新年度初日、エープリルフールと思いたくなるような「過去最悪」の日銀発表である。3月調査の「短観」は、昨秋以降の景気の落ち込みが、今年に入り一段と加速したことを印象付けた。だが同時に「底なしに悪くなっていく」との空気が緩みそうな気配も感じ取れる。企業には、いずれ訪れる「回復」をにらんだ攻めの準備を期待したい。
足元の景況感は、特に輸出型の大企業で急激な悪化が目立った。財務省の貿易統計によると、日本の輸出額は前年同月比で1月が46%減、2月が49%減とほぼ半減状態が続いている。特に2月の自動車輸出は7割も減った。3月短観を見ると、自動車業界(大企業)の景況感がマイナス92と際立って悪化している。12月調査時の3月の予想値であるマイナス68を大幅に下回り、輸出激減のショックの大きさを物語っている。
とはいえ今回の短観に、小さいながらも明るい兆しが点在しているのも事実だ。例えば、先行きの業況判断が大企業製造業で約3年ぶりに改善した。自動車と電機は10ポイント前後の改善幅である。09年度の利益予想や雇用の過剰感の予想を見ても、底打ちの兆しがうかがえる。東京市場の株価もプラスに反応した。
もちろん、まだまだ不確定要素が多いし、新規雇用の増加や所得の改善に展望が持てるようになるまで時間もかかりそうだ。失業率は一段の悪化が心配されている。政策による下支えは当分の間、手を緩めてはならない。回復の可能性を現実のものにするためにも、国内の景気対策に加え、アジアなど新興国の経済をしっかり支援することが大切である。
企業の経営者や従業員は、連日のように聞こえてくる「100年に1度の危機」という言葉に、過剰反応することはない。国内外を問わず、これまで挑戦してこなかった市場の開拓や、持ち前の技術を商品価値の向上にいかす工夫を続けてもらいたい。まだまだ活用できていない人材や国際的に競争力の高い技術が埋もれているはずである。
1日、多くの企業で入社式があった。「現在の難局は新たな発展を遂げるチャンス。次の成長に向け積極的な挑戦を始めている」。大坪文雄パナソニック社長の訓示は回復を見据えた動きを感じさせる例の一つだ。今後、こうした傾向が鮮明になり横にも広がっていくことを期待したい。金融機関には、成長の芽を積極的に見いだし、資金面から支える役割が求められている。
多くの日本企業が2度の石油危機や急激な円高など、困難のたびに強くなって復活を果たした。今度もそうなる可能性を信じたいと思う。
一番暗い夜明け前が勝負時だ。
毎日新聞 2009年4月2日 東京朝刊