大学での受動喫煙対策のありかた

 

SGU050044

 

1. はじめに 

受動喫煙対策には、大きく分けて二つ方法がある。一つは全面禁煙で、もうひとつは完全分煙である。全面禁煙とは、言葉どおりすべての場所において完全に禁煙することである。完全分煙とは喫煙室などの喫煙スペースを設け、そこでのみ喫煙を認め、喫煙室以外での喫煙を禁止することである。私は完全分煙に反対である。非喫煙者に喫煙者が煙を吸わせることを傷害につながると考え、それを防ぐためにコストを支払い、喫煙室を設けてまで完全分煙を行うことに疑問を覚えること、そして、学習の場である大学で学習能率をさげる恐れのある喫煙を認めるのは非効率であると考えるからである。

 

2. 受動喫煙問題

ここ数年公共施設や、交通機関、職場などで、受動喫煙対策がされているところが、よく見られるようになった。そのような受動喫煙対策が見られるようになった背景には、受動喫煙の危険性に対する認識が高まってきたことや、健康増進法が制定され、管理責任者に受動喫煙対策が義務付けられたことがある。大学もそのひとつである。そもそも、なぜ受動喫煙対策をしなければならないのか。それは、非喫煙者がタバコの先からでる煙である副流煙や喫煙者が吐き出す煙を吸うこと、つまり「受動喫煙」を防ぐためである。「受動喫煙」のひとつである副流煙は、主流煙よりもつよい毒性が指摘されていて、約200種類の有害物質が含まれている。産業医科大学産業生態科学研究所(2000)は、「肺がんに対するリスクレベルでは、受動喫煙には、安全レベルまたは閾値レベルがないことが明らかとなっており、112本の喫煙であってもリスクが高くなります。」としている。また、肺がんのほかにも、心筋梗塞や、狭心症、肺がん以外のがんなど、さまざまな病気になるリスクを高めている。また、不快感や、ストレスなど、メンタル面への影響も指摘されている。

 

3. 受動喫煙対策は何のためか

私はこのような非喫煙者に煙を吸わせる行為が、傷害罪につながるのではないかと考える。通常人を殴れば暴行罪になる。そして、その人が怪我をした場合に傷害罪になる。人に傷害を与えたから傷害罪になったのである。では、これだけ健康被害が証明されている受動喫煙は傷害とは言えないのか。充分傷害につながると言えるはずである。つまり、喫煙者が非喫煙者に煙を吸わせるということは、喫煙者が非喫煙者を殴っているのと同じようなものといえるのである。これを防ぐために、コストを支払って喫煙室を設けるということは、非喫煙者が喫煙者に殴られないために、喫煙室を設けているということになる。人が理由なく殴られないで、傷害を受けない権利は当然の権利である。しかし、自分が人を殴るようなことになるものを摂取する権利があるのだろうか。あったとして、その権利はコストを支払ってまで守られるべき権利なのだろうか。喫煙者は自分が喫煙したいのだからコストに文句は言えない。では、非喫煙者に、煙を吸いたくないならコストは仕方がないと言えるのか。非喫煙者に暴力を受けない権利が当然にあるのであれば言えないはずである。傷害を受けないですむというのは当然の権利であり、普通の状態である。つまり、喫煙による煙の被害を受けないというのが当然の状態で、コストがなければ手に入れられないことではないはずなのである。タバコの被害を受けないことが当然ということは、全面禁煙ではなく、喫煙室を設けて完全分煙にするということが、非喫煙者を煙から守るためではなく、喫煙者が、本人の体にも害しか及ぼさないタバコを吸うのを助けるためということになる。そのようなことが必要な理由があるのだろうか。

 

4. 全面禁煙は権利の侵害になるのか

完全分煙にすれば、タバコを吸う人の権利も守られていいじゃないかという人もいるかもしれない。確かに全面禁煙にすると、法律で認められているものを完全に禁止することは権利の侵害だという人がいるだろうし、完全分煙にすればタバコを吸う人の権利も守られるかもしれない。しかし、そもそも喫煙室はトイレなどと違い、当然用意されるべき必要なものではないのではないか。喫煙室が必要な理由は、喫煙したいという人がいるからである。それを禁止したところで権利の侵害にはならない。なぜなら、大学は喫煙をするための場所ではないからである。ボーリングをしたいという人がいて、構内でボーリングを始めれば、危険なのでやめさせられる。この時、ボーリングをすることは法律で認められているのだから、禁止するならボーリングをする場所を作ってくれと言われたら、作らなければいけないのか。作らなければ権利の侵害になるのか。当然大学にそのような義務はないので権利の侵害にはならない。喫煙したい人の問題でも同様のことが言え、権利の侵害を理由に完全分煙のほうがいいということにはならない。

 

5. 喫煙による学習能率への影響

喫煙が学習能率を低下させる恐れがあることも問題である。阿部(2003)は、「常に一酸化炭素中毒ですので、脳への酸素供給は減り、さらに動脈硬化もすすむため、日本人に多い脳血管性痴呆が発生しやすいのです。」としている。脳血管性痴呆までならなかったとしても、脳への酸素供給が減り、動脈硬化がすすめば、頭の回転が鈍くなり、学習能率はさがるはずである。学習することが目的である大学で、休み時間などにおいて喫煙をして、頭の回転を鈍らせていたのでは、充分な学習ができなくなる危険性があるのではないか。

 

6. 結論

このように、私は大学において傷害を与える危険性があるタバコを吸う権利が、当然守られるべき権利ではないと考えている。全面禁煙の状態こそが普通の状態であり、完全分煙を行って喫煙室などを設けることは、受動喫煙対策の本来の目的である、煙から非喫煙者を守るためではなく、喫煙者がタバコを吸うのを助けるためということになると考える。学習能率を低下させる恐れがあることを助けるような対策を、コストを支払ってまですべきではないので、大学においての受動喫煙対策は全面禁煙が適切である。

 

 

<参照文献>

阿部眞弓(2003)『禁煙科の医者が書いた7日でやめる本』青春出版社

産業医科大学産業生態科学研究所(2000)『喫煙の科学−職場の分煙テキストブック』労働調査会