけ」「中共からの命令伝達」
●「協議」→「中共の言い分の押しつけ」「中共からの命令伝達」
●「協力」→「中共への奉仕」
●「平和」→「中共による制圧下での非戦時状態」
●「友好」→「中共に従順」
●「交流」→「中共の価値観の押しつけ&軽度の洗脳」
何と申しますか、主従関係の構図がしっかりと出来上がっていることに呆れて物も言えません。そりゃ大事な取引先であれば丁重に対応するのは仕事の世界であれば当然のこととはいえ、丁重な対応と主従関係は明らかに別物。つまり「日本の大手マスコミは中国共産党中央宣伝部の下請け会社」という位置づけで宜しいのでしょうか?
……そう考えると、時事通信の記事も中国側の「勝利宣言」に思えてきてしまいます。orz
一応明らかにしておきますと、上の「人民網日本語版」による記事で14社の顔ぶれが明記されています。テレビ朝日、フジテレビ、日本テレビ、NHK、日本経済新聞社、毎日新聞社、TBS、読売新聞社、中日新聞社、産経新聞社、共同通信社、テレビ東京、時事通信社、朝日新聞社……とのことです。
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まあお偉方はお偉方で、第一線の記者たちは内心忸怩たる思いがある、と考えたいところです。「特定アジア」ならぬ「特定メディア」は確信犯ですから,別として。
もう記事化されているのかどうかは知りませんが(重大ニュースのときは別ですが、普段の私は電子版オンリーです。「下請け」にカネを払う必要を感じていませんので)、香港の親中紙『大公報』電子版によると、外国人記者団が中国当局(国務院新聞弁公室)のお膳立てでチベット自治区・ラサ市を訪れるという「取材ツアー」が3月29日から3日間にわたって行われました。
招かれたのはインド、ロシア、南アフリカ、日本の4カ国から大手マスコミ5社の記者6名とのこと。記事の最後に「匿名を条件に……」と日本の記者が登場するのですが、せめてこの「匿名を条件に」が精一杯の抵抗であってほしいものです。……もっともこの記者氏、
「今回組織された取材活動はスケジュールの手配が大きく改善されており、北京五輪を開催した経験がはっきりと生かされている。中国がどんどんオープンになりつつあるという印象だ。ラサに3日いたが秩序は保たれていて生活も日常そのもの。みたところ緊張した空気はなかった」
と語っていますから、まずは親中メディアにおいて「下請け」の役目を十分に果たした、といえるのですけど。
●六外國記者走訪拉薩嘆西藏變化(大公網 2009/03/31/20:17)
http://www.takungpao.com/news/09/03/31/_IN-1058211.htm
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そういえば李長春は厳命パーティーを開く前にNHKと読売新聞を見学したことを忘れずに書いておきましょう。当の『読売新聞』が実にいやらしい記事を出していますので。
「李氏は党内序列5位で、思想・宣伝部門を担当する有力者」
との一節に「大物がウチに来たんだぜ。どうだ凄いだろー」という自慢げなノリが凝縮されていて、そりゃ下請け会社とそのトップたるニャベツネとしては自らを誇りたいのでしょうけど、こちらは読んでいて胸が悪くなります。
……ええ、もちろん嘔吐感を覚えた皆さんのために当ブログはお口直しを用意してあります。「サーチナ」の記事ですが翻訳屋だの中共の手先などという勿れ。私はいつも、結構重宝しているのです。
今回は電波系メディアの論評に編集者のコメントが加えられている記事をどうぞ。本文たる論評記事は中国人による対日認識の典型例ともいえるもので、これだけでも必読モノなのですが、ここではその文末に添えられた編集者のコメントを抜粋しておきましょう(本文の方も是非御覧あれ)。
編者の私見ではあるが、1840年に始まったアヘン戦争から考えれば1世紀以上の時間を経て、大国・強国としての地位を確立しつつある中国に、日本人がとまどいを覚えているのは事実。しかし、日本人の中国に対する不満の主たる原因は、さまざまな分野で繰り返し、「危うさ」を実感させられるからだと考える。
特に、上記文章での、日本のメディアを批判するような論調は、理解に苦しむ。問題が発生した場合、それを報じるのはメディアの役割りだ。誤報や虚報はもちろん論外だが、ニュースの価値と読者・ユーザーのニーズを判断して、記事の論調、出稿量を自主的に決める。もちろん、発行部数や視聴率、世論の動向を考えるあまり、情報発信に特定の傾向が生じるという問題点があることは、否定できない。
しかし、中国は外交において「平和五原則」を一貫して主張している。その中の「相互内政不干渉」は主として、異なる体制を認める意味だったはずだ。言論や出版の自由は、日本国憲法で保障されている。つまり、日本の体制の中核的部分のひとつだ。上記論説はメディアの主張に過ぎないが、中国政府高官もときおり、「日中関係に不利」などとして同様の批判を行なう。この点は、納得がいかない。
●中国対日感:日本にある「中国になめられるな」の感情(サーチナ 2009/04/01/20:38)
実に健康的な感覚ではありませんか。李長春に呼びつけられ説教されたマスコミ14社には、会見を報じなかったところ、ただ報じただけのところ、そして「世論を作る」に言及した時事通信という3通りの反応がありましたが、要するに黙秘でなければ垂れ流し。広報紙ですか?それとも機関紙?
中共政権により密着した立場である「サーチナ」の、この編集者が示したような本来あるべき報道のカタチを踏んだメディアはひとつもなかった、ということです。取材者としても報道者としても失格ではないかと思わずにはいられません。
おしまい。