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現下の経済危機は文字通り世界を一変させた。激震が続く中、20を超える国や欧州連合の首脳らがロンドンに集まった。新しい時代に合わせた「G20サミット」という新しい枠組みによって、危機の克服に取り組む。
21世紀に入って、世界経済のグローバル化は一段と加速した。これを推し進めたのが米国の金融力と、世界中からモノやサービスを買い込む借金体質だった。米国への輸出で世界各国が稼ぐ。輸出でためた資金が米国へ流れ込み、再び世界中へ投資される。盤石に見えたこの体制は「金融帝国」とすら呼ばれた。だが、米国を震源とする金融危機ですべてが暗転した。
昨年9月のリーマン・ショックから半年。世界中が信用収縮でカネ詰まりになった。自動車ローンなど消費者金融も冷え込み、米国が借金をテコに世界から輸入する循環が逆回転を始めた。世界中が深刻な需要不足に陥り、各国の輸出産業は深手を負った。日本の輸出はほぼ半減してしまった。
国際通貨基金(IMF)の予想では、09年は第2次大戦後初めて世界規模でマイナス成長になる。世界貿易機関(WTO)の推計では、ここ30年間にわたり拡大を続けてきた世界の貿易が、09年は9%も落ち込む。これも戦後最大の減少である。
■存在感高めた新興国
国際労働機関(ILO)は、09年の世界の失業者数が最悪の場合、2億3千万人に達する可能性があると見る。2億人の大台を突破すれば初めてのことだ。まさに1930年代の大恐慌以来の異常事態である。
米国中心の枠組みが崩壊していくショックを最小限に食い止め、世界経済をどう立て直すのか。この課題に取り組むには、先進国クラブによる「G8サミット」では力不足だ。危機で「炎上」しているのは、何より先進国だからだ。一方、中国やインドなどの新興国は急成長し、21世紀に入ってその存在感を大いに増している。
昨年11月にワシントンで急きょ開かれた初のG20サミットは、まさに時代の要請だった。
では、不況の暴風が吹き荒れるなかで開かれるロンドン会議は、危機にどこまで立ち向かえるだろうか。
金融システムの崩壊を防ぎ、財政出動で不況の深刻化を食い止める。これらの最優先課題に、各国はすでに取り組みを進めている。だが、不協和音も聞こえてくる。
財政出動について、国内総生産(GDP)の2%という規模を米国が各国に求めている。日本が同調し、中国も歩調を合わせている。逆に欧州は、将来の財政負担への懸念などから追加策には慎重だ。G20では数値目標の提示は見送り、対立を表面化させない方向だが、火種は残るだろう。
■道は長く険しいが
いちばん難しいのは、保護主義を阻止することである。昨秋のG20では、世界各国による貿易交渉(ドーハ・ラウンド)を昨年内に合意させることと、向こう1年間に各国は保護主義的な措置をとらない、という点で合意した。それなのに、この両方ともがすでに反故(ほご)になってしまった。
関税引き上げのほか、環境や安全を名目に輸入を制限する動きが相次いでいる。景気てこ入れに当たっては、自国の産業や雇用の維持を優先せよとの要求が強くなってきた。失業などで社会不安が高まれば、どこの政府も「自国優先」の圧力に抗し難くなる。
恐慌から保護主義が世界へ広がり、ついには第2次世界大戦を起こしてしまった歴史を忘れてはならない。
社会不安を防ぐために、各国とも弱者に配慮する必要がある。そのうえで、機会があるごとにG20の結束を確認して、保護主義的な措置をとることのないよう、互いに自制し牽制(けんせい)していくことが大切だ。
金融の規制・監督体制を再構築する問題でも、規制を強調する欧州と慎重派の米国との距離は大きい。
G20が結束して危機克服にあたろう。そう唱えてはいるものの、現実には難事業だ。それでも、新しいG20の枠組みを生かして各国のエゴを抑え込み、協調を引き出して、課題を一つずつ解決していく以外に道はない。
G20の結束をもっと強める必要がある。そのためには、利害が一致しにくい先進国と新興国、途上国との間に、求心力が生じるような方策を考えたい。IMFの改革を、その契機にできないだろうか。
■IMF改革が試金石
いま中欧・東欧諸国が資金不足に陥り、金融危機を再燃させかねないと懸念されている。資金を補うのがIMFの役割だが、こうした事態が続発すればIMF自身の資金が不足する恐れがあり、G20でも資金力の強化がテーマのひとつだ。そこで、中国など新興国はIMFへの資金拠出を拡大し、発言力を高めたいと願っている。
渡りに船のはずだが、最大の出資国である米国は、影響力が低下するのを嫌い消極的だ。G20初登場のオバマ米大統領には、多極化した世界にふさわしい指導力を発揮してもらいたい。IMF改革が試金石となるだろう。
ロンドン会議で目ざましい合意や対策が決まると考えるのは、楽観が過ぎよう。だが、ここから始まる長い過程が未来を左右する。日本経済の本格的な回復も、そこにかかっている。