岡山市はきょう、政令指定都市という新たなステージに立った。名実ともに中四国の拠点都市へ飛躍を果たすチャンスである。
全国で十八番目、中四国では広島市に次いで二番目の政令市だ。都道府県並みの権限を持つ政令市は、半世紀近く前の岡山県南広域都市構想の時代からの悲願だったといえるかもしれない。
岡山市は、周辺市町村との合併で市域と人口を拡大してきた。政令市の人口要件が百万人から七十万人に引き下げられたのを機に二〇〇二年、周辺の自治体と政令市構想の研究会を立ち上げた。玉野市の離脱など曲折はあったものの、〇五年以降、御津、灘崎、建部、瀬戸町と合併し、要件をクリアした。
だが、全国の他の自治体と同様に市財政は苦しく、約七千億円の借金を抱える。日本経済も困難に直面している。環境的には厳しい政令市の船出といえる。
分権を先取り
市は岡山県中央児童相談所に職員を派遣し、業務を引き継ぐ準備をしてきた。虐待が疑われる家庭の見守りや子どもの一時保護などに携わり、ノウハウを習得した。市が受け継いだ事例は約三千件に上る。
新たに国・県道計六百七キロの管理も市の担当になった。これまで国や県任せだった豪雨時の幹線道の通行止めの判断などを市職員が迫られるといった場面も増えてこよう。
政令市移行に伴い、市は県から千五百七十二項目に上る事務事業を譲り受けた。市民の命や安心・安全にかかわる業務が、数多く含まれる。
住民生活に直結する仕事は、一番身近な行政組織である市町村が担うのが最も合理的だろう。しかし、根深い中央集権体制の中で、実際にはそうなっていなかった。政令市への移行で権限が増えることは、分権の先取りという見方もできよう。
市職員は、仕事の質的なステージが一段上がるという意識を持たなければなるまい。前例踏襲主義などは排除したい。住民の側も行政任せでなく、まちづくりに積極的に参画する気概を持とう。
メリット実感したい
住民が参画意識を高めるためにも、政令市になったメリットを実感できる施策展開が市に求められる。
四つの区と、区役所ができた。住民票の交付をはじめ各種手続きの迅速化は当然のことだ。〇七年に政令市となった新潟市の世論調査では「区役所だけで必要な手続きができる」が移行効果を感じさせる事項のトップだった。
区役所は、各区のまちづくりを担う総合拠点と位置づけられている。住民の意見を集約し、活性化策の実施拠点とならねばならない。事業の計画、決定、実施までのスピードアップも期待される。
最近まで別の自治体住民だった人々が合併を経て同じ岡山市民となった。一体感の形成も重要課題だろう。例えば市街地の子が周辺部での環境学習など通じ地元の子と交流する機会を増やすといった地道な策が役立つのではないか。住民の一体感は行政との協働意識もはぐくもう。
ただ、厳しい財政状況で市は行財政改革にも取り組んでいる。ポイントを押さえた施策展開が欠かせない。
人や企業呼び込め
何より岡山市は政令市移行を機に人や企業を呼び込み、拠点性を高める取り組みを進めなければならない。
岡山市には高速道路網が整い、瀬戸大橋に通じる。三千メートル滑走路を持つ岡山空港もある。交通結節点の強みは言われ続けてきたことだ。全国政令市の中で人口十万人当たりの医師数で三位、大学生数で五位、図書館の貸出冊数では二位など、医療や教育環境も高い水準にある。
市は政令市への移行に当たって「水と緑が魅せる心豊かな庭園都市」「中四国をつなぐ総合福祉の拠点都市」という新しい都市ビジョンを掲げた。だが、多くの人たちは明確な市の将来像を描けないでいるのではないか。理想の都市像を具体的に肉付けしていく施策が必要だろう。
岡山市の「格」アップは、中四国の雄県をめざす岡山県の将来にも直接かかわる。今後、道州制論議が具体化していこう。新たな道州の州都を担う意気込みで、歩みを進めていきたい。